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CREATE LEGEND  作者: 星月夜楓
第二章 UNKNOWN
17/22

第十五説 虎牙白夜

前回のあらすじ

秋彦が遊ぼうということでゲーセンで遊ぶことになった。一通り事を済ませ、外に出るとUNKNOWNが一人、Nastyと対峙する。秋彦、陽一、亥の三人は無事に勝ち、皆の元へ戻るが、涼太は自分の力の無さを嘆き、修行という形で別世界に行き、皆の元を離れた。一方、俺達はUNKNOWNとの本格的な戦いに備え、無間郷へと向かった。

 久々の大集会ということで、全員が入れる館を創る。現在、無間郷には七百九十八人のタイムレスがいる。大きさは体育館程度でいいか。


 早速創り、四獣に指示を飛ばす。するとすぐに全員集まった。


 これだけの大人数となると、仲が良い者同士で喋り合い、大騒ぎになる。これが学校だったら静かになるまで待つとかいう非効率な真似をするのであろう。だが、俺は違う。


 俺が前に立つと、一瞬にして場の空気が一体化する。つまり、静寂と化す。別に俺がカリスマ性があるというわけではない。純粋に、一人一人大切に接してきたからこその信頼があるのだ。


「皆、今日はよく集まってくれた。四獣達から聞いている通り、先日の事件以来、秘密組織UNKNOWNの活動が活発化している。現在は現実世界を中心に見られているが、いずれ無間郷に再び襲撃する可能性は幾らでもある。これは定雅が持っていたゲートパスを渡してしまったからだ。そこで、今後に備え無間郷全体の対策及び、欠けた四獣、白虎の地位に立つ者を多数決で取る。まずは白虎の選挙からだ。投票用紙は既に手元に配っているので、皆各々が信頼する者を一人だけ選び、しっかりと本名で書くこと。白紙及びいい加減な名前、複数名は無効にする。……何か質問は?」


 朱楽が手を挙げたので指名する。


「はい、定雅の処分はどうなるんだ?このままずっと牢獄か?」


「悪いがそれについては明かせない。今日の議題が終わり次第、定雅の処分を下す。見に行きたい者だけ来れば良い。これで良いだろうか」


「納得行かねえな。智覇彌、あんたは甘過ぎるんだ。あいつは手を振り払ったんだぞ。ここでしっかりと処刑するって言ってくれたら、俺は、いや俺だけじゃない。皆が満足するんだ」


「そうか、ならそれについても投票しようか。だが、これだけは言っておく。定雅を処刑したところで解決は何もしない。満足したところで何か意味があるのか?俺は、何も、見出せなかったぞ」


 何も俺は復讐を否定したりはしない。だが、その相手は定雅という事ではない。それに、俺は既に復讐者として生きてきた過去がある。だがその先に待っていたのは虚無だった。一時的な満足は得られたものの、彼女が帰ってくる事はなく、虚しい日々が続いた。今、こうして再び立ち上がれたのは秋彦、涼太を始めとしたいつもの奴らのおかげだ。


