第十二説 Type BOS VIRMA
前回のあらすじ
赤石家と思い出話をする。無間郷の住民は皆それぞれ俺との思い出があるのだ。
そして、無間郷における食料問題がいよいよ解決に向かおうとしている。
引き続き無間郷。
一旦解散をし、俺は一人研究所へ入る。
研究所は何も秘密組織が作るような複雑な作りではない。小さな書斎と地下の施設だけだ。
地下に入り、液体に満たされたカプセルを覗く。
「成長段階、知能指数、形態変化におけるイジェクション問題オールクリア……ようやく完成したか」
「……お呼びでしょうか。御主人様」
「いや……俺は作成者だが主人ではない。これから会う人物がお前の主人だ。今出すから少し待て」
「かしこまりました」
その物ーー物というには些か語弊がある。彼女は立派な生命体である。見た目は人間の構造に近く銀髪ロングで赤と緑のオッドアイ。使用人の分類なので当家の使用人に着せている服を模して着させている。
「Hello World.Type Battle Operate Supporter Virtual Intelligence Revolutionary Maid of Android,ーーVIRMA」
VIRMAーーヴィルマは戦闘に特化したアンドロイドで、今後ユナのサポートとして利用するつもりである。今回は戦闘用だが、今後は日常生活にも対応できるアンドロイドを作成していくつもりだ。だからType BOSが付いている。軍事技術が後に民間技術に転換されるのはよくある話だ。
「私の名前はヴィルマということでよろしいでしょうか」
「いずれ紛らわしくなるかもしれないが、今のところはそれで良い。世界に一つだけのアンドロイドだ。では主人を連れてくる」
「お待ちしております」
外に出て伸びをする。とても満足感が得られている。俺が作ってきたものの中でもかなりの完成度だ。今の人類では到達できない技術力。これを流出させるわけにはいかないな。だから、無間郷でやっているわけではある。
「ユナ」
赤石家に滞在していたユナを呼ぶ。
「あ、準備できたの?さっき結構急いで行ったけど」
「待たせてすまなかったな。来てくれ」
「わかった。それじゃ緋奈ちゃん、またね。陽一君も」
「はーいまたねおねえちゃん」
「ああ、じゃあな。って緋奈、お前ユナさんにも懐いてんのか⁉︎」
ドッと笑いが飛び交う。
「それで、この地下にあるんだ」
「そうだ。君の為に用意した。今後、俺がどうしても……本当にどうしても手が離せない時の為に」
「私がピンチになるとすぐ駆けつけてくれるんだ?」
無論、そんな事態にならないよう常にアンテナは張っている訳ではあるが。
「当然だ。その……保護対象だからな」
「智覇彌のそういうところ、嫌いじゃないよ」
でももっと素直に言って欲しい、と彼女は心で思っている。悪いな。今はこれが精一杯。
「さて、お待ちかねだ」
「貴女が私の御主人様か?」
ヴィルマはヌラッと幽霊のように登場する。何だ、その現れ方は。思わず俺も警戒してしまったぞ。
「え、あ、そうだったね。そう!私、ユナが貴女の御主人様!えっと名前は……」
「ヴィルマ。その作成者様によって作られた戦闘特化アンドロイド。正式名称は」
「俺が付けておいてなんだが長いからパスだ」
「……では、ヴィルマでございます。命令をどうぞ何なりと」
「えっと、どうすれば良いの?」
「ヴィルマはあらゆる形に変化できる。今は人間の姿だが、銃になったり、剣になったり、更には強化外骨格にもなる。何でも良い。望む物を言ってみるんだ」
「えっとじゃあガントレット」
「承知しました」
命令が下ると瞬時に形態変化する。籠手に変化し、彼女に装着される。
「これ、凄いね。全然重くないし。これで殴るとどうなるの?」
「試すか?」
「ここまでやったんだからやりたいよね」
