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CREATE LEGEND  作者: 星月夜楓
序章 世界の統治者
3/22

第二説 UNKNOWN

前回のあらすじ

不良の格好をした俺は友人とラーメンを食べる。平和な一日だった。

 郊外にある俺のアパート。東京の癖に今時珍しくアパートの前に一つの田んぼが有る。此処だけ見れば、田舎。


 二階建てのアパートで、階段を登ったすぐそこが俺の部屋だ。登りきると何か不穏な雰囲気を感じた。誰か、いる。


 鍵を取り出す前に先にドアノブを回す。すると開く。空き巣だ。ゆっくりと、ほんの少しだけ見える隙間から覗くと一人黒づくめの男がいる。まだこちらには気付いていない。ならば。


 思い切りドアを開き、不意打ちをかける。


「ガッ⁉︎」


 頭へ拳をぶつけると凹み、倒れる。


「何だ!」


 奥からまた男の声が聞こえる。複数犯か。それも二人どころではない。五人だ。キッチンに一人、寝室に二人。居間に一人。


 まずは近場のキッチンから攻める。ヌッと低姿勢から相手の首根っこを掴み、絞める。


「な、何だてめぇは……」


「それはこちらの台詞だ。お前達こそ何だ」


 心が読めない。情報が入ってこない。本来であればすぐに特定できるはずであるのに。MPCからの回答はない。


 泡を吹きながら男はグッタリした。放り投げ、次の居間に向かう。


「クソッ! 俺たちはプロなんだぞ! コンチクショウが‼︎」


 ガラスを破り、銃弾が俺に目掛けてくる。予測済みだったので壁に隠れている。予想外の侵入で相手は混乱している。よって無意味に乱射する。撃ち切ったタイミングに合わせ、突撃する。


「ただの案山子だ」


「ガァァァ‼︎ クソガァァッ‼︎」


 イングラムM10か。典型的だな。だが嫌いではない。


 腕に関節技を決め、銃を落とさせる。今回はシステマだ。痛いってレベルじゃあないぞ。続いて膝の関節に足裏を押し付け、倒す。その後、鳩尾に一発殴る。これで再起不能だ。


 寝室に行く前に壁に掛けてあった木刀を持つ。やはり俺はこれを握った方が良い。


 ドアを蹴破り、目の前にいた男の首筋に打つ。声にならない程強く当たったので断末魔のなく堕ちる。そして銃を向けていたもう一人に木刀を投げ、銃に当てる。飛び散る弾を掻い潜り、再び木刀を手に取り、勢いのまま柄で頭に当てる。


 まだ終わりではなさそうだ。窓を見ると反対側の建物の屋上にスナイパーがいる。どれだけ用意周到なのか。俺の正体を知っているのだろうか。俺にポインターが当たっているのは分かっている。撃たれる直前に回避し、もう一度木刀を投げた。直撃し、意識を失う。


 回収するため、割れた窓を開け、飛び移る。回収し、帰ろうとすると視線が一つ感じた。その方へ向くと、女がいた。やはり黒づくめで、仲間の一人だろう。他とは別にこの女だけは心の声が聞こえた。撃ちたくない、その一心が。目は虚ろだ。ベネリM4スーパー90を持っているがこっちに向ける気はない。この時、俺は感じた。どこかでこの女、いや少女に会った気がする。それがどこかは分からない。記憶の検索を掛けても出てこない。あまりにも謎に包まれている。誰だ。君は何だ。何者なんだ。だが、これだけははっきりと分かった。俺の敵ではない。そして俺は同時にこの子を助けなければならないという信念が宿った。何故かはわからない。


 棒立ちしていた二人の間に邪魔が入る。


「おい! 何やってんだ! 早く撃て! それなら確実に殺せる!」


 ハッと我に返った。いつの間にか木刀を落としてしまっていた。それよりもあの邪魔な男を始末しなくてはならない。


「使えねえ女だな! 本当にUの隊長なのか⁉︎」


 Uとは何だ。


「貸せ! ショットガンてのはなぁ、こう使うんだよっ!」


 彼女から奪い取り、ストックが体に触れる瞬間、俺は動いた。


「馬鹿野郎が……空中じゃあ動けねえだろうが! 飛び降り自殺って奴だ! ざまあねえな!」


 バン! と大きな音を立て、俺に目掛けて撃ってくる。だが俺は最大限に体を反らし、全て交わし切る。


「ナァ⁉︎」


 そのまま常人離れした着地をし、復帰する勢いで突っ走り、男の顔面を殴る。


「ゲギャッ‼︎」


 男は離れた建物まで吹っ飛び、壁に埋まる。しまった、力を加減し損ねたか。


「アッ……アッ……」


 震え出す少女。無理もないし当然だ。そんな彼女を見て俺は頭に手を置く。


「……大丈夫。君は俺が守る」


 ガラにもない事を言ってしまった。無意識に言ってしまったのだ。仕方があるまい。


 ヘタリと腰を抜かして座ってしまった。安堵している感じか。


 それよりもまだ敵はいる。向こうの道路に軽トラックがある。そこには俺の荷物が大量に載せられていた。


「ちょっと待っていてくれ」


 すぐに俺は駆け出し、トラックの後を追う。


 慌ててエンジンを掛け、動き出すトラックに俺は余裕で追いつく。荷台を掴み、ゆっくりと侵入する。


「ヒィ! きやがった!」


「振り落とせバカ!」


「プロが聞いて呆れるな。相手を間違えたのではないのか?」


 一歩ずつ前に前進し、リアウィンドウをブチ破る。


「ヒィィィィィ‼︎」


「まずはお前だ」


 助手席の男の顔を掴み、思い切り座席にぶつける。


 パニックになった運転手が車を右往左往させるがそんな程度で俺は飛ばせない。


「さぁ、あの世か警察で詫びな。命の保証は出来んぞ!」


 ハンドルを力強く握り、思い切り左へ回した。そのまま街路樹に突っ込み、フロント廻りが(ひし)げる。直前に俺は飛び降りていたので無傷である。


 オイルが漏れ出し、引火する。このまま死なせるのも構わないが、証拠が少しでも欲しいので二人を外に連れ出す。


 二人を引き摺りながらあの少女への元へと向かう。


「さて……」


 まずは警察に通報だな。完全に事後なのだが、現行犯は一般人でも逮捕できる私人逮捕があるからな。過剰防衛かもしれないが……そこは何とかなるだろう。


 数分後、警察は来た。意外に速く着くものだ。駐在所は近いのか?


「お疲れ様。現行犯九人を捕まえた。恐らく下じゃ手に負えない連中だ。本庁に渡してくれ」


 実際には十人だが、少女は除外した。俺の甘えから生まれた醜い感情だ。


「いやあ、いきなりそんなこと言われましても」


「詳しくは署まで、だろ? 久々に総監どのにも話したくてな」


「どういう事か分からないな」


「仕方がない……」


 胸ポケットから身分証明書を取り出す。


「こ、これは……! 失礼しました! すぐに手配します!」


 お察しの通り、俺はそういう人間だ。




 一時間後、俺は警視総監と会う。


「忙しい中、悪かった」


「そちらこそ。貴殿がまさか襲われるとは思ってもおりませんでした」


「そんなに畏まらなくていい」


「仕事ですから。ところで、どういったご用件で」


「あの中に一人少女がいただろう。あの子を俺に引き渡してほしい」


「とはいってもですなあ」


「俺は九人を捕まえたと言った。あの子は含まれていない」


「言葉の綾ですな。それでは仕方ありませぬ」


「そう、仕方のないことだ」


「とはいっても世間の目がありますからな……貴殿を(ゼロ)課に配置して護衛の任務を当たらせることで正当化するというのは如何でしょう」


「0課? 公安ではないのか」


「公安は警察庁の方ですな。うちの零課は特異体質を持った人間がいるんですよ。対テロ組織として活躍してもらってます」


「特異体質……異端人のことか」


 異端人。それはごく稀に突然変異し、人ならざる能力を持ってしまった人間。原因は太古に亜人種と呼ばれた人間モドキが人間と交わったせいとされている。あまりにも古い歴史なのでデータは残っていない。ちなみに俺はこの呼び方は好きではないし、亜人種を人間モドキとされるのは憤慨である。


「貴殿も、そうでしょう?」


「俺は人間だ。少なくともそう思ってる」


 そう思いたいだけで、実際は俺も異端人だ。故に異常な力もあるし、この姿も本来の姿ではない。


「だが、誘われた以上は断る理由もないし、これ以上の条件もないだろう。引き受けた」


「こちらとしてもありがたい話ですよ。何、零課は基本的に自由です。本来ならば副業は禁止ですがこれは例外ですので」


「挨拶を済ませておこう。後はそうだな、連中が何者なのかを知る必要がある。俺ですら分からない連中だ。検察が見つけられるとは思えないが期待はしておく」


「結果は三時間後だそうで。今は二十時ですので二十三時です。それまで零課及び少女の面会を済ませると吉ですな」


「ああ、時間を無駄にしたくない。どうやら大物が釣れたみたいだからな。ではまた。今度はオフで食事を」


「ええ、期待しております」


 部屋を出ると、真っ先に零課に向かった。地下十階。一般的に知られているのは四階までとされているが、まさかここまで深いところまで作っていたとはな。業者には後々話を聞かないといけないな。


「ここか」


 薄気味悪い、わけではない。至って普通の造りだ。だが一部屋しかない。ここに零課がある訳だ。


 扉をノックすると音声が聞こえてくる。


「コードは」


 コード? 知らないな。総監はボケたか。単に言い忘れたか。わざわざ戻るのも面倒なので頭の中を覗くか。


「しまった、コード番号を言い忘れてしまっていた。08(ゼロエイト)という単純な事すら忘れるとは」


 なるほど、それがコードか。


「08」


「通れ」


 ガシャン、と音が響き、扉が開く。


「ようこそ08。ここが零課だ。話は既に通達されている」


「あんたは」


「00(ゼロゼロ)。名前などとうに忘れたよ。ここを管理してるものだ。前線にはいかんよ」


「なるほど、俺の上官に当たるというわけか。気に食わないが甘んじてやる」


「随分と上から目線だなあんた」


「05(ゼロファイブ)、彼は我らの中でも特殊だ。諦めた方が良い」


「はあ、そうですかい」


 ここには今、俺を除き三人いる。00、05、あともう一人は誰だ。こいつらも検索範囲外か。


「一つ宜しいでしょうか」


「なんだね06(ゼロシックス)」


「何故今補強をなさるんです。確かに02(ゼロツー)と04(ゼロフォー)は」


「良さねえか06。あいつらはもう」


「まあまあ落ち着くことだ。今回彼がここに加わったのは彼だけに与えられた任務を無理なく遂行させるための手段に過ぎない」


「ってことは俺たちの任務には来ないって事か⁉︎」


 00が話す前に俺が喋る。


「それはない。そちらの仕事もしっかりとこなすつもりだ」


「そうか、なら良いけどよ。とりあえず歓迎するぞ。改めて俺は05。あんたは名前が有るんだろうけど俺たちはないんだ。ここじゃ08と呼ばせてもらうぜ」


「構わない」


「08は、普段は何を?」


「高校生だ」


「高校、ですか……良いなあ」


 異端人ということが割れればすぐに社会的に抹殺される。よって零課はまともに教育を受けていない、子育てすらまともにされていない子もいるだろう。自分を愛さない親からつけられた名前はもはや呪いになる。だから名を捨てるわけか。それが正しいかどうかの判断は俺だけで決めることはできない。


「今の所問題ないのでね。さて、今日は挨拶だけのつもりだった。これでお暇させてもらっても良いか」


「ああ、歓迎会の準備をしておこう」


 零課を立ち去り、次は少女の面会だ。これが本命だ。俺はまるでデートの待ち合わせ場所に行くような感覚で、少し心が踊っていた。何故だろう。




「おまたせ」


 面会が始まる。今の所、彼女は一切口を利かず、ただ下を向いている。


「……」


「災難だったな。だがもう安心するんだ。君を戦場に連れて行く者はもういない。これからは自由の身だ」


「……」


 喋ることはない。ただピクリと反応はあった。


「もし此処が居心地が悪いのなら場所を変えよう。そうすれば話しやすいかもしれない」


「……」


「答えないか。さて……他には話す事といえばついさっきから俺は君の護衛に就くことになった。言い換えれば騎士となる。君のあらゆる外敵を排除しよう」


「騎士……」


 ようやく口が動いた。騎士という言葉に反応したな。キーワードだったのだろうか。


「ああそうだ。俺は君の騎士だ」


「本当に、そうなの」


「嘘をつく理由などないし、何しろメリットがない」


「なら、貴方だけには話しても良いかもしれない」


「そうか。では警察の連中にはどいてもらうとしよう」


 顔を動かし、二人だけにしろと目で伝える。するとすぐに何処かへ行った。


「これで二人きりだ。俺が聞きたい事は二つだけだ。君の名は?」


「……ユナ。それだけしか分からない」


 コードネームだろうな。だがそれしか分からないのであればそう呼ぶしかない。


「ユナ、次からはそう言おう。ではユナ、もう一つの質問だ。Uの隊長とは何だ」


「……私が配属していた部隊の隊長。私にはUが刻まれている」


 刻まれているとはどういう事だ。


「これを見てほしい」


 彼女は長いその黒髪を退かし、うなじを見せる。そこにはUの烙印があった。


「組織は皆漏れなく烙印が付けられている。他にも文字が付いている。Uは多分私だけ。今まで演習しかしておらず、実戦は今回が初めて」


 随分と話せるようになってきたので俺は聞いていた。


「他の隊と合同で件の任務に当たっていた。そこで貴方に阻止された。残念ながら言えるのは此処まで。これ以上の事は私にも分からない。とはいっても、警察の事だから吐くまでやらせようとするだろう。しかし本当の事だ」


「本当の事だと思ってるよ。その心は嘘をついていない。保証しよう。明日には出られるだろう。帰るところもないだろうし、俺の家に来れば良い」


「しかし、貴方の家は」


「ああ、あのアパートなら既に捨てたよ。数ある家の一つにしか過ぎなかったわけで、本家はあんな所ではない」


「……こちらから質問しても良いだろうか」


「良いぞ」


「貴方は誰? 名前は?」


「失念していた。俺は呉燈智覇彌。漢字で書くとこんな感じだ」


 紙に名前を書く。


「面倒」


「わかった、君はこれから俺の家に住むのだから隠す必要もない。俺の名前の漢字、本当はこんな字だ」


 後藤千早。それが俺の本来の漢字。とはいっても、本名でない可能性が多いにある。何故ならば名付け親がはっきりしていないからだ。いつからかそう呼ばれているだけで、記憶の検索ではいつも一歳以前の記憶が遮断される。確かに一歳の時に事故で頭が無くなった。が、MPCで補完されるはずだというのにも関わらず、記憶がない。


「簡単」


「だろう? あえて面倒にしているのさ。それから俺の正体は……また明日分かるさ。面会時間終了だ。ぐっすり眠れ……ない、か。不安はあるかもしれないがすぐにそれを取っ払ってやる。また明日」


「分かった……」


 その日はもうユナに会う事は無かった。


 その後、結果が出た。やはり証拠は不十分だった。確認できたのはK、Wの烙印。ユナのを合わせればU、K、W。そこから導き出されるのは。


「MPC。U、K、Wで謎と掛け合わせると出る単語は何だ」


「UNKNOWNです」


「……。ああ、大体察していたよ。となるとNはナンシー辺りか……。ふむ、正体不明の組織、面白い。俺が壊滅しよう」


 俺はひとまず面会室前のソファで寝て明日を迎える。

次回予告


出会ってしまった、避けようのない定め。彼はそれを嬉々として受け止める。理由は分からない。理屈ではない。心からそう思っている。


次回、第三説 天明島


special thanks(敬称略)

秋水


テロリストの使うショットガンって何だろうと思ってたので相談に乗ってもらいました。



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