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CREATE LEGEND  作者: 星月夜楓
第二章 UNKNOWN
18/22

第十六説 Nancy

前回のあらすじ

四柱が一つ、白虎の座を掛けた選挙が行われた。その結果出来レースに近いとはいえ虎牙白夜が選ばれる。早速彼女は頭角を現し、次の作戦の筆頭となる。一方、かつての白虎だった西定雅は後悔と自責の念に追いやられていた。だが、チャンスを再び受け取ることで、もう二度と後悔しない生き方を選んだ。

 五月下旬。全国的に少し早めの梅雨入りとなっていたが、今日は快晴である。


「東京オリンピック開催まであと二ヶ月を切りました」


 テレビがくだらないバラエティー番組を流している。朝食を終え、テレビを消すとユナが点け直した。


「何か気になることでもあったのか?」


「うーんと、オリンピックって何なんか気になるから」


「そうだな……簡単に言えば四年に一度に行われる国際レベルのスポーツ大会だ。偶々今年が東京なだけさ」


「参加しないの?」


「色々と基準があるからな。俺が出たら問答無用で全種目トップになるがドーピング扱いされるぞ」


 そりゃ、百メートルを零秒台で走るからな。……いや、距離は関係ない。どんな距離であれ光より速く到達する事が可能な為、地球程度の小ささではどこでも一瞬だ。


 だが、それは人間業ではない。彼らには彼らの戦う舞台があり、それは俺の土俵ではないのだ。


「大した自信だね。確かにそうかもしれないけど」


「あれは人間がやるから面白いのだ。俺達みたいな溢れ者が出てもつまらない……それに、タイムレスである事は秘匿しておかなければならない」


「やっぱり、そこがネックだよね……。……多様性多様性って最近言われているけど、何なんだろうね」


「……受け入れる事だ。押し付ける事じゃない。本当に、この問題は難しい。俺をもってしても、解決できる事ではない。……だがいつかそうなる日が来る事を信じて俺は今日を生き抜く。さ、話は終わりだ。支度して学校に行くぞ」


 地下倉庫からバイク……ドラゴンを出し、ユナを待つ。


「ごめん、お待たせ〜。っと、今日はサイドカー付きなのね」


「ああ。非常事態だからな。いざという時の為に自走できるサイドカーを付けておいた」


「かなりごついね」


「ああ、実質バイク二台分だと思ってくれ。それにこのドラゴンは色々と機能を付けているからな。さあ行こうか」


 橋のゲートへと方向を向け、ユナを乗せて出発した。


「風が気持ち良いね」


「まだ比較的湿気がないからな。今日はツーリング日和だ。学校さえなければの話だが」


「ふふっ……」


「面白いか?」


「いや、不良の格好をしているのに律儀にヘルメットを被って学校に行かないとって思っているのがギャップというか……可笑しくって」


「ああ……」


 普段着のこの格好は外せない。これは市人焔……兄貴から貰った勲章と言ってもいい。俺が不良に理解を示そうと思うのも、彼がいるからだ。だが、彼は他の不良とは何かが違う。それを理解(わか)る日が来るのだろうか。


「到着到着!ありがとね!」


「ああ。……ヘルメット忘れているぞ」


「あっ、しまった!ごめんごめん」


 そのまま校舎に入ろうとする彼女を止めると、すぐに戻ってきて外し、サイドカーに置いていた。


「……盗まれそうだ」


 念のため、サイドバッグに入れて、鍵をかける。どうもあの日以来、セキュリティに対して煩くなっている。いくらでも金はあり、替えはすぐに調達できるが、俺はそんな無駄な事はしたくない。


「待たせたな」


「今日も張り切って授業受けちゃうもんね!」


 出会った時とは考えられないほど快活な性格へと変貌していた。元気なのは良い事だ。


 朝のホームルームの時間ギリギリに教室に入ると、一人いない事態に教室は騒ついていた。そう、涼太の事だ。既に学校側には根回しをしておいたが、生徒達はそれを知る由はない。