ユナがここまでやる気になるのだから作った甲斐があるものだ。早速外に出て樹を殴るように言う。
「いっくよー!」
バァンッ!と派手な音を立てて殴った。殴られた樹は粉砕する。木っ端微塵。跡形も無い。
「え⁉︎今私の能力の影響じゃないよね⁉︎」
「違う。ほら、ちゃんと木屑だ。能力を使ったら砂になる」
屑をひとつまみして確認する。
「てことは今のヴィルマの能力……ちょっと怖いね」
「……威力調整可能です。貴女が望めば如何様にも」
「うわ、喋った⁉︎」
「どのような形であれ私は私です」
「とまあその通り、威力が変えられるから扱い次第でどうにでもなる万能物だ。……ちなみに、そいつで邪神を倒す事もできる。尤も、そんな危険な事を俺はさせたくないがな」
「そっか、これで……ようやく私も手助けができるんだね」
「あくまで自己防衛だからな。今はヴィルマとコミュニケーションを取っておく事。意思疎通がスムーズに出来ればもしもの時に役に立つ」
「うん、分かった!」
さて、一先ずユナにヴィルマも渡せた事だし、現実にそろそろ戻るとするか。仕事も溜まっているだろうしな。
「よし、帰るぞ。ヴィルマは勿論連れて帰って良い。家ではメイド、外では小さなものに形態変化させておけば問題はない。また、明日からの学校に備えておくんだ」
「じゃあ、ブレスレットにしようっと。よろしくね」
「かしこまりました」
現実に戻るとMPCから秋彦から連絡が来ていると報告を受ける。
『急に悪い。現実に戻ってきたら一度氷山の本社まで来てくれ。重要な話がある』
秋彦の実家、HYOZANグループは我が後藤財閥の直接の傘下にある。その本社に呼び出されるということは余程の事態だという事か。
「すまない、ユナ。君と帰るつもりだったが、もう少しやる事がありそうだ」
「そっか……ううん、分かった。じゃあ先に帰って待ってるね」
時空間転移術をユナに掛け、家に帰す。本当、中々一緒にいられないな。
「良し、帰ってきた時の為に体力付く料理を作ろう!早速だけど、手伝ってくれるよね?」
「私は戦闘タイプに特化していますので……あまり得意ではありません」
「え⁉︎そうなの……」
「ですが、最低限の事は出来ます。ナイフ捌きなど」
「じゃあ包丁担当よろしくね」
「はい、かしこまりました」
少しだけ、孤独感がなくなったかな。
「すまん、秋彦。待たせたな」
「いや、呼び出してすまなかった。話は姉さんから聞いてくれ」
氷山雪凪。それが彼の姉であり、次期CEOとして期待が寄せられている。現在はCTOとしてグループの技術関連のトップにいる。恐らく人間としては一番の頭脳の持ち主ではないだろうか。そう、彼女は弟と違い、人間である。だが姉弟の関係は良い。
「分かった」
「俺にも関係あるそうだから、横から聞いてる」
彼女専用の部屋に入ると、まるで会議室のように生活感のない空間が広がる。そこに一人、黙々と作業をしている女性がいた。雪凪だ。
「雪凪」
「……ん、やあ、来てくれたんだね」
不良の格好をしている俺が言うのも何だが、とても経営者側とは思えない格好でいる。とてもルーズだ。
「姉さん、会社くらいフォーマルにしてくれよ」
「良いの。これが世界標準なんだから。日本みたいにバカやってると本当にバカになるよ。それに、あんたら二人も似たようなものでしょ」
確かに、秋彦も俺に似たような格好でここにおいて似つかわしくない。
「まあ、そうだけどさ。俺はまだ高校生だから」
「……それはともかく、話とは何だ」
「あ、ごめんね。ちょっと待ってね〜」
今時、アナログケーブルを差し込んでスクリーンを映し出す。
「アメノオハバリプロジェクト……」
「いくら後藤財閥がこの世界を満たし、平和を保っているとはいえ個人間における争いはついぞ絶えないからね。本当に個人までも管理するなら君は三十六億人に分身しないといけない。そんな事は出来るかい?」
