ポべートール②
「では全ての種族を答えてみてください」
「人類種、森精種、墜精種、地精種、獣人種、龍鱗種、龍人種、魔翼族、天翼種、半獣種、半精霊種……」
「アラクネ、アルラウネ、淫魔、鬼人種、吸血種、アンデッド、セイレーン、エキドナ、豚頭鬼、屍喰鬼、そして魔法生物です」
「多くないですか？」
「えぇ、多いですね。でも全部覚えてもらいますからね」
半分以上出てこなかった種族は、殆どが会った事の無い種族ばかりで、正直どんな姿をしているのかすら分からない。
それに加えて神や悪魔も居るのだから、この世界は本当に広い。
それに加えて今日のターニャは凄く機嫌が悪い。
原因は昨日の出来事が大きい。
この勉強と剣術の稽古から逃げ出てずっと遊んでいた為、ミズルド親子をずっと待たせてしまっていた。
ガルドナル将軍は許してくれたが、ターニャにはそうはいかなかった。
「昨日すっぽかした分、今日は一緒に受けてもらいますよ」
「はい……ごめんなさい」
人の思考を読んでいる様に笑顔で言ったターニャに謝るが、止まっていた手の横にナイフを突き刺す。
木を押し退けて自立したナイフがより怒りを醸し出していて、角でも生えていそうな勢いだ。
そう思ってターニャの顔を見上げると、笑顔に反してナイフの隣にもう一本ナイフを突き刺す。
「私の顔に答えが書いてありますか？」
「書いてないです」
「ですよね、やって下さい」
「これ以上分かりません」
答案を見て困り顔になったターニャを見ていると、講堂の扉が開けられる音がした。
扉の方に振り向くと、ポべートールが階段を下りてこちらに来る。
「世話になったねー そんじゃ俺は帰るから、じゃあなー」
そう言って霧のように消えたポベートールを見送ると、不正解の多い答案を返される。
「今日はここまでです、次は稽古なので剣の準備をして下さい。逃げたらお仕置きですからね」
「分かってます、行ったら良いんですよね」
「ではお疲れ様でした、今お茶を淹れますね」
机の上に出された紅茶を一口運んで、アイネの牙で出来たナイフを手入れする。
枯れる前に押し花にした白い花を眺めていると、どうしてもアイネを思い出してしまう。
それにポべートールの言っていたことも気になり、何とも言えない不安が余計に膨らむ。
部屋に籠って出て来ない軍師の部屋に行こうと立ち上がるが、ターニャの言葉を思い出して練兵場に向かう事にする。
中庭で目を瞑って座っているエルを見かけて、少し高い渡り廊下の窓を開けて飛び降りる。