 そして、担任が入ってきて、ホームルームが始まる。


「えー、ホームルームが始まる前に二点、お前達に伝えておきたい事がある。まず一点目は水明が一ヶ月間海外で留学する事になった。事前に伝えられずにすまない」


 その旨を伝えられるとどこに留学?何でいきなり?と更に騒がしくなった。


「二点目は……」


 ガサツな女教師は詳細を一切話さず、二つ目を言おうとした。


 待て、二つ目は何だ。思考が遮られる。この正体不明の予感はまさか。


「二つ目は転入生だ。入れ」


「はい」


 一人の女が転入生ということで教室に入っていた。心が見えない。これは、間違いなくUNKNOWNの一人だ。


 一体どうやって入学した。一体誰が許可をしたというのだ。……ああ、そうだ。俺だ。俺の顔をしたNという者が俺に化けたという事か。


「自己紹介をよろしく」


 UNKNOWNは黒板に英名を書く。


「……ナンシー・オーエンです。よろしくお願いします。……久しぶり、ユナ」


「ナンシー……?本当にナンシーなの⁉︎」


「うん。あっちとは手を切ってね。自由に生きたかったから……意外と簡単に抜けられるものだわ」


「……そっか。これからよろしくね!」


 まずい雰囲気だな。こいつはまだUNKNOWNだ。ユナが気を許す状況にさせてはいけない。


「知り合いか?なら、近くの席に座ると良い。おい、呉燈。そこ空けろ」


 こういう時、普段のイメージが悪いとこうなる。不良というのはそういうものなのだな。


「断る。……俺の性格は知っているはずだ」


「……ちっ。あーそうだったな。お前には何言っても無意味だった。じゃあ新しく机椅子用意するから待ってな」


「はい」


 ナンシーの容姿はユナ程ではないがそれなりに顔が整っており、知らない人が見れば綺麗だと言うだろう。その紅い髪は二人が並べば華になる。だが、奴は所詮UNKNOWNだということだ。それ以上でもそれ以下でもない。俺の下す奴の評価はそれだけだ。


「詳しい話はまた後でしよう、ユナ」


「ユナ、俺からも……いや、なんでもない」


 ユナにナンシーはまだUNKNOWNであるという事は簡単だ。だが、事実を伝えればきっと彼女はショックを受けるだろう。それだけは避けたい。どうにかして彼女から奴を引き離し、自然消滅を装い、仕方がなかったという結末を迎えさせなければならない。


「……ま、あんたもよろしくね」


 何を考えているかは不明ではあるが、大方偽物の癖にユナに近付くなと牽制をかけておきたいと考えているだろう。


「……ああ」


 戦いは既に始まっている。




 放課後。


「おい呉燈、ちょっと残れ」


 例の担任を名乗る女教師が俺に命じる。教師如きが俺に命令を下すなどと百年どころか一万年早いわけではあるが、ややこしい事態にするわけにもいかないので素直に聞く。


「何か用か」


「今日のお前の態度は何だ」


 お前が何なのだと問いただしたいが……。


「すまなかった。あの場所が心地良くてな。席替えでもないのに勝手に決められるのは腹の虫が治まらない次第だ」


 波風を立てないように立ち回らねば。というより、この教師には俺の正体を明かした方が早いか。


 この学園で俺の正体を知っているのはごく僅かで大人では校長と副校長のみ。理由は簡単だ。教師が俺の正体を知ったら、俺が他の生徒と同じような態度で授業を受けられると思うか?公平に過ごしたかったからあえて言わなかった。だが、この日常が崩れ去った今、言うしかない。


「……いや、そんなくだらない言い訳は良い。俺が退かなかった真の理由は……」


 タイムレスの事以外洗いざらい話した。俺が理事長である事から、ユナの保護観察。その全てを明らかにした。


「…………それはすまなかった……だが、解せんな。理事長だろうが財閥会長だろうがなんだろうが、まだ教育を受ける立場。お前は私の生徒だ」


 なるほど、そうくるか。思ったより、中々面白い教師だな。話して良かったかもしれない。


「そうか、なら俺とあんたの関係はこれまで通りだな。ただ、ユナの事は頼む。これは理事長としての指示だ。俺の事は今まで通りぞんざいな扱いで良い。彼女を守らなくてはならないんだ」


「……分かったよ。生徒を守るのは教師の務めだ。はぁ……何か情報が多すぎて疲れた。今日はもう帰れ」


 そうさせてもらうとしよう。


「では、また明日」


 教室を出ると、彼女の思考を読み始めた。ああは言っていたものの、実際はどうかわからんからな。


「なんであんな不良みたいな子が私の理事長……?というよりあの後藤財閥の会長?本気で言っているの?今までのは全部演技?だとすると一番無礼だったのって……」


 なんだ、口では強気だったが、内面はそうでもないみたいだな。ナメられないように見栄張って教師やっていたのか。……俺の茶番に付き合わせてしまって可哀想だから今度食事でも奢ってやるか。