「いや、出来るが……それはただの支配だ。俺の目指す世界のあり方ではない」
「だよね。だからこのプロジェクトは護身用の武器として……いや武器というとあまりにも物騒だ。うむ。アイテム、だね!」
名前を変えて誤魔化そうとしているが、結局のところ殺傷性のない武器である。そもそも件のプロジェクトがどんな内容かは俺は知っているし、今更な話だ。
「プロジェクトの事は知っている。話とは何だ」
「まあまあ、そんなに焦らないで。それで、要件、いや問題というのは当プロジェクトにおける技術が流出してしまった事なんだ。勿論、まだ世間には知られていない。もし改悪されて殺傷性のある武器として一般ルートを辿れば悲惨な結果が待っているはず。君に頼みたいのは流失させた犯人を見つけて欲しいのさ。わざわざ警備に確認取るより君のその脳にインプラントされているマスターコンピュータに聞いた方が早いからね」
「随分とわざとらしい言い方だが、良いだろう。少々待て」
MPCにアクセス。と、同時にHYOZANグループ、及びその関連子会社、警備会社に配属している俺の分身に問い掛ける。
『アメノオハバリプロジェクト流出問題について』
「…………」
「へぇ、珍しく沈黙もあったもんだ。てっきりコンマ一秒で解決するかと思ったよ」
「姉さん、あのなぁ……こいつは機械じゃないんだから」
「……なるほど。分からないという事が分かった」
「君の、その力を以ってしても?」
「ああ。だからこそ分かった事がある」
「……!おい、まさかそれって」
「正体不明。……UNKNOWNの仕業だ」
「っ……無間郷を襲った連中か」
「アンノウン?お姉さん気になるなぁ」
「ああ、最近良く現れるようになった」
UNKNOWNの説明を雪凪にする。
「……ふむふむ、だからマスターくんでも分からないわけだ。それじゃ、お手上げ、しかも最悪だ。プロジェクトは凍結の方向に持っていったほうが良いかもしれない」
雪凪は嫌な事があるとすぐに全部取り消そうとする悪い癖がある。昔からそうだ。
「……それは早計だ。どの道流出した以上取り返しの付かない事になった。であるならばむしろ計画を早めて一般流通に流した方が良い。それで人々の命が守れるなら」
「……そうだね。ちょっと動転していたよ」
「しっかりしろよ、世界一の頭脳さん」
「うん。じゃあもう一度考え直すから、また何かあったら報告するよ。それと、問題の件について何か進展があったら連絡をしてくれないか」
「当然だ」
「おっ、ほうれんそうってやつだな」
秋彦……お前は姉とは違ってあまり賢くないな。もしかして今までの話殆ど理解していないのでは。
「そうとも言う」
「じゃあ姉さん、また」
「うむ。秋彦、今日は帰れそうにないから一人で食べてくれ」
「分かってるよ」
部屋を出ると、秋彦は深い溜息を吐いていた。
「UNKNOWN……あいつら何が目的なんだ?ただの破壊衝動に塗れた連中なのか?」
「いや……何か考えはあるはずだ」
ただユナに聞いたところで彼女は何も知らない。彼女の知らないところで計画が進んでいるのだろう。
しばらく沈黙が続くと、MPCから再度連絡が入った。
零課からだ。
『邪神発生。直ちに対処せよ』
場所を問い合わせると、東京、お台場。
「なっ、既に三十分以上経過しているだと」
「どうした」
「邪神が発生している。……!まずい!テレビ付けてくれ!中継やっているところないか⁉︎」
「あ、ああ」
秋彦はスマホを取り出し、テレビアプリを起動する。
「まずいな……全放送局が流している……。しかも誰か戦って……⁉︎ユナ……ッ⁉︎」
「んなにぃ⁉︎」
MPCから更に連絡。治安維持の為に日本軍及び米国軍の出動許可を申請。これを軍の指揮を握る首相が許可だと……あいつら勝手な真似をして……。そんな玩具で邪神を倒す事はおろか傷一つつけられん。
