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CREATE LEGEND  作者: 星月夜楓
序章 世界の統治者
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第五説 転校生

前回のあらすじ

ユナから出現した邪神。俺は本来の姿となり、一振りで消し去る。その後、振り切れた彼女は俺に告白してきた。

「好き、か」


「うん……色々と気持ちの整理が出来たんだ。夢の中で、私が誰かに乗っ取られそうになった時、智覇彌が助けてくれた。でもそれは現実でも同じ。たった一日の事だけど、智覇彌は私の中で一番大きな存在になった。夢に出てくるくらいに。今日一日胸が苦しくて何だろうって思ったんだけどきっとそれが好きなんだって。それ以外ないもん。だって、今言ったらすうっと引いていったから」


「そうか」


「聞いていいのかな……智覇彌は私のことどう思ってる?」


「俺は……」


 俺は恋愛に対して極端に臆病だ。理由は簡単で、恋愛とは俺の中では精神に異常を来していることだ。もし俺が特定の人物に対して恋愛感情を持ってしまえば、今の環境は崩れ去ってしまう。恋は盲目と言う。故に俺は恋愛をしないようにしてきた。難しい問題だ。そう……こうやって考えた事は過去に何度もある。その度に涼太から引く手数多だと言われる。或いは鈍感。違う、俺は朴念仁などではない。ましてや聖人君子でもなく……ただの臆病者だ。臆病であるが故に此処まで環境を整えてきた。それを一つの偏った考えで崩したくはない。


 確かに彼女は魅力的だ。でなければあの時助けるはずもない。俺はどこかで彼女に淡い想いを抱いている。それはわかっている。だがそれを口にする事はできない。


 俺は俺である前に、世界を支える財閥の長として生きなければならない。


 そうやって逃げてきた。俺は誰からの理想の人間ではないのだ。


 恋愛とは、本当に異常なものだ。今現在、俺はこうやって悩んでいる。唯一と言ってもいい。これほどまでに悩む事はこれ以外ないのだ。


「……もし、応えられないのなら、良いよ。まだ一日目だもん。これから一緒に生活していくんでしょ。その中で私を見て欲しい。まだ世間知らずだけど、ちゃんと勉強して少しでも私のことを意識してもらえるようにする」


「ああ……すまない」


 彼女は俺よりもずっと強かった。そして救われるのだ。


「引き止めてごめんね。それじゃあまた明日」


「明日……」


 異常なのは今ではないだろうか。そう思うまま俺は部屋を出て、浴場に行った。




 髪、体を洗い流すことで悩みも洗おうと思っていた。何故、これほどまでに締め付けられるのだろう。やはり、彼女を特別に思い抱いているからだろうか。今までならこれで終わりだったはずだ。


「何か思い悩んでいるようで」


 その時、縁が入ってきた。抜け目がない。


「いや……」


「流しましょうか」


 俺は断り、自分で流した。自分のことは自分で解決する。そういう意思表示だ。


「助言くらいはしますよ。貴方様の見ていない世界を、私は見ていますから」


 MPCや俺自身に備わる知識よりも経験が豊富な縁はやはり俺の師だ。俺が分からないことも言ってくれる。


「その時は頼む」


「今、ですよ」


 ニッコリと彼は笑う。


「はぁ」


「大方ユナ様の事でしょう。もし彼女の事が気になるのであれば、そうですね。一度彼女に尽くしてはどうでしょう。会社の事なら大丈夫ですよ。私がどうにかしますから。それに、貴方様の分身も動きますし」


 話が少し変わるが、分身とは、俺の能力の一つで、俺は全く同じ姿形をした人間を多数に分裂する事ができる。各国、各企業に存在し、監査をしている。それぞれに意思があり、それを統合しているのがMPC。よって俺が今悩んでいることを別の個体は悩んでいるわけではない。


「俺がユナに尽くす」


「そうです。言葉にしなくても良いのです。密かに彼女の手助けをする。これで今の状態を保ったまま生活できます」


 言葉にしなくても良い、か。それが俺の今できる答え……。


「護衛の任務も差し支えなく出来るな」


「如何でしょう」


「助かった。助けられてばかりだ」


「積み上げてきた徳が返ってきているだけです。お気になさらず」


「そうか、ならそういう事にしておく」


 彼はまた笑う。


 思い悩む事は仕方ないのだろう。だがそれを誰かに打ち明ける事(今回は打ち明けてはいないが)で、手が差し伸べられる。


 俺は一人では理想の存在になれない。だがこうして誰かに背中を押してもらうことで階段を一つ登る事ができる。これまでもこれからも。果てのない階段を登り続けられる。


「ありがとう」


 自然にその言葉が出た。


 その後、俺は珍しく早く寝た。寝る事で頭を整理するのだ。




 ーー


「………………」


「……れい……。あ……セ……」


「そう……。きっと…………」


「憶えて……」


「忘れるな」


 ーー。


 眼が覚める。ガバッと起きて、時間を確認する。午前四時……夢、か。久々に見た夢だ。謎の夢。頬に手を当てると、涙が溢れている事に気付く。何故泣いているのか俺には理解できなかった。夢は、二人いた。男と女。誰だ。わからない。俺の夢はMPCによって解析が可能だ。だが、これは出来ない。きっと、一歳以前の読み取れない記憶。それが時たま夢として現れる。何故、今となって蘇る。


 頭を整理するはずだったんだ。もう一度寝よう。そうすればある程度はマシになるはずだ。


 そうして俺は再び眠りに入った。今度は、深く。




 翌日四月十日。いよいよユナが転入する。クラス先は既に俺のクラスを指定しており、朝から噂で持ちきりだ。


「やべえよ。見慣れない超美少女でブロンド長髪の子がさっき廊下にいたんだよ。お前の事だから知ってんだろ? 転校生だよな? なあ〜誰だよ〜」


 朝から五月蝿いな。


「ああ、知っているとも。だが俺の口から言うつもりはない。彼女から聞け」


「話し掛けたら一目惚れされたりして」


 思い上がるなよ。


「……」


「ま、そんな事はない、か。はは」


 俺の眼光に怯えている涼太を、くだらなさそうに見ている結は溜息をついていた。


「馬鹿馬鹿しい。ただの転校生でしょ」


「おやおや嫉妬かな」


「うっさいわ!」


 全く、痴話喧嘩なら他所でしてくれと言いたい。


 それはともかく、今日の俺は学ランだ。もし学校で俺とユナが話していると面倒な噂が立ちそうだな。


「結、程々にしておいてやれ」


「智覇彌がそういうなら」


 結が涼太の首を絞めていたので解放するように言うと、あっさりと手放した。


 グェッと情けない声で彼は地に堕ちるとまるで猛獣使いだなと言い出して、もう少し言葉を選びなさいよと彼女に突っ込まれる。


「フッ」


 暴力的なのはどうかと思うが、俺はこの空気は嫌いではない。


「それにしても、あの転校生どのクラスなんだろ。一緒だったら浮きそうしれないわね」


「それはねーだろ。現時点でトップクラスに浮いてるこのお金持ち様がいるんだぜ。学ランだぞ学ラン」


「そういう話じゃなくてね」


「あまり俺の正体に関してここで言って欲しくないのだがな」


「おっとすまん。今のお前さんは不良でしたぁね」


「やれやれ……」


 気怠い空気の中、朝のHR(ホームルーム)が始まる。


「ざわついてるようだが、お前らの本業は勉強だからな。まあそれはともかく、今日は転校生がこのクラスに来る。入りな」


 この男口調の女教師は俺たちの担任だ。ナメられたくないとして、男らしい振る舞いをしている。心を読まずともわかる。


 ユナが教室に入ると、案の定、騒ぎ出した。語彙力を失った猿どもがギャーギャーと。女子は冷めたような目付きで彼らを見ていたが、おどおどしていたユナを見ると、かわいい、と言った表情に変わる。


 俺はというと、この空気が好きではなかった。ユナを学校に連れて行くことは何も義務ではない。だが四六時中監視する上で必要な方法だった。しかし、学校に連れて来るとこうなる。わかっていたさ。今度は、学校の連中からユナを守らないといけない。


「はいはい席につきな。とりあえず自己紹介でもしな」


 教師が教室の空気を抑えると、ユナに白のチョークを渡し、黒板に名前を書くように命じる。


 慣れない手つきでゆっくり名前を書き、喋った。


「後藤……ユナです。……そこにいる智覇彌の親戚です。よろしくお願いします」


 おい待て。誰がその設定を加えて良いと言った。これでは面倒な事にーー。


 一瞬の戸惑いを消し去るかのように俺に怒号が飛び交った。ふざけるなだとか、もう面倒なので喝を入れるしかないか。


「ああそうだ。ユナの親戚だ。ということで手を出したら……わかるよな?」


 開き直った。実に不良らしい振る舞いだ。この凄みで一気に冷めた。


 その後、席は俺の後ろになった。新学期早々なのでまだ五十音順で順当に後ろになったというだけである。


 休憩時間、ユナは早速色んな質問をされていた。女子だけなので気にする必要はないなと俺は教室を出た。もし男がいたらガン見するところだっただろう。


「あの不良とどういう関係なの?」


「ふ、不良……? 智覇彌が?」


「なるほどそうやって手籠めるつもりか」


 いやいや、聞き捨てならない。


 今すぐ否定したかったが、この行為は火に油を注ぐようなもので、耐えることにした。


「智覇彌が普段どんな生活しているかわからないけど好きだから気にしないかな」


 ハァァァァッと大きな溜息を吐いてしまった。ユナ、お前は強い。色んな意味でな。


「す、すきぃ⁉︎ あの男が⁉︎」


「そうだよ?」


「やめておきなさい。あいつと関わるとろくな事にならないわ」


 結が牽制する。俺に女を近づけさせない意味で。


 でも、関わってなかったらもっとろくな事にならなかったようなとユナは疑問に抱いていた。


「……まああの男の事で議論してても仕方ないし、仲良くしましょ」


 そうそう、一般的な会話を頼む。


 そんな頭を抱えている俺に「よう」と声を掛けてきた男がいた。


「どうした? 顔色が良くないな。智覇彌らしくない。俺の知っている智覇彌は常に堂々、凛々しく聡明だ」


「そういう訳にも行かないんだ秋彦」


 秋彦ーー氷山(ひょうざん)秋彦(あきひこ)は俺の同級生で、別のクラスにいる。彼もまた学ランを着ており、俺の不良仲間、といったところだろう。ただ彼もまた裏の顔があり、その正体は俺の会社の傘下にあたるHYOZANグループの社長、氷山春吉の息子だ。よってそういった点においても仲が良い。


 現在は会社の事に関わりはないが、世襲制でいずれ彼が社長になる。ちなみに、今の彼は銀髪(染めている)で腰まである長髪のおかげでそうは見えない。


「お前のクラスがやたらと騒がしかったな。それに関係あるのか?」


「ああ、まあな」


「どれ……」


 秋彦が俺の教室に入ると、唖然としていた。


「可愛いな……」


「手を出すなよ。あいつは俺の管理下にある」


「なんだそれは」


「訳ありでな……」


 お互いに正体を知り合っているので、隠す必要もなく、これまでの経緯を話した。


「なるほど……それは仕方ないな。おっと、長話しすぎたな。休憩も終わりだ。そうだ、放課後予定あるか? なかったら部活来いよ。久しくお前が来ていないもので、皆寂しがっているぞ」


「わかった。ユナも連れて行くがいいよな?」


「勿論だ」


 俺の部活、それはまだ詳しくは言えないが、一つ言えることは、皆俺の事を知っているということだ。




 午後の休憩。所謂、昼休み。教室が流石に落ち着いて来た頃、一人の女子がユナを学校を案内するということで、食事を終えた彼女を連れ出していった。


「さっき秋彦と話してたよな? 何の話だ?」


 一方、こっちは涼太に絡まれる。


「ユナの事だ。そうか、お前達にも話してもいいか」


 という事で、涼太と結を人気のない所に連れて行き、経緯を話した。


「なので、彼女との親戚関係はない。学校の生活を円滑にするために付け加えた設定だろう。俺はそんな事言っていないのだがな」


 二人は安堵していた。する意味が全く分からない。


「は〜良かった。って良くないわ! つまり同棲って事でしょ!」


「まあ、そうなるな」


 確かに年頃の男女が同棲などしたら一つや二つ過ちを犯すだろう。だが、俺は島に住んでいて、部屋も違う。厳密には同棲ではない。


「彼女が言ってたお前に対する好きというのは」


「事実だ。昨日言われたよ」


 苦虫を潰したような顔をされる。


「で、何て返したんだ」


「返していない。俺が返すと思っているのか?」


「そうね……そこだけは信じてたわ」


「は?」


 涼太はイマイチ結の言葉が理解出来ていなかったようだ。頑張れ。


「それで今後彼女に危害が及ぶのだとしたら……待て、今この瞬間だ。悪いが行ってくる」


「忙しい奴だな〜」


「いつものことでしょ」


 俺は時空間転移術で彼女の元へ行く。




 唐突で実にありがちな展開だが、簡単に説明すると、女子二人に対し、他の悪い不良(頭痛が痛い)が襲っているという状況だ。


 台詞を書くのが面倒だ。汚らわしいこの汚物の台詞を書くのは実に腸が煮え繰り返る。


「で、誰が誰を犯すって?」


 要は、ユナをこの屑が犯そうとしていた。だが残念だったな。手を出す直前に俺は現れるんだよ。


「な、なんだテメェ! 一体いつから」


 不良の右手を掴み、骨を砕く。


「ァァァアアアッッ‼︎‼︎」


「ユナには指一本触れさせはしない」


 彼女に近付けばこうなる。これを本当ならば公開処刑が如く、皆の前でやりたかったがな。


「キャッ⁉︎ やめて‼︎」


 しまった、もう一人を見逃していた。既に彼は彼女の手を触っていた。


 が、その瞬間。彼女は光った。そして触っていた男を粉砕し、砂に変化させた。


 何が起きている。あれは俺がやった事ではない。


「お、おい嘘だろ」


 周りの屑どもは恐れていた。彼女に触れば砂になる。どれだけ馬鹿でもこれだけは理解できていた。


 一斉に逃げ出し、俺が骨を砕いた男はとりあえず治してやり、手を離すとそのまま逃げて行った。


「ユナ、大丈夫か」


 俺は彼女に触れなかった。触ればさっきのようになるかもしれないからだ。だが待て、俺は昨日何度か触れている。もしかしたら……。


 確信をした。俺は死なないと。彼女の頭を撫でるとやはり俺は砂にはならなかった。


「智覇彌が来てくれて良かった……」


「当然だ。ユナに何か起こる前に俺は必ずユナの元へ駆け付ける」


 彼女の体について、研究する必要があるな。部活に行くか……。


「あ、あの」


 腰が抜けて立てていない女子がいる。そういえばもう一人いたな。


「さっき砂になった人は……?」


 ああ、事後処理が面倒だ。仕方ない。世界中の人間から記憶を一部改変をするか。


 この男はいなかった事にした。ただし、彼女に触れれば砂になるという恐怖は植えつけた。


 これで事件が起きたことは無くなり、彼女に対し触れないというだけが記憶される。


 問題なのは、記憶の改変は異端人には影響を及ぼさないということだ。いずれ問題になるかもしれない。


 だがひとまずこれでこの現場における経緯は、ユナとこの女は不良に襲われていた。が、そこに俺が駆け付け追い返した。という事になる。


「えっと、ありがとう……。呉燈もそっちだと思ってた」


 あいつらと一緒にして欲しくないな。……思えば俺はあんな奴らと共に行動しかかっていたというのか。不良とは実に底辺だという事がわかる。だからといって、俺はこの格好を辞めるつもりはなかった。この服は大事なものだから。


「違うさ。ただ少し、捻くれた男なだけだ。で、立てるか?」


「大丈夫。安心して立てないだけ」


「そうか。で、ユナ」


 彼女の方を見遣ると暗い顔をしていた。


「今のは忘れるんだ。……違うな。俺が忘れさせてやるよ」


 記憶の上書きというものだ。辛い事が起きても、それを忘れるくらい楽しい事をする。それを放課後、彼女にする。


 それから、彼女が暗いままだということは、彼女はおそらく異端人だ。あまり詮索をするつもりはなかったが、これが起きた以上、調べる必要がある。


「私はただ智覇彌を信じているから」


 彼女はただその一言で、それ以上はなにも言わなかった。


 放課後になるまで、俺もユナも気まずい空気のまま過ごしていた。放課後までは、な。




 そして放課後。俺はユナを連れ出し俺たちの部室に向かった。


「何があるの?」


「異世界だ。現実よりも高次で心が安まる」


「異世界……」


「ここがそこに繋がる部屋。そして俺たちの部室」


 約半年ぶりにその扉に触れた。

次回予告

世界を創造した創造神。では、異世界を創造したのは誰だ。何故それが必要なのだ。神が作り出した世界こそが全てではないのか。問いは返ってきた。人間の飽くなき探究心によって世界が崩壊する故、だと。


次回、第六説 無間郷

ならば私はそれに抗うのみ。

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