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聖断の刻⑦

龍人種と人類連合が衝突した翌日、あれ程大勢居た人類は10万程に減っていた。

犠牲者の殆どが帝国に従った諸国だったが、決して帝国軍が消極的だったからではない。


それとは逆に、自分の何倍もあるドラゴンに対して勇猛果敢に立ち向かい、勝利や相討ちが多かった。

幸いアイネに足止めされている内に人類連合が撤退する事になり、パレス王国の犠牲者は1人も出なかった。


人類連合の敗北で終わった初戦の影響で、平原まで後退した人類連合の士気は、殆ど皆無の状態まで落ち込んでいた。

そんな最悪の状況に、敵襲来の笛が遠くから響く。


「飛龍ですクライネ様、恐らく追い打ちをかけるつもりでしょうね」


私の後ろに乗って手綱を離したナハトは、槍を携えて馬から飛び下りる。

空を見上げながら左手を剣の柄に添えると、時間が一瞬飛んだかと錯覚する様な速さで抜刀し、瞬間移動の様に現れた飛龍の鋭い爪を剣で止める。


「クライネ様を狙った事、後悔なさってください。百閃一刀ひゃくせんいっとう


バラバラになった飛龍の血を浴びたナハトは朱に染まり、アイネを思わせる白い髪は見る影もない。

続けて来た飛龍をそれぞれ受け止めたチェリーとリュリュも、同じく確実に絶命させてからこちらに来る。


「大丈夫みたいだね、こんなにバラバラにしたんだ。心配性だなナハトは」


「クライネ様に何かあっては駄目ですから、確実に一撃で仕留めないとね」


「川があったら水浴びでもしよう、血で全身が濡れてるじゃないか」


「うん、全身が気持ち悪いから早く浴びたい。汚すといけないから飛んでいくね」


そう言うと背中に光の翼を生やしたナハトは、進行方向に向かって遠くなっていく。

普段から大人しい彼女だが、少しだけ違和感を感じた気がした。


何かから目を背けようとするような、何かを悔いている、あるいは大きな何かを抑えているような。

当然長い年月共に居るチェリーとリュリュも気付いていたが、不安を振り払う様に獲物に付いた血を振って飛ばす。


「クライネ、龍鱗種と半獣種が人類連合に宣戦布告した。その部隊が前から来てる」


相変わらず黒い書物を持った青年だが、1人でも馬に乗れるようになっていた。


「今衝突すると確実に負けます、分隊長たちを全員集めて下さい」


「いや、その役なら俺に任せてくれ。勝てないかもしれないけど、足止めくらいなら出来るからな」


「勝たなくても良いんです、負けながら少しずつ撤退しましょう。私たちが横を通過したら撤退を開始して下さい、無理をしないで下さい」


「丁度試してみたかったんだ、聖書バロンってこの魔導書を」


「読めるページが増えたんですね、少し見せてもらっても……」


青年の手の中にある聖書バロンに指先が触れると、自分の中の大きな何かと聖書の大きな何かがぶつかり合い、私を中心にして何本もの雷が降り注ぐ。

その場に居た全員が頭を下げて地面に伏せ、霹靂が過ぎ去るのをじっと待つ。


「あぁぁぁあぁぁ!」


「ヨルムさん!」


雷がヨルムによって掻き消されたが、鋼よりも丈夫な鱗を焼き、傷口から噴き出した血が熱により固まっている。

息を荒くしながら私を視界の真ん中に置いたヨルムは、幻でも見たように目を揺らしてから口を開く。


「トールちゃんの龍力がなんで……その力も量が大き過ぎて、人じゃ作り出せない筈なのに」


「すみませんヨルムさん、私こんなことになるだな……」


「決めなさい、人として生きるか、ドラゴンとして生きるか、神として生きるか。人のままだと死ぬけどね」


「それは悩み抜きました、答えだらけでこまりましたけど、私はやっぱり人として生きていきます。例え死んでしまっても信念は貫きます」


ヨルムが展開していた魔法を翼で吹き飛ばすと、雷によって討たれたであろう獣人が姿を現す。

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