 ちらりと中を覗くとこれがまあ中々面白いのが見れる。頭を抱えて机に突っ伏している。


「あまり深く考えるな」


「……なっ、まだ帰ってなかったのか」


「忘れ物をしたのでな。ほら、これを渡しておくよ」


「こ、これって……」


 ある有名な遊園地の優待券二枚を渡す。


「これで彼氏と行きな。俺の巫山戯た事に付き合ってくれた詫びだ」


「彼氏なんていない。見ての通り」


「そうだな。その性格じゃあ誰も近寄らねえよ。……友達でも良いから遊んできな。休暇申請ならすぐ通すから」


「やれやれ……本当に理事長で会長なのね……」


「話だけならいくらでも盛れるからな。行動と実績で証明するのが大人の世界だろ?」


「そうだな。だがお前はまだ子どもだ」


「……大した教師だ。少し見直したよ」


 それだけ言って、今度こそ学園から出る。


 ドラゴンに乗って、先に出たユナを追い掛ける。


 今は……繁華街か。




 近くの駐車場に停めて、しばらく歩いているとユナを見つける。


「おい、ユ……」


 呼び掛けようとすると隣にはナンシーの姿が見えた。UNKNOWNは本当に面倒だな。


 サッと物陰に隠れて、会話を聞く。


「ここのクレープが美味しいんだよ」


「へぇ〜」


 どうやらユナが街を案内しているみたいだ。かつて俺がやった事を反復するように。


「それって、あの男から教えてもらったわけ?」


「うん、私の知っている事は全部智覇彌から。分からない事があれば全部教えてもらえるよ」


「そっか」


「ん?どうかした?」


「い、いや何でもないわ。とにかく、良かった。ユナって本当に暗かったからさ。私の時だけは少しだけ話してくれたけど」


 ここだけ見ていると普通の女子高生の会話だが。


「……そうだね。私は二度とあそこに戻りたくない。ナンシーだってそうでしょ?」


「うん、あんなジメジメしたところ嫌」


「お待たせしました」


 話が暗くなりそうになったところでクレープが完成する。


「あ。ありがとね〜」


 一旦話は打ち切られ、クレープに夢中になる二人。随分と余裕そうなUNKNOWNだ。そうやって懐に近付く算段なのだろう。


 食べ終えると次は一年前にブームになったタピオカミルクティーの店に行こうとしている。去年では一時間も待たされていたが、今となってはそれほど待たされない。タピオカで太ってしまった分、再び、今ダイエットに移行しているみたいだ。いや、ダイエットというより筋トレか?