「……分かったよ。この世界はあんたが創ったものだし、あんたも管理者だからそう言うしかないんだな。投票だ」


「では、彼の処分についての投票も行う。処刑について賛否いずれかのみを書いてもらいたい。他に質問は?」


 ユナが手を挙げていた。


「現実みたいに誰かが立候補するというのはしないの?」


「それをすると残念ながらこいつには入れたくないと考える奴もいるからな。それが立候補全員だったら無効票になる原因になる。無間郷だからこそ出来る選挙のやり方だ」


 無間郷は俺と誰かの繋がりはあるが、誰かと誰かの繋がりがあるというわけではない。


「なるほどね。でも、当選した人がやりたくないって言ったらどうなるの?」


「そうなった時は順番になっていくだけだ。何、四獣の位は管理者権限程度で無理な仕事はない。降りる人はいないと信じているよ。他に質問は?」


 誰も手を挙げなかった為、投票を開始する。


「では、書くスペースを用意しているのでよろしく頼む。くれぐれも誰かに便乗したりはしないでくれ。自分の信じる者を選んでくれ」


 開始の合図と共にタイムレスは散る。そんな中、ユナは一人、動かずに悩んでいた。


「うーん、といっても悩ましいなあ。私まだあんまり知らないし、知ってる人は四獣かいつものメンバーだけだし」


「ユナは仕方ない。それに、秋彦を始め、いつものあいつらも対象ではあるから、誰かを書いてくれればいい」


「智覇彌はダメ?」


「おっと、兼任させる気か?残念だがノーだ」


「うーん、そうだよね……じゃあ……良し、決めた」


 割と早めの決断だったみたいで、パパッと動いてサッと書いて投票箱に入れていった。


「こういうところ、私の強みでしょ」


「そうだな」


 思えば、出会った頃に比べて随分と明るくなったものだ。いや、これが彼女の元々の性格なのかもしれない。


 一時間後、全員の投票が終わり、集計する。集計というが、投票箱に入れた瞬間MPCが自動で文字を判断しカウントするので時間は全くかからない。


「ではドキドキの結果発表だ。間が無さすぎて緊張感の欠片も無いかもしれないが、時間短縮しなければならない状況なのでね」


「とあるゲームでは二百人近い登場人物全員で総選挙やってるんだけどこっちはその四倍で投票母数が少ないから相当割れそうだな」


「またゲームの話してる……」


「呆れた人ね」


「秋彦、ユナ、冬帝、静かに。では、発表する」


 複数人の生唾を飲み込む音が聞こえる。


「新たな白虎となるのは三十六票で虎牙白夜だ。尚、それ以外は数票程度、中には自分の名前を書いた者もいる。信じられるのは己自身のみか?無間郷では、あまり望ましくない考えではあるがな」


 自分自身しか信じられないということを否定はしたりはしない。そういう扱いを受けてきた者たちだ。だが、ここではもう少し誰かに頼ったり、信じても良いと思うところもある。


「だ、誰ェ⁉︎」


 案の定、白夜が何者か知らない者も出てくる。その説明は後だ。


「ゴホン、では白夜、前に」


「は、はい……」


「自己紹介を頼む」


「えっと……虎牙白夜と言います。僕の能力は虎に化けます。……それくらいです」


 名前と能力だけで選んでいるのが二十人いた。確かに、分かりやすい。


「八百人中三十六っていくらなんでも任せられないんじゃ?やはり、立候補した方が良かったのかもしれん」


「陽一。それはこれから分かることだ。そもそも四獣とは俺が勝手に任命した事から始まる。それに比べたらまだ良い方だろう……。では、白夜を名前で決めたという理由ではなく、ちゃんとした理由で選んだ者、前に出て理由を述べて欲しい」


 誰も手を挙げることはないだろうと思っていたが、一人手を挙げていた。


「名前を」


「シェリルです。白夜を選んだ理由ですが、彼女は普段臆病です。でも、この前の戦いで身を挺して戦えない私達を守ってくれました。恐らく、他に票を入れた子も、同じだと思います。……きっと彼女なら前の方のように裏切らないと思います。だから私は彼女を選びました」


 シェリル……中川シェリルは陽一の妹、緋奈と同様戦えないタイムレスで、白夜と同棲している。先の戦いで、戦えないタイムレスが固まっているところを狙われ、白夜がそれを防いだということだ。


「シェリル、ありがとう。これでもまだ足りないと思う者もいるかもしれない。だが、今は彼女に任せても良いだろうか」


「まあ、別に良いんじゃねぇか?俺は智覇彌を信じるだけだ。信じた先に虎牙がいるなら俺はそれで構わん」


 たまには、亥も良いことを言うな。


「……後は白夜次第だ。どうする」


「…………。やります。今の僕に何が出来るか分かりませんが……でも、UNKNOWNがまたやってきて皆が傷付くなら、そうならないようにしたい。……本当は怖いです。逃げたい。けどきっとやらないと後悔する……そんな気がします」