「ど、どうするよ」
「どうもこうもまずは邪神を倒す。秋彦、悪いが俺の代理で軍の説得に行ってくれ」
「ああ、分かった!死ぬなよ!」
「お互い様だ!」
待っていろ、ユナ。今すぐ助ける。
三人が会議中の時に遡る。
「隠し味に味噌」
「いや、それはダメじゃないかな……」
「そうですか。今度作成者に味覚を取り付けてもらわないといけませんね」
「あはは、まあ料理もこれから覚えてもらえたらいいから」
今日も色々作っちゃったな。私が来てから材料大量に使うようになってしまったし今度氷雨さんの買い出し手伝わないといけないね。
「ふぅ、帰ってくるまでテレビでも見ていようかな」
テレビをつけると、いきなりお台場が火の海になっている映像が映し出された。
「何これ……えっ、ていうかLIVEって書いてあるんだけどもしかして今現実に起こっていること?」
「どうやらその様ですね。今状況確認しました。邪神が出現しています」
「今、智覇彌は手を離せない…………だったら、私が行くしかない……!」
「ですが御主人様、無用な外出は作成者により禁止されています。気持ちはわかりますが、堪えてください。この島にいれば安全です」
「でも……」
「邪神を倒しに行く理由はありますか?」
「え?」
「予め伝えておきます。私はアンドロイドですので倫理観がありません。その上で答えてください。邪神を倒さなければいけませんか?」
「それは、当たり前だよ。邪神が出て、人々が苦しんだり、死ぬかもしれないんだよ?」
「その人というのには愛着があるのですか?どうしても守らないといけませんか?また邪神は守る対象ではありませんか?」
「え……それは見知らぬ誰かだけど…………でも……。うん。そう。そんな事どうだっていいよ。誰かを助けるのに一々理由なんていらないし私が邪神を倒すっていうんだからそれでいいでしょ……⁉︎邪神は守る対象なんかじゃない!邪神は倒すべき敵!」
私は知っている。邪神がいる事で皆辛い思いをする事を。私自身が邪神を生み出して智覇彌を辛い思いをさせたから。もうこれ以上誰かが辛い思いを抱えたまま放ったらかしになんて出来ない!
「どうやら何を言っても行こうという思いは変わらないのですね」
きっと、こうやって私を戦わせないようにプログラムしたんだな。でも。
「始めから無駄な言い争いだよ。行くよ、ヴィルマ!」
「……仰せのままに」
このAIは想像以上に賢いみたいだ。
お台場は想像以上に破壊し尽くされていた。でも、何が原因で邪神が生まれてしまったのだろう。この辺レジャー施設が多いから、カップルを見て嫉妬したとか?それでも、その程度の嫉妬では邪神は生まれないはず。
「戦闘に入る前にいくつか戦闘方法を紹介しておきます。いくらでも形態はアレンジ可能ですが、調整に時間がかかるので今回は基本の三種類の戦闘形態から選んでください。飛行特化型スカイバスター、地上特化型アースインパクト、水中特化型マリンフォートレスがあります。その他実在武器全てに変形が可能ですが、武器に変形中は他のアシストが出来ません。また、弾丸となるのは御主人様の気力、精神力……つまりやる気です。戦う気がある限り弾は出ます。ただし、使い過ぎて疲弊しないように。今日試しに行ったガントレットは私の方で出力を調整でき、御主人様の気力を使う必要はありません。ただ、気力を重ねると相乗効果により威力は増します。まずはこの程度の説明ですが、戦えますか?」
「うん、大丈夫。それじゃあ早速スカイバスターになって空から偵察しよう」
「かしこまりました。スカイバスター、オン」
ヴィルマは形態を変え、パワードスーツになった。
「装着完了。戦闘開始」
「ヴィルマ、全速力で空へ!」
「了解!」
一気に雲を突き抜けて、って行き過ぎ!