 ともかく、彼女らの監視を続けなければならない。もっと容易に近付けないか。……いや、ある。まだ彼女に見せていない俺の能力の一つであり、もう一つの姿。


 物陰に隠れ、一旦自宅に転移する。そして女性用ロッカールームに入り込む。


「ちょっ……ご主人様⁉︎」


 偶然、掃除していた使用人の一人に見つかる。


「悪い、ちょっと急いでいてな」


「いくらご主人様でも……って今そちらの姿でしたか。今日はどのようなお召し物を?」


「今時のイケイケな女子高生だ」


 今、俺は文字通り女になっている。これが自分の性別を切り替えることが出来る能力。いや、正確には自在に自分の姿を変えられる能力だ。


「ぷっ……」


「どうかしたか?」


「いえ、まさかご主人様からそんな言葉が出るとは思っていなかったので……では、こちらの制服がよろしいかと。女子中学生が着てみたい制服ナンバーワンだそうで」


「成る程……良く流行をチェックしているな。MPCで検索を掛けたがその通りみたいだ。さて、早速着替えるとしよう」


「では、私は失礼します」


「なんだ、見ていかないのか」


「あ、いえ、その……とにかく失礼します!」


 行ってしまった。別に俺の裸を見ても同じ女なのだから気にしなくても良いだろうに。


 着替えを終え、鏡を見る。成る程、確かにこれは受けそうだ。客観的に見て、美少女になれたな。これならスイーツを求める彼女らと共に行動しても怪しまれないはずだ。



 先程の物陰に戻り、タピオカミルクティーの店に並ぶ。丁度彼女らの分が出来たところだ。


「変な食感〜」


「でもウケるでしょ」


 何故彼女は所謂ギャル語を使っているのだ。誰から教えてもらった。俺はそんな風に接した覚えはないぞ。


「ウケるってユナって変な事言うのね」


「若い子が良くテレビのインタビューで言ってるんだよ。多分、流行り言葉」


 テレビか。最近食い入るように見ているが、彼女にとって少々悪影響かもしれない。


「テレビ?」


「えーあー、そっか……あそこってテレビなかったもんね。また今度教えるよ」


「うん、ありがと」


 とりあえず今のところの会話内容としては他愛ない。奴の目的はユナを連れ戻すことでは無いのだろうか。


 会話を聞いているうちに自分の番になる。


「抹茶タピオカで」


「わっ、あの制服の子、お金持ちで頭が良くないと入れない私高じゃん。制服良いよね……えっと確か……」


 少し遠めで見ているつもりだったが、向こうから接触しようとしてきたか。だがむしろ好都合だ。俺という第三者が合間に入る事で奴に手を出す隙を無くせる。


「……白星(しらぼし)だよ」


 タピオカを受け取り、こちらから近付く。さて、キャラはどう作ろうか。


「そうそう、白星!って今の聞こえてた⁉︎」


「うん。それで、この制服が気になる?」


「クールで格好良いよね!」


「確かに、王子様が着るみたいな感じね。女の子だけど」


 奴も興味を示したか。良い調子だ。


「そこが良いんだよ〜」


「私は別にそういうの気にした事ないから……」


「そうなの?ま、確かに元からお嬢様とかだと気にしないのかも……良いな、一度着てみたいな」


 それなら、後で幾らでも着せてやるのに。と、今言えないのが辛いところではある。


「いつか機会があると思うよ」


「そうだね……智覇彌に頼めばいけるかも」


「へーあいつそんな事も出来るのか。私もちょっと興味湧いてきた」


「ちはや?」


「あ、うん。こっちの話」


「ああ、そうなの。私も、千早って名前だからさ。自己紹介がまだだったね。藤原千早。それが私の名前」


 この偽名は簡単なロジックだ。前にも言ったが、後藤は昔、藤原性を名乗っていた。そして千早は近年においては女の子に付けられる比率が高い。尤も、俺の名前の意味では、全く別のものになる。


