淡い夢の終わり
アイネが目の前で倒れた日から、数日間の間私には記憶が無い。
森でアイネが倒れたまでは覚えていて、その後に自分も恐らく気を失ったのも何となく分かる。
それからこの城に連れてこられるまでの記憶が、私の中からぽっかりと抜けている。
あの街に戻ろうにも、記憶の無い私は道に迷って倒れてしまうだろう。
恐らくはそれを見越しての処置で、アイネを倒した騎士の計算なのだろう。
手の込んだ装飾が施された服を着せられ、宿とは違う大きくてふかふかなベッドで目が覚めた。
そして部屋には黒と白の服を着ている女性が、私に朝の挨拶をしてそのまま笑顔で立っている。
部屋のドアがノックされると、間を置いてアイネを倒した騎士が部屋に姿を現す。
「よくもぬけぬけと……」
その騎士に対して怒りをぶつけるが、眉一つ動かさずに膝をついて低頭する。
「お目覚めになりましたか王よ、本日は戴冠式の御予定がありますので。ドレスの着付けはそちらのメイドに……」
「煩い! 私を早くアイネさんのところに返して下さい、私は王なんかじゃなくてアイネさんの生贄です」
「おやおや、あの小さなドラゴンですか。まだ小さいながら凄い力でしたよ、ですから研究材料にする為に魔導棟に拘束致しました」
「メイドさん? 魔道棟に案内して下さい」
そう言うとメイドは私と騎士を交互に見て、困惑の声を漏らす。
立ち上がった私の行く手を阻む騎士は、温かさが欠落した瞳を私に向ける。
殺意に背を撫でられた様な感覚が体を這って、本能が駄目だとブレーキをかける。
それでもアイネに会いたい私は、拳を固く握って騎士を睨み返す。
「そこを退いて下さい」
「出来ません」
「私がもしも王なら、貴方は私の命令に従うべきです」
「王の愚行を正すのも騎士の役目。この命に変えてもこの国を正しい方に向かわせます」
無機質な瞳の奥底にある揺るがない意志が、私目掛けて真っ直ぐ向けられる。
こんなに固くてはっきりとした意志を見た事が無い為、少しだけ気魄に気圧される。
「分かりました、その戴冠式っていつからですか?」
「王が準備出来次第始めます、既に国民は城の前で王のお姿を拝もうと待っております」
「メイドさん、お願いします」
「お分かり頂けて良かったです。では、私は失礼致します」
立ったまま低頭した騎士は、踵を返して纏っている鎧を鳴らしながらドアを開ける。
「待って、名前を聞いてませんでした」
「エリュード・ライオットです、呼び方はどんなものでも構いません。では、失礼致します」
最後まで丁寧に頭を下げて部屋から出て行ったエリュードを見送って、準備をしていたメイドの前に立つ。