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CREATE LEGEND  作者: 星月夜楓
序章 世界の統治者
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第四説 邪神再臨

前回のあらすじ

ユナを天明島に連れてきた。だが俺は学校があるのでひとまずそこで別れることにした。

学校を終え、俺は家に帰る。

 天明島。午後五時。


 屋敷に戻ると、見慣れない少女と会う。ブロンドロングに少しウェーブが掛かっていて、右に三つ編みが一つ。そして西洋人形に着せるような服、要はゴシックアンドロリィタを着ている。碧眼で、失礼かもしれないが本当に人形みたいだ。


「あ、おかえり」


 だが、その声は聞き覚えのある声である。勿論、俺がわからない訳がない。例え姿形を変えても俺の脳はこれはユナだと言っている。


「随分と変えたんだな。黒髪を染めたか」


「染めたっていうか戻したというか……元々私ブロンドだからね。組織に居た時は目立つってことで黒にされてたけど」


「ああ、だから毛根あたりが金だったのか」


 薄々は気づいていたものの、中々突っ込むタイミングがなかった。


「うん。今日は一日楽しかったよ」


「是非とも聞かせて欲しい。そのために急いで帰ってきたんだ」


「本当?じゃあいっぱい話すね」


 彼女は朗らかな口調になっていた。元の姿になった事で、彼女らしさが全開となったという事だろう。とても喜ばしい事だ。


「うむ。だが立ち話も疲れるだろうし、夕食の時にしよう」


「そうだね。もう少しで出来るみたいだし。智覇彌の話も聞かせて欲しいな」


「ああ、これから行く学校の事を伝えなくてはな」


 すぐに夕食の準備は整った。いつもは一人で食べていたが、今日は二人。




「まずは試験をやらされたわ。意外と解けるもんだね」


 どうやら半分は合っていたらしい。組織にも学習する機会はあったのか。


 試験内容は国数英の基本三教科。時間は一つにつき一時間である。間に十分の休みしかないのでタイトなスケジュールだ。


「一応、学園の平均偏差値六十はあるんだがな」


 自称進学校というレベルだ。学校の方針は学園長に任せているので俺は深くまで知らない。


 今の高ニが同じ試験を受けた場合、半分も点が取れるとは思えない。つまり、俺の学園はその程度の学力でしかない。


「凄いのかな」


「まともに教育を受けられない環境であったのだから良い事だろう。これからは俺も教える事が出来るしな」


「頼もしいんだね」


「そうでなくては務まらないからな。それで、他には?」


「えっとねぇ」


 ユナは語り始める。


 午後だから……昼食を済ませて、メイドの一人が折角綺麗な髪だから整えてあげるって言われて、その時にブロンドにして欲しいって頼んだんだ。化粧部屋に行って髪を染めてたら、大勢が寄ってたかって私を弄り始めてこんな格好になってしまったわけ。でも楽しかった。こんな事今までなかったから。


 この一日の間で彼女の眼に光が宿り、笑顔が輝く。俺はただきっかけを作っただけだ。だがこのきっかけが彼女をここまで変えた。


「使用人と仲良くなったみたいで良かった。氷雨も喜ぶだろう」


「氷雨さんは遠くで眺めてただけだった。まあ途中でメイドの人達に注意してたね。そういや何であんな事言ったのかなあ」


 そうか、やはり氷雨は一線置くのか。長として、ふざける訳にはいかないのだろう。


 もう少し俺は彼女の一日を見たかったので、今度は頭の中を覗いた。覗いたとは言っても、全てではない。




「ユナ様」


 午後のシーンだ。彼女は使用人の一人に声をかけられる。


「えっと……誰か知らないけど敬語とか、様とか付けなくていいよ。私、偉い人じゃないし」


「そ、そうですか?」


「うん。むしろ苦手かな……もっと気軽に話して欲しい」


「そうですか。もう少し砕けた感じで。では、ユナさん、とか?」


「えっと、じゃあそれで。で、何か用?」


「はい。その、ユナさんは昨日からお風呂入ってないんですよね?」


「ないよ。ずっとこのまま。というか、組織にいる間もそんなに入る機会なかったし」


「そうでしたか。では、早速手配しますね」


 待て、覗くと言ってもそういう覗きではない。


「分かった。久々にシャワー浴びれそう」


 そうやって彼女は大浴場に行った。良し、此処から先は飛ばそう。俺に観る資格はない。……観たくないといえば嘘だ。俺も男である。身体的興奮は脳で抑えられるが、モラルが無さすぎる。よって場面を飛ばすことにした。