「皆も、白夜の事を支えてやって欲しい。皆が皆支え合う。それが無間郷だ」


「おう!任せとけって」


「よろしくね、白夜。私の事冬帝って呼び捨てで良いから」


「あ、はい……冬帝さ……冬帝」


「姐さんと手を繋ぐなんて羨ましい……」


「朱楽も呆れたやつだねー」


 早速、他の四獣達とも仲が良さそうで良かった。


「さて、四獣の件に関しては終わり、次は定雅の件に入る。投票比は六対四、反対で決まりだ」


「そ、そうか……意外と反対派が多かったんだな」


「仮にも仲間、だったからな。まだ憎み切れないのもいたのだろう。これから対策会議を始めるが、俺はその間定雅の元へ行く。付いてくる者はいるか?」


「俺が行くよ」


 朱楽が出てきた。当然か。


「では、俺と朱楽二人でいく。皆はどんな対策が出来るか考えてこのホワイトボードに書き込んでおいてくれ」


 一旦、退出する。




「なんであんなに反対派が多かったんだろう……俺には理解出来んよ」


「俺は彼を処刑したところで状況が何も変わらないという判断を取ったが、他はどうなのだろう。流石に五百人弱の心を見るのはしんどいぞ」


「確かにな……。俺も、一度冷静にならないといけないな。あいつの顔見たら、ぶん殴るかもしれねえし。落ち着かないと」


「ああ、頼むぞ。台無しになるからな」


「台無し……?何かするのか?」


「ま、それは終わってからの話だ」


「終わってからって……」


 牢獄に着き、定雅のいる牢屋の前に立つ。定雅を生かすため、最低限の食事は与えている。


「定雅、俺だ」


「……お願いだ。俺を、殺してくれ」


 開口一番にそれか。


「そうか、そんなに死にてえか……!」


「落ち着け朱楽!さっきお前自身が言った事を忘れたか!」


「……いけねえ」


「悪いが、定雅、お前を殺さない。今日は別の事でここに来た。入るぞ」


 鍵を開け、中へ入る。


「お、おい……いくら両手がないからって何考えているんかわからねえんだぞ」


「既に心は読んでいるよ。さて、ひどい自責の念に駆られているようだ。本当に後悔しているんだな」


「……俺は、あんたの支配から逃れたかっただけだ。仲間は、誰一人殺させない約束だったはずなのに……」


「お前……仲間ってなんだよ。お前には仲間なんていねえんだよ。今更何言ってんだ」


 朱楽を連れて来たのはやはり失敗だったか。見えていた事だが。


「俺は支配など考えていない。誰もが住みやすい世界を生み出そうとしているだけだ。それをお前が壊した。それは、分かっているはずだ」


「ああ……」


「出会ったあの時、俺を信じてくれた。……俺は信じてくれるお前を信じた。だから手を差し伸ばした。そして掴んでくれたんだ。誰も信じられない世界で、お前は俺を信じたんだ。それは、嘘じゃないだろ」


「そうだ……俺は……あんたを信じたんだ……」


「だが、お前は裏切った。本来であれば、俺は即座にお前を殺していただろう。だが冬帝に託した。その結果お前は生きている」


「何で……何で殺してくれないんだ」


「あの時お前を殺していれば、俺達はUNKNOWNと同じになってしまうからだ。俺達は奴らとは違う。冬帝も、きっとそう考えていたから」


「……だったら何しに来たんだ」


「もう一度手を伸ばそうと思ってな」


「おい……どういうつもりだ智覇彌」


「もう一度、仲間になるチャンスを与える」


「本気で言ってんのか‼︎」


「ああ。本気だとも。どうする、定雅」


「……嫌だといったら」


「これまで通り、死ぬまでここに居て貰う。処刑もしない。これは、無間郷の皆で出した決断だ」


「っ……」


「……選択の余地も与えないとか鬼だな。……やっぱ逆らうのはやめておこう」


 ここに来て急に冷静になる朱楽だった。


「そうか?」


「……もう一度信じさせてくれるなら。もう一度、信じてもらえるなら……俺は……」


「大丈夫だ」


 肩に手を当てると、彼は年甲斐も無く泣き出した。


「輪に、入れて欲しい……」


「ああ……おかえり、定雅」


 そして、彼の無くなった腕を復元させた。復元というが、彼に触れることでその細胞を活性化させ、本来あり得ない再生能力を施し、腕を作り上げたのだ。俺の能力の一つ。ただ、死者には使えない。いや、使えることは使える。だがそれが本人ではないのだ。形は同じといえど、中身は伴わない。肉でできた人形だ。


