守るべきものの為
使者の代表が向かいに座る接待室で、側近の三人と使者の側近が睨み合う。
雰囲気からしてよい話ではない証拠に、この部屋の空気は普通では考えられない程の空気が漂っている。
偉そうに足を組んで座る代表は、側近が持っていた剣を無言で突き出す。
それを見て後ろの三人が小さく声を出し、少しだけ動揺し始める。
「あの意味は何でしょうかナハトさん」
三人の中でも一番しっかりしているナハトに耳打ちすると、小さな声で私の耳に話し始める。
「あの剣を帝国が置いていくと宣戦布告をした事になります。それは一世からの伝統で脅しです」
「ありがとうございます」
「それで、パレス王国は参加しないつもりなのか？」
痺れを切らした男が剣を机に荒々しく置いて、答えを催促する。
「この国はまだそんな事が出来る程……」
「従うか滅ぶか選べって言ってるんだ！」
「ならば従いませんし滅びません！ この国はその戦争とは無関係です、この剣を持ってお引き取り下さい！」
「それが貴様らの意思だな！ 我が王に報告してこの国を真っ先に潰してやる！」
剣を置いたまま怒り心頭で去っていった使者を見送って、急遽集めた議会員にまずは頭を下げる。
誰ひとりとしてこの国の未来が見えない顔をして、どうこの問題を切り抜けるかを考える。
その空気を切り裂くように部屋に入って来た少年は、議会員を無視して私の膝の上に腰掛ける。
唖然として開け放されたドアを見つめていると、遅れてエルが部屋に入って来る。
「ミルドレット様議会の邪魔をしては……申し訳ありませんクライネ様」
「邪魔しないでよエル、私はずっとお姉様にお会いしたかったんだから」
エルの手を払い除けて私の腰に手を回したミルドレットは、私の顔を見上げて幼い笑顔を向けてくる。
「可愛いですね、どこの子でしょうか？」
「私はね、ヴァカンツァ王家の次女なの。長女はお姉様なの」
私を指さしたミルドレットは、真っ直ぐ私だけを見つめている。
何をしたら良いか分からず何となくにこにこしていると、エルが困った顔で私たちを見ている。
「ごめんなさい、後で遊びますので今はエルと遊んでいてもらって良いですか？」
「嫌、エルは私に勉強しかさせてくれないもん。もっとお庭で駆けっことかしたいの！」
頬を膨らませて火を吹きそうな程の勢いで喋ったミルドレットは、意地でも私から離れる気が無いらしい。
「困りましたね」
「申し訳ありませんクライネ様……」
「なら私が行きますエルさん」
側近の中のひとり、一番大人しいクローチェが控えめに入って来る。
「チェリー！ 私も遊びたい！」
その後ろからクローチェに抱き着いたのは、三人の中で一番元気なリーリアだった。
「ひゃぁ！」
「あわわ」
「リュリュ、走ると危ない」
支え切れずに倒れた二人の後ろから、一番不思議な雰囲気を纏うエコーが入って来て、二人に手を差し出して引っ張り上げる。
エコーの手を掴んでぴょんと立ち上がったリーリアの服についた埃を、エコーは手で払う。
「いたたたた……申し訳ありません陛下、お見苦しいところを、それに重ねて御前で御無礼を働い……」
「早く駆けっこしよー！ 行くよミルドレット様！ 二人も早く」
嵐のように過ぎていった四人が部屋から退室すると、取り残されたエルが静かに頭を下げて扉を閉めて退室する。
