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聖断の刻⑥

アイネから身を守るために貰った牙を、まさかアイネ自身に向ける日が来るとは思わなかった。

僅かに暖かく感じるナイフを左手で持ち、非力な私でも振るえる様に調節した、刀身が本来の半分の剣を腰から抜く。

3人の側近のお陰で今は目の前のアイネに集中出来るが、ここに長居もしていられない。

アイネは雷を手の中に剣として形を留め、体の前に剣を構える。


「のう、来ぬのか」


暫く睨み合っていてしびれを切らしたのか、気を使われる様に聞かれる。


「アイネさんからどうぞ」


「一撃で終わってしまうではないか」


「なら私から行きます」


教わった通りに腰を落として踏み込むと、訓練よりも良い斬撃が繰り出せた。

剣で気を逸らして死角からナイフを振るが、読まれていたかの様に対応されてしまう。


アイネの牙なら、ナハトたちみたいに雷が使えるかもしれないと思い念じてみたが、案の定何も出てくれない。

このまま膠着状態になると思ったが、突然ドラゴンに姿を変えたアイネの大きな腕が、地面を削りながら襲い掛かる。


剣を盾にして受けてはみるが、容易く地面から足が離れて木にぶつかる。


「大丈夫かクライネ、怪我とかは無いのか」


人の姿に戻ったアイネが掌を合わせて駆け寄って来て、心配そうに私の体を隅々まで見ている。

脳がくらくらしたままよたよたと出ると、抑えきれなくなったのか、衝撃を与えられずに受け止められる。


「敵の心配なんてしてないで、真剣勝負に応えてくださいアイネさん」


「すまん、怪我は無いのか」


「ありますよ、あんなに豪快に吹き飛ばされたんで……」


足下が突然光り輝き、リュリュたちの傷を癒した光の柱に包まれる。

光が消えると同時に、それまで自分の中にあった戦意も消える。


「すまん、悪いと思っておる。だからもう次は全力で行く」


「最初からしてください、私も全力で行きます」


落ちていた剣を拾って腰を落とすと、アイネは剣を前に突き出して構える。

踏み込もうと足に力を入れた瞬間、アイネの剣の切っ先に集まった雷が虚空を駆け巡り、真正面から直撃させられる。


呆気なくやられたのを木の隙間から見える空を見上げて拗ねていると、体の中にずっと雷があるような違和感が残っている。

満身創痍で動かなくなったのを見て心配になったのか、不安そうな顔のナハトが駆け寄って来る。


「動けますか?」


「駄目っぽいです、抱っこ」


「はい、そのつもりでした」


「お願いします」


「あの、私何かにその様な言葉遣いは困ります。王は王らしくなさって下さい」


「慣れないので善処しますとだけです、さぁ抱っこ」


私をお姫様抱っこで持ち上げたナハトは馬に跨り、優しく馬を森の外に走らせる。

空を見上げていても零れそうになる涙を隠す為にナハトの胸に顔を埋めると、小さな手が頭を優しく撫でる。


「アイネさんを止められませんでした、また人を殺す為に飛んでいってしまいました。強くなりたいです」


「大丈夫ですよクライネ様、私たちも微力ながらお力添えをします。まずは自分に合った武器探しですね」


「お願いします、まずはこの戦を乗り越えましょう。指揮は将軍に任せてありますので安心だと思いますが」


「はい、おやすみなさいクライネ様」


眠気が顔にまで出ていたのか、ナハトはアイネを思わせる優しな笑顔を向けてくる。

その笑顔に私も笑顔を返すが、眠る寸前だった為、上手く笑顔を返せたかは分からない。

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