「ちょっとダウンして、オーケーオーケー。って、うわ、あれって軍だよね……既に砲撃開始しているし……戦闘機まで出てる」
「邪神には無意味です」
「恐らくこれが世間一般に邪神の存在が知られたのは史上初……これまでは智覇彌が秘匿していたから」
色々とまずい状況だなあ。犠牲も増えるし、無駄使いだ。
「とりあえずさっさと倒す方法を考えよう」
「提案。スカイバスターはエネルギー砲が打てます。これは邪神の部位破壊が出来る程度の威力です。まずはあの薙ぎ払ってくる腕を破壊しては」
「良し、それでいこう。でも、間違って地面には撃っちゃダメだよね」
「無論です。地球が木っ端微塵になります」
「だよね……位置調整して撃とう」
一旦地上付近まで降り、邪神以外何も当たらないところまで移動する。
「ここなら大丈夫そう」
「照準合わせ。ーー完了。エネルギー砲、展開。カウント、3、2、1」
「喰らえ‼︎」
気力を込め、放つ。
その結果、邪神の右腕らしき部分が吹き飛んだ。
「良し、一発目は成功、引き続き……ってあちゃあ、気付かれた。あいつ意思があるっぽいね。こっちくるよ、退避!」
「了解!……ッ⁉︎」
「エッ⁉︎」
気付いてからこっちに来るまでが速すぎる。およそ一秒。今までノロノロしていたのが嘘みたいに。そうか、今までは危害を加えられる者がいなかったから余裕をかましていたわけか。こっちがあいつの本来の動き。
「キャアッ!!!」
残っていた左腕の薙ぎ払いで吹き飛ばされる。
聞いたことがある。邪神の動きは光速を超える神速。常人では可視化できないその速さ。だけど、私には何故か見える。
「大丈夫ですか!」
「そっちこそ……ゲホッ」
「私でなければとっくに死んでいました。……次、来ます!」
まずい、押し潰される。早く飛ばなければ。
「間に合わない!アースインパクトに変形して耐える!」
「いけません!この状況で変形は無謀です!この僅かな隙を奴は乗り越えます!」
「クッ……」
ごめんなさい……私が勝手な真似をしたばかりに……。
「……そうだぞ。勝手に外出するな」
「え?」
いつのまにか空に飛んでいた。生きている……。振り返るとそこには彼がいた。
「智覇彌……」
「だが、足留めには感謝している。ユナ。出血していないか?」
「うん、私は大丈夫」
「そうか……よくもユナを殺そうとしやがって……許さん……」
何か、いつもと違うような雰囲気だ。あのいつでも平然とした態度とは別。今の彼は怒りそのもの。
「ね、ねえ。二人で一緒に倒そうよ」
「……何を言っている。俺一人で良い。ユナは待機」
「……思うんだけど、ちょっと過保護だよね。私だって戦えるんだから」
心配してくれていることは分かる。でも、彼ばかり戦わせていたらきっと疲弊していつか倒れる。完璧超人なんていないんだから。
「言ったはずだ。あくまでもそれは自己防衛用だと。こんな危険な真似はさせたくない」
「……」
何も分かってくれない。読心術持っている癖に、見ないの?見てよ。私の今の気持ちを。
「あまり睨み付けないでくれ…………分かった。今回だけだぞ」
「うん!!!」
全く、子どもみたいだ。本当は彼女を戦わせたくないのにな。だが、その高すぎる闘争心を抑えるには勿体ないな。
「俺が上からサポートする。ユナはアースインパクトになって足を破壊してくれ」
「了解!ヴィルマ、アースインパクト!」
「アースインパクト、オン」
ズドン、とユナが落下して着地した音が聞こえる。
「さて、名も無き邪神よ。ここから先は何もさせないぞ」
麻痺毒の魔術を掛ける事で五秒間、邪神は動けなくなる。この間に倒す。
「来い、創造破壊剣!俺を導け!」
剣を召喚し、そのまま次の技を発動。
「紅蓮弾!」
灼熱の炎を剣に纏い、振る。そうすることで五つの火球が生まれ、邪神を焼き焦がす。
「瓦礫が多すぎますが問題ありません」
「任せた!」
ローラーダッシュで一気に詰め寄り、足が見える。
「武器選択を」
「パイルバンカー‼︎」
拳を当て、気力の杭を打ち込む。
「退避!」
「スカイバスター、オン」
内部崩壊が始まり、一気に破裂する。邪神は崩れていく。
一度彼の元に戻り、追撃の許可を貰おうとする。
「智覇彌!トドメ、刺して良いよね?」
「ああ……ここまで来れば構わん……」
「行くよ、ヴィルマ