黒雷姫③
ナハトを受け止めたヨルムが、私の方を見て頷いたのを確認して、そういう事なのかと理解する。
つまりナハトは安全だからこのまま引き返せ、そしてそれをやったのはアイネだと。
ずっと周りを見回して警戒しているガルドナル将軍は、疑いや質問があるにも関わらず、反対もせずに黙って付いて来てくれている。
そんな将軍には悪いが、それ程大人になり切れない私は、ガルドナル将軍に黙って付いて来てくれた理由を尋ねてみる。
「不審な事ばかりなのに、どうして信じて付いて来てくださるのですか?」
「確かに不審な事も、王が私めに隠し事をしている事も分かっておりますとも。ですが私は王を守る騎士、王の御心を乱す事が使命では御座いません。それに貴女様は決して悪い事はなさらない人です」
「成程です、やっぱり素晴らしい騎士ですね。娘さんと一緒に居て分かってはいましたが、将軍に似ていたのですね」
「はっはっは、これは気恥しくもあり、嬉しくもありますな。そこまで褒められるとは思っておりませんだ故」
大きな声で笑ったガルドナル将軍は、馬の方向を変えて本隊の方に進み出す。
その後ろに私が続き、背中をナハトを抱えたヨルムが守ると言う、行きとは逆の隊列となる。
ナハトが引き起こした混乱の際に、今はどこに居るかも分からなくなった2種族が出てこない事を祈り、最短でパレス王国に帰る事の出来る山道を駆け抜ける。
駿馬を揃えたからか、予想していたよりも早く本隊に追い付く事が出来た。
「クライネ王、獣人種と龍鱗種が引いて行きます。ナハト殿の攻撃が響いたのかと思われます」
「それは良かったです、私たちも多くの被害が出ました。次来られたらもう壊滅でした」
「そんな事を言ったらダメよクライネちゃん、騎士を導くのが貴女の務めなのよ~」
「う、はい。軽率な言葉でした、気を付けますね」
「ここから休まずに飛ばすと深夜には到着するけど〜、休憩しないと皆持ちそうにないわね〜」
「ですね、途中1度休憩を入れましょう」
本隊と合流して再びパレス王国に向けて速度を上げ、気を失いそうになる騎士たちに声を掛け続け、何とか1人も脱落者を出さずに休憩地点に到着する。
今はもう状況がどうなっているかすら分からないが、パレス王国騎士を追撃する敵は来ない事は分かる。
天幕の中に人を集めて今後の為の軍議をしていると、隣の天幕に寝かせていたナハトが入って来る。
入口で一礼したナハトは、覚束無い足取りで私の脇に立つ。
「まだ寝ていて下さいナハトさん、ガルドナル将軍から聞きましたが、随分と大量の魔力を放出していたらしいですよ」
「いえ、私の役目はクライネ様の近衛です。いついかなる時も御守りします」
そう言ったナハトに対して、分隊長が勢い良く立ち上がり、敵意の乗った眼差しを向ける。
「まずは王に謝罪ではないのか! 王のお陰で被害は最小限に抑えられたが、お前は何人の仲間を殺した!」
「その点については申し訳なく思っています、ですが今ここは軍議の場、私の謝罪で時間を割く場ではありません」
「やめて下さい2人とも。ナハトさんが悪くないとは言いません、ですが彼女の言葉は最もです。ここは軍議の場、謝罪は出る前にして頂きます。その為に休んで下さいナハトさん」
再び低頭したナハトは天幕から出て行き、まだ納得が行かないという顔の分隊長は、小さな声で何かを呟きながら座る。
その後軍議を続けた結果、まずは殉死者の確認、そして帝国の意向を確認し、帝国に対しての考えを決める。
天幕から少し離れ、川辺で1人空を見上げていると、足音が背後から聞こえる。