「……ありがとう……ありがとう……」


「ったく、お人好しにも程があるな。俺は、許してねえからな」


「ああ、俺も許してはいないとも。だが、これからのことは別だ。分かっているよな」


「勿論……俺が犯した罪は……償える分だけは償う」


「楽しみにしているぞ」


 再び定雅と通じ合ったところで、彼の記憶に触れる。UNKNOWNと接触した時、彼は何故あの選択をしたのかを。




 外出していた時の事だ。彼は近くの喫茶店で珈琲を飲んでいた。そこに、フードを被った男が現れる。顔がよく見えない。


「なんだ、お前……」


「相席、させてもらっても?」


「はあ?席ならいっぱい空いているだろうが」


「まあ、そういう事を言わずに。白虎さん」


「……!何者だお前」


「名乗るほどでも……でも、良いんですかぁ?あれだけ嫌っていた外の世界を満喫するだなんて、人というのは変わるものですね」


「自由の身だ。どう生きようが勝手だろう」


「そうですね。自由。でも、今の人生は本当に自由ですか?」


「ああ、そうだ。あの人のおかげで俺はこうして今自由に生きている」


「本当に?あの人……呉燈智覇彌の狙いが何なのか分かっているのですか?」


「よくは分からん。俺と似たような境遇のタイムレスを集めて……っていうか何故そこまで知っている」


「ふふっ……何故?何故なら僕は」


 フードを取った。その顔は……俺だった。


「!!?どういう……事だ……」


「君は騙されているんだよ。あの偽物に。僕が本物だ」


「本物である証明は⁉︎」


「うん、そう言うと思った。でも、証明なんてできないよ。だって、あの偽物も同じ事言うからね。でも、これだけは言える。偽物は世界を支配しようとしている。僕と違ってね」


「支配……そんなはずはない。あの人に限って……」


「じゃあ、なんで無間郷とかいうのを作っているのかな?」


「だから、よく分からないって……」


「……僕はね、あの偽物と同じなんだ。だから考えている事くらいは分かる。世界最大の財閥の長になり、世界を牛耳り私利私欲の為に動く。そして最終地点は己以外を家畜以下にする事」


「有り得ない……誰にでも分け隔てなく接する人なんだぞ」


「そう……じゃあ聴き方を変えよう。そこまで言うのだから君は彼を信じているのだね」


「ああ、そうだ」


「じゃ、何で君だけ部下を引き連れているのかな?」


「……それは」


「無間郷は誰しもが同じはずなのに君だけは自分可愛さに守りを固めている。それは、本当に彼を信じていないからじゃないのかい?」


「違う……」


「何が違うんだ。当然じゃないか。君が今まで受けてきた仕打ち。他人を信じられる事なんてもう無理だよ」


「違う‼︎」


 机を叩いてしまった事で周囲の目が向いてしまった。


「……ふ、ま、良いよ。こちらからの提案に乗ってくれたら君は本当の意味で自由になれる。勿論、信じなくて良い。君はそうしてきたんだ。誰も信じないと」


「……」


「だが今のままではいずれ偽物は世界を支配する。その時君は裏切られる。それだけじゃない。現時点でどこにいようが何をしようが全て、皆全てだ。あの偽物の管理下にあるんだぞ」


「……!」


「ようやく分かったかい?何を考えても見透かされ、どこに行ってもその情報はすぐに偽物の元に届く。自由などではない。窮屈そのものじゃないか。それで、君は満足しているのかい?君は、本当は共存ではなく自分だけの世界が欲しかったんじゃないのか?」


「それは……」


「だから、提案しよう。あの偽物を殺して本当の自由を手に入れるんだ。その為に、協力は惜しまない」


「散々裏切られてきた俺を手を差し伸べてくれたあの人を、俺は裏切りたくない。……でも、確かに……その通りなのかもな…………自由では……なかったんだ……」


「じゃあ、決まったよね」


「でも……条件がある。他の奴らには手を出さないでくれ……狙うのはあの人だけだ」


「うん、分かった。じゃあとりあえず増援を送る為に無間郷への鍵を渡してくれるかな」


「あ、ああ……」


「うん、確かに。ありがとう。僕を信じてくれて」


「…………!」


 ここで彼はもう、戻れないと自覚した。


 ここで二人の会話は終わる。




「……追い詰められていたんだな。俺の顔と同じ奴に」


 記憶を見られた事に気付いた定雅は頷き、そのまま俯く。


「そうだ……何もかも同じだった。自由の為に……その甘い言葉に乗せられて俺は……あんたと同じ顔だったから、尚更だったのだろう……本当に……ごめんなさい……」


「……確かに俺は世界全体の動きを把握しているが、そんな一個人の情報をデータとしてはあるが一々見ていないからな。心を見るのも、いつもというわけではない。……今度からはちゃんと相談する事。疑心暗鬼に陥った時こそ、誰かと話す事が大事だ」


「今ではよく分かるよ……自分のせいで」


「そうそう、お前のせいなんだ。最低限の罪滅ぼしはしろよ」


「朱楽、茶々いれない。……ともかく、また仲間になったんだ。合わせる顔がないと思うかもしれないし、あいつらはあいつらで見たくもないとも思う。だが、それでもこの無間郷で生きてくれ。それが……俺なりの復讐とお前の罪滅ぼしだ」