 今となってはこの中性的な名前のおかげでわざわざ別の名前を考える必要がない。


「偶然だね」


「そこまで珍しい名前ではないよ」


「そうなんだね。あ、私の名前はユナでこっちはナンシー」


「よろしく」


 知っているとも。


「そうなんだ。あ、良かったら飲む?」


 まだ口にしていない抹茶タピオカを差し出す。


「良いの?」


「勿論。何かの縁だし」


「やった〜」


 彼女が口にストローを当てようとしたところ、奴が止めに入る。


「ダメよユナ。太っちゃうわ」


 UNKNOWNの癖によく知っているな。


「えー?大丈夫大丈夫。飲んだ分だけ運動すればいいから」


「少しは良いんじゃないかな」


「……それもそうね。ごめんねユナ」


 彼女は笑顔で一割ほど飲んだ。


「ありがと。抹茶も良いね!」


「へぇ。じゃあ私も一口貰おうかしら」


 どの口が言うんだ。……待て、こいつが飲む理由は味ではなくユナが口につけたストローだ。それだけは分かる。……そうか、こいつそういう奴なのか。


「んー。藤原さんいいの?」


「良いよ。今更だからね」


 だが、ここで変に止めると怪しまれる。今の俺はただの第三者だ。


「それじゃあ貰い!んーうまっ!」


 それはどっちの意味なのか。


「良かったら、全部あげるよ。また買えば良い事だし」


「さすがお嬢様ですねぇ」


 君が言うな。そして無言かつ遠慮なしに飲む奴も奴だ。


「それで、次はどこに案内してくれるの?」


「んー……」


 彼女が考えていると不穏分子が近付いているのを察知した。やれやれ、またこのパターンか。


「それなら、楽しいとこあるぜ?」


「俺らも混ぜてくれよ」


 おいおい、男五人も群れてどうしようもない連中だな。


「っ、ナンパかぁ……」


 手っ取り早く事を済ませよう。


「相手なら、私がしてあげる」


「藤原さん⁉︎」


「大丈夫。貴女達は行って」


 男の俺が言うのもなんだが、一度はこういうことを言ってみたかったのだ。


「ユナ、行くよ」


「う、うん」


 二人はその場から抜け出すことができた。


「それじゃ、たっぷり楽しもうじゃねえか」


「うん、そうだね……」


 路地裏に入っていくと、男どもはますます興奮していった。


「そういうのが趣味か!」


「いや、別に。俺の正体を誰かに見られるわけにはいかねえしな」


 この瞬間、男に戻り、主犯格と思われる男の顔を掴み、宙に浮かせる。


「グエッ‼︎」


「なっ、こいつ男だと⁉︎」


「ていうか離せよ!」


「ユナに手を出そうした罪の重さを知れ」


 そのままジャイアントスイングが如く、男を回し、仲間の方へ投げ付ける。


 全員倒れたところで一人一発ずつ顔面を殴り、その際に記憶消去の術を掛ける。


「ふう、これで終わりだな。やれやれ、存在自体を抹消したいくらいにイラつく相手だが、今は構っている暇はない。ユナはどこへ行った」


 女の姿に戻り、さっき逃げて行った方へ走る。


 しばらくすると、奴の姿が見えた。


「ん、あんたか」


「随分と冷静だね。ユナは?」


「トイレ。……それにしても、雑な変装だわ」


「何の話?」


「あんたのことよ。呉燈智覇彌。バレないとでも思った?」


「……そうか。初めから気付いていたか」


 能力の一つである事はつまりNもその能力を持っているという事で、見た事があるのかもしれない。


「当然よ。……そんなにユナが心配?」


「ああ。お前が本当にUNKNOWNから抜けてきたか分からない以上、監視する。尤も、俺はお前がいなくとも、二十四時間三百六十五日ユナを守る為に監視を続ける」


「そう……全然信用されてないようね。でも、これだけは言わせてもらうわ。私のユナに対する気持ちは本物。ユナに手を出す輩は誰だろうと許さない。勿論、あんたもね」


 敵同士とはいえ、ユナを守りたい思いは同じか。


「そうか」


「ごめん……待たせた……ってあれ、藤原さん大丈夫だったの?」


「うん。護身術があるからね」


「さすがお嬢様ですね」


「(ユナには隠し通す気なの?)」


 奴は小声で聞いてきた。


「(ああ。彼女の事を思ってだ)」


「(そっか……)藤原さんて見かけによらず強いんだね」


 しばらく三文芝居を続けないとな。


 その後、カラオケに寄るなど、実に女子高生らしい一日を過ごした。成る程、これが女子高生の過ごし方か。いや、生粋の女子高生はここに誰一人としていないのだがな。


「それじゃ今日はありがとう。藤原さんも付き合わせてごめんね」


「気にしないで。今日は、暇をしていたから。良い刺激になったよ」


「本当、面白かったわ。色んな意味でね」


 ちらりとこちらを見てくる。どういう意味だ。


「じゃあ解散ってことで。きっと智覇彌も心配しているだろうし、早く帰らないと。また明日ねナンシー。それと藤原さん……また機会があったら」


「うん。それじゃ……また」


 もう二度とこんな機会はない方がいいだろう。


「じゃあねぇ」


 急いで家に戻り、服装を元に戻し、ドラゴンに乗りユナを迎えに行く。全く、今日は比較的平和だというのに何故こんなにも忙しいのだ。


「ユナ!」


「あ、智覇彌。ごめんね、勝手に街に出ちゃって」


「いや、良いんだ。帰ろう」


 全部お見通しだから大丈夫だ。


「うん!あ、それとね……」


 藤原の話を聞いたが、自分の事なので変な気分になった。


 家に帰り、状況を整理する。


 まず、ナンシーは今のところユナにとっては敵ではなくむしろ味方。俺にとっては不明だ。何を考えているか分からない以上、これからもこの接し方を変えるつもりはない。目的も不明。向こうの口実はユナを守る為に来たというだろう。しかし、本当は何なのか、まだまだ探りを入れていかなければならない。そしてNは何故ナンシーを直接ではなく学校に送り込んだのか。この三つを軸にこれからの事を考えていこう。


「夕食、良いの?」


「ああ、また起きてからにするよ。今日は何だか疲れた」


 人生まだ十七ではあるが、様々な事を経験して来たつもりだ。しかし、今日という一日はこれまでにないくらい疲弊してしまった。


 結局、その日は爆睡したまま、朝まで起きる事はなかった。

次回予告


彼らが憧れるものとはその人間性にある。秘めた熱い思いは彼らを引き寄せる。これが人間なのだと。これが人間の本来の生き様なのだと。


次回、第十七説 市人焔


それが人間の可能性なら、信じるだけだ。

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