怪しい青年②
牢獄棟に入って捕えられた青年の元に行くと、相変わらず何かに取り憑かれた様に本を読んでいる。
その青年が入れられている牢の鉄格子を掴んで、薄暗い中に薄らと浮かぶ顔をよく見てみる。
「あのー、私はクライネと言います。龍力を使ってあの光を放ったんですかー？ アイネさんが何処に居るか分かったりしますか？」
「知らないけど、この本を解読できる人は居るか」
そう言って読んでいた真っ黒な本を手渡されて、開いてみるが読む事すら不可能な私には全く分からない。
どうしようかと眺めていると、ターニャのスカートの中が光る。
「あれ、ファフニールの短剣が」
そう言ってアイネが自分の牙で作っていたナイフと同じようなものが出て来て、黒い本から文字が浮かび上がる。
浮かんでも読む事が出来ない為ターニャに押し付けて、もう一度ターニャに視線を移した青年に問い掛ける。
「アイネって言う髪の長い人を知りませんか？ 綺麗な男の人なんですけど、喋り方はおっさんぽくて」
「あぁ、それなら捕まる前まで一緒に居たけど」
「どこにいますか？ 是非臣下にしたいのですが」
「そんなにすごい人たちなのか？ そんな事よりも取り敢えず出してくれないかな」
「あ、良いですよ」
「クライネ様!?」
ぱんっ、と本を閉じて反対と言う顔をするターニャを手で隠して、看守を呼んで青年を釈放させる。
大きく伸びをした青年はターニャから本を取り返して、浮かび上がった文字を読み進める。
「何て書いてあるんですか？」
隣を歩いて青年に聞いてみると、私を一度見てまた視線を戻す。
「分からない、けどこれは媒介みたいなものだと思う」
「王よこんな所にいらっしゃったのですか……ッッッ今すぐその本を置いて両手を上げなさい！」
剣を抜いて切っ先を青年に向けたエルは、アイネを伏した時と同等の殺意を纏う。
殺意は鎧の様にエルを包み込んで、実際に身を守る鉄となる。
それに従って両手を上げた青年の前に立って、足が震えないように奥歯を鳴らす。
それを見て私の前に立ったターニャを見ると、青年は楽しそうに笑い出す。
「何で俺なんかに、出会ったばかりなのに面白い奴らだな」
「貴方に敵意はありませんし、その魔法は貴重です」
困っていたエルだったが、諦めた様に溜め息を吐いて剣を地面に刺す。
「承知致しました。もう少しだけ様子を見ます、ですが王に何かあったら即刻極刑です」
踵を返して剣を仕舞いながら去っていったのを見送って、本を拾って青年の手の中に戻す。
「この国の軍師になりませんか？ 頭がキレる人ですから是非欲しいです」
「あぁ、助けてもらったしそれ位なら良いぞ」
「よしっ、じゃあ早速巡回の続きに行こー」
二人の手を引いて牢獄棟から駆け出して、前を歩いていたエルを捕まえる。
「王よ、何をなさるのですか」
「巡回です。エルも強制参加です」
「私はまだ仕事が残っております、牢獄棟に行ったのは報せがあったからで……」
「文句があるならターニャを通してからにして下さーい」
そうして加えた二人を連れて四人で巡回していると、中庭で多くの人が集まっていた。
その中の人をひとりひとり見ていると、信じられない光景が飛び込んで来た。