 即興で創り上げた体育館に戻ると、議論ではなく口喧嘩になっていた。


「だ、か、ら、さ!いくら俺の防御壁でも範囲に限りがあるって!そもそもどこから現れるかわかんねえ連中にすぐにでも対応が取れるかよ!」


「タイムレスとはいえ殆どが戦えないんだぞ。特に守りに関しては陽一くらいしかいない。他の奴らで戦える奴は皆好戦的すぎる」


「ていうか冬帝の自動防衛機能使えよ!」


「はあ?これ無差別なんですけどそれ分かって言ってんの?」


「み、皆さん落ち着いてください……」


 やれやれ、どうやら俺がいないと纏まらないらしい。


「皆、一旦落ち着け」


「戻ってきたか。……おい、なんでそいつ連れ出してきてんだ」


「しかも、腕が」


「ああ、その事だが……」


 全員に説明し、そして定雅は自らの意思で土下座をした。


「……顔も見たくねぇな。ま、精々無間郷の為に働いてくれりゃそれで良い。智覇彌がそう望むなら、俺は必要以上に関与しねぇ」


「亥って単純だよね……」


「それが彼の良いところでもありますから……」


 ユナは早速白夜と親交を深めているようだ。随分と積極的になったものだ。


「朱楽が抑えているんだから俺も抑えよう。今は、未来の為に」


「すまないな……さて、話の方はどうなった?」


 散々書き殴られたホワイトボードを見る。


「戦えるメンツは限られているから、それぞれが色んな配置に付いて、戦うって感じになったんだけど」


 一応、俺がいない時は秋彦がまとめてくれている。


「だけど防衛に関しては陽一の黄金城くらいなんだ」


「で、こいつが無茶言うから怒ったわけさ。展開後は賢者の石を使えないから、内部から侵入されたりすると俺は戦えないし、被害も増える。安易に使えない」


 防衛は攻めるより難しい。自分を守るだけなら簡単だが、戦えない者を守りながら戦う事に関しては、ここの住民は長けていない。


「ああ、その通りだ。戦える者だけなら、そうなるだろう」


「……まさか、戦えないタイムレスも加えるつもりなのか?」


「ああ。勿論、戦いそのものには巻き込ませるつもりはない。物見櫓を各地に作り、監視。侵略されたらその区域を担当する者が戦う。至ってシンプルな話だ」


「まあ、そうなるな。だが見張り役が真っ先に狙われたら?いや、むしろ一番優先するだろ」


「そこで使える便利アイテム」


 ドン、と機械を置く。


「通販かよ」


「この前テレビで見た流れだ」


 2020年にもなって未だにあんな詐欺紛いのものが横行しているテレビとは不思議なものだな。


「ヴィルマの研究の副産物だ。展開する事で防御膜が出来る。勿論、武器も使えるぞ」


 ヴィルマを造るにあたって、AIシステムの構築が遅れただけで、武器の変形に関してはかなり早い段階で済ませていた。AIを構築している最中で、別の企画としてこの機械を造り上げたのだ。


「まだ名前は決まってないがな」


「無間武装と書いて、インフィニットアームドってのはどうだ」


「それはないよ秋彦ぉ……」


「うぐっ……」


「それに無間と無限は違う……」


 全員からダメ出しされ、落ち込む秋彦を見て、宥める。


「まあまあ、名前はともかく、このアイテムで即時戦線離脱が可能だ。戦えないタイムレスを危険に晒したまま戦闘に入るわけにはいかない」


 本当であれば、戦えない者達は予め避難させておきたいが、そうはいかない。全体の人口が敵に対して少なすぎる。勝つ為にはどうしても必要な事だ。


「ふむふむ……ところで呉燈さんの分身は使えないのですか?」


 一理ある。だが……。


「使えない事はない。だが現時点でMPCの処理速度に対して俺の脳が追いついていない為、分身からの情報を即座に受け取る事は出来ない」


 現状、各企業に監査として配置している俺の分身からの報告が逐一入る。そこでMPCが必要か不要か自動で判断し、俺の脳内に送り込まれる。しかし、その量は既に膨大で殆ど俺の脳で廃棄してしまっている。勿論、データはそのままMPCが保存している為、完全に消える事はない。ただ単純に俺が宝の持ち腐れにしているだけだ。そして、これ以上分身を増やした場合、キャパシティをオーバーしているところに無理矢理入れようとしているのでどの道勝手に廃棄されてしまうのだ。いくらそっちを優先したところでな。俺の脳が半壊していなければ出来ていたのだろうか。それは、分からない。MPCをインプラントしたのはこの世で俺一人だけなのだから。


「つまり、難しい、という事ですね……。となるとやはりその機械を使った見張りでしょうか」


「そういう事になる。それで良いだろうか皆」


「まあ、創造主様に言われちゃ敵わんわな。あっちで死んだも同然の所を救われたんだ。命の一つや二つ、賭けなきゃあんたに申し訳ねえ」


「いや、命は一つだからな亥」


「うるせー!何度もコンティニューしている奴に言われたくねえ!」


「は⁉︎ってゲームの話かよ!」


 この二人、本当に仲が良いな。


「命の一つや二つね……」


「そういえば朱楽って朱雀だから不死じゃないの?いくらでも命賭けられそう」


「あのね、朱雀とフェニックスを一緒にしないで貰えるかな。朱雀もフェニックスも鳳凰も同一視されがちだけど厳密には違うからな。それに、俺はあくまでも朱雀の象徴であって朱雀そのものじゃないから。か弱い火の鳥ですよ。ね?姐さん」


「そ、そうね……」


 街一つ滅ぼしたやつがどの口を言うか。


「喧嘩っ早いの知ってるからーすぐ頭に火がついちゃうもんねー」


「ウルセェ!蒼奈は黙ってろ!」


「ほらねー」


 これでこれで相性の悪い、いや良い二人だ。火と木か。上手く燃えるじゃないか。ただ彼女は水でもあるから……まあ、そういう意味で良かったり悪かったりするわけだ。


「戯言は良いから話の続きをしようぜ。……ふっ、あえて空気読まずに真面目ムーブ俺格好良い」


「は?お前何言ってんだ。コミュ障かよ」


「落ち着け……良いか、ともかくまずは物見櫓の設置だ。俺がやってもいいが、いまいち結束感がない。無間郷皆がこの危機を乗り越えるんだ」


 それに、もし俺がいない時でも、上手くいってくれることを信じたいからだ。


「わかりました。では、私白虎がその指揮を取らせて貰っても良いでしょうか」


「お、早速張り切っているねぇ」


「ああ、構わん。ここで才を発揮すれば、自ずと味方は付くだろう。あまり策を練れていないが、今日の所はここまでにしよう。話が長引き過ぎた。続きはまた出来てからだな」


 もし、このタイミングで侵入されたら、その時は俺一人で片付けるしかないが……今の所それはなさそうだ。あのNとやらは何故か戦力の逐次投入をしている。何が目的だ。考えもないそれは敗北を意味する他ない。必ず、何か意味があるはずだ。陽動か、或いは……。


 ……今は、休もう。今日は我ながら色々とやり過ぎているみたいだ。




「お疲れ様、智覇彌」


「ユナか……悪いな」


 陽一の妹、緋奈によって食糧問題が解決したことで、普通の紅茶の茶葉が手に入るようになった。そして彼女に入れてもらったということだ。


「長っていうのは大変だね」


「……慣れているさ。向こうの世界もこの世界も同じ。同じ割合で働き者と普遍的な者と怠け者がいる。そいつらを如何に心を掴んで動かすか。それが俺の仕事だ。俺が動けば解決する事は多い。だが、それは果たして無間郷の為になるのか?ということになる。俺はならないと考えているから、こうしている。長とは考えた事はあまりないが、上に立つ者とはそういうことだ。もう、何度もやってきた事だ」


「……ごめんね」


「何がだ」


「こういう時、力になれなくて。私、ずっと黙っていたから」


「大丈夫だ。ユナにはユナの舞台がある。それに……」


「どうかした?」


 ただここに居てくれるだけで俺の心は安らぐ。そう言いたいものの、言えない自分がいた。


「いや、何でもない……ともかく、これからの戦いで君が必要だ。ヴィルマと共に戦ってくれ」


「うん、勿論。それが今私に出来る事だから」


「……。ご馳走様。美味しかったよ。さてと、明日も学校だ。向こうに帰って寝よう」


「夕食は良いの?」


「時間感覚が狂っていてどうも空いていない。お腹が空いているのなら好きに使ってくれ」


「ん、りょうかーい」


 現実に戻るとすぐさまベッドに潜り込み、深い眠りへと就いた。

次回予告


毒は、少しずつ摂取することでその抗体を得られるが、人間関係においてはその逆が有り得る。信頼関係は一瞬にして崩れ去る。少しずつ積み重ねたものは、突如として終焉を迎える。


次回、第十六説 Nancy


貴女は私のもの。私は貴方のもの。

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