 変わって場面は先程話していた髪の毛を弄るところだ。


「ユナさんて髪綺麗ですよね。入浴される前から気になってましたけど」


「え、そう?」


「そうですよ。誰からも言われませんでした?」


「いや……私組織じゃ一人だったから。Uの部隊も私だけだし」


「Uの部隊?」


「あ、いやなんでもない。何か隔離されてたから誰とも話してないんだ」


「はあ。ところで髪、弄らせて貰ってもよろしいですか?整えますよ」


「あー……それじゃあ一つお願いしていいかな」


「何でしょうか」


「私の髪、元々はブロンドなんだ。ほら、地毛の部分」


 そう言って彼女は毛根辺りを指差して見せた。


「それで染めてほしいと」


「うん。これだと格好悪いからさ。出来るだけ似た色にして欲しいな」


「承りました。では早速部屋へ」


 化粧部屋に連れて行かれると数人の使用人が待ち構えていた。


「席に座れば良いの?」


「はい」


 彼女が席に座ると早速作業にかかり始めた。段々と人が集まってきて、彼女は人気だ。その少し遠くで氷雨が眺めていた。心労が窺い知れる。


 暫くして、今度は服を変えようだとか、染め終わったらヘアスタイルを変えてみようとか、まるで玩具のような扱いだった。当事者からすれば楽しいのだろう。……純粋に俺はこれが楽しいのかと思ってしまった。これが楽しいと思うユナはそれほどまでに感性が衰えてしまっているのか。氷雨を見遣ると、渋い顔をしていた。同じ考えだったのだろう。


「そこまでにしておきなさい」


 遂に、彼女は声を出した。見てられん、といった感じだ。


「何で?」


 ユナは疑問に思っていた。やはり、そうなるか。


「申し訳ございません。仕事に戻ります」


 一方、使用人達はそそくさと現場に戻って行った。


「ユナ様、恐れ入ります」


 氷雨はユナに近付き、髪を解かした。元の髪型へと戻す。そして少しだけ編み込みを入れる。


「これが智覇彌様にとって一番のお姿です。全く、他の使用人は分かっていない……」


 氷雨は俺を何よりも優先的に考えている。それは有り難いのだがあまり融通が利かないところがある。


「楽しいから良かったのに。ところで、何で智覇彌が出てくるの?」


「何事も限度というのがあります。智覇彌様は……別に何でもありません。前言撤回です」


「ま、いいや。楽しかったし。また遊ぼうっと」


 まるで子どもだ。失った子ども時代を取り戻すかのように。




 そして今になった。意識を戻すとユナは首を傾けていた。


「ん?どうかした?」


「何でもないさ。さあ、さっさと食べ終わらせよう」


 これは後で使用人を叱らないといけないな。ユナはあくまでも保護対象。勘違いをしてはいけない。


 夕食を終え、俺たちは散歩をしていた。夜の島の景色は綺麗だ。俺はこの時が好きだった。昔は望遠鏡で覗いていたか……。


「ベンチに座るか」


 電灯の下にあるベンチに座り込む。


「明日からいきなり学校だが、行けそうか?」


「行けるよ。たった一日だったけど会話も慣れたし」


 問題なさそうだ。後は、クラスの反応次第だな。そこが問題だ。


「そうか。なら良いな。では俺は風呂にでも……ユナ?」


 彼女はベンチから落ちて倒れていた。すぐさま脈の確認をする。有る。だが意識が朦朧としている。


 何故急にこんな事に。答えはすぐさま分かった。分かりたくもないし、関わりたくもなかった。俺の日常はこのようにして簡単に崩れ去ってしまう。


 彼女が倒れた原因は。


「邪神……」


 邪神、それは人の邪悪なる精神が具現化する概念にして存在するもの。だが何故彼女は邪神を生んだ。彼女はこの一日を幸福に溢れた生活を送ったはずだ。


 ああ、そうか。急激な生活の変化に精神が追いついていないのだ。だから、一時的な幼児退行も起きた。そしてそのギャップが深層心理に罪悪感を植えつける。この罪悪感こそが人のマイナス思考の一つ。邪神を生むのは何も嫉妬や醜い考えだけではない。


 このタイミングで起こったかは良く分からないが、都合が良い。俺がいない時や食事中であれば面倒な事になるところだった。


 彼女の身体は黒と白のオーラが纏われ、邪神が発現する。


「……やはり戦うしかないようだな」


 俺は腰辺りに右手を持っていく。


「おい、力を貸せ……創造神」


 創造神、その名の通りこの世界を創造したモノ。それが俺の中に眠っている。


「……久々に呼んだかと思えばいきなりの対決か。やれやれ、もう少し私を丁重に扱い給え」


 創造神は本来神の言葉を発しているが、俺はそれを翻訳する事が出来る。


「バカを言うな。彼女を助けるぞ」


「それを守る価値があるかどうかは私には判断しかねるが……良いだろう。使え」


 腰の部分に剣が発現する。右手で刃渡りを撫でながら柄を逆手で取り、前に突き出した。


創造破壊剣(クリエイト・ブレイカー)。俺を導け」


 右手から闇の力を引き出し、剣を纏わせる。本来であれば大剣に逆手持ちはあまり利点はないが、最大限に闇属性を発揮するならば逆手持ちでないと出来ないのだ。


「名を言え。いや、名など持たないか」


「我こそは邪神。我こそは形有って形無し。故に我は我なり。我以外の者は我ではない」


 邪神お決まりの言葉だ。無視していい。


「御託は良い。彼女のために消滅してもらう」


「我は汝を破壊する。世界を破壊する。全てを破壊する。我は邪神、阿須堕羅尾頭咫(アスタラビスタ)


 ほう、名を名乗ると言うことはそこそこの強さを持つ邪神か。意味はスペイン語で今生のさようなら、か。要は次に会うことはない。ああ、そうだ。これでお別れだ。阿須堕羅尾頭咫とな!


 俺は飛んで、回転しながら奴を叩っ斬る。硬い。一度後退し、様子を見る。


「流石は名有りと言ったところか。骨が折れるな」


 通常の邪神を倒すには、光と闇の力が必要で、もしないのであれば地球を破壊する程度のエネルギーを五倍必要になる。地球を破壊する程度のエネルギーとは言っても1.9×10^32ジュールが必要で、その五倍必要なのだ。現存する兵器では通常の邪神を消滅する事は不可能。名有りとなると更にその二倍。1.9×10^33ジュールが必要。では光と闇の力が有った場合はどれ程楽なのかというと、答えは半分で済む。そうだ、これでも半分は必要なのだ。もし俺がいなかった場合、地球は邪神一つで簡単に崩壊する。


「仕方がない。あまりこの姿にはなりたくないのだが、出し惜しみをするわけにはいかない。俺はこの世界が大好きだ。それを破壊されるわけにはいかない。それにそこにいる彼女は尚更だ!」


 雄叫びを上げ、筋肉を剥き出しにする。まるで一昔前の漫画のキャラクターだ。だが、それで終わらない。肘からは鋭利な骨が突き出す。この世の全てを切り裂く爪となる。足は恐竜のように太く重くなる。牙は伸び噛み砕けないものは無い。眼は千里眼となって時空間を見通す事が出来る。頭から山羊のようなツノが生える。耳は音を何もかも取り入れる。悪魔、天使、龍のような翼がそれぞれ三つずつ生える。脳は活性化され情報を全て分析出来る。


 そう、これこそが本来の俺。異端人である所以。遺伝子情報によれば、俺は殆ど人間である遺伝子が残っていない。余りにも複雑すぎて、先祖に辿り着けない。


「一瞬でケリを付ける」


 逆手に持っていた剣を今度は左手で撫で、順手で持つ。光の力が剣を纏う。そこに右手を当てる事で闇属性も付与される。これで光と闇の力が備わった。


「お前如きにわざわざ大技を使うまでも無い」


 剣を肩に持って行き、力を込める。


天照波(てんしょうは)


 一振り。それだけで邪神は文字通り消滅した。まだこの程度で良かった。あの時に比べればずっと。


「はぁ……」


 姿を人間の形に戻し、服を整える。


 ユナに近付き、彼女を抱きかかえる。


「もう大丈夫だ。待たせて悪かったな」


 邪神が消滅する事で大抵の人間は心の浄化が行われる。そして二度と邪神を生み出す事は無くなるのだ。これで彼女への危機は一つ減った。仕事が一つ完了したのだ。




「……智覇彌」


 次に彼女が目覚めたのは二時間後、午後八時。


「起きたか」


「悪い夢でも見ていた感じがする」


「そうか。悪夢なら話すと言い。忘れやすくなる」


「……そうじゃなくて」


 分かっているよ。本当は助けてくれたんでしょ。そういった感情が伺えた。


「あー……そうだな。何も言わないでおこう。また明日」


 俺は部屋を出て行こうとすると、彼女に止められた。


「ちょ、ちょっと待って」


「どうかしたか?」


 分かっている。だが聞く。


「私……その……」


 いつか涼太は言った。お前は本当、罪深いというか狡いよな、と。


 どうにも難しい問題だ。俺でも簡単に解ける問題ではない。こればかりは。


「智覇彌の事が好きみたい」


次回予告

高校生における、春に転校生など有るのだろうか。毎度思わされるそれはこの世界でも行われる。


次回、第五説 転校生

本能が彼を暴走させる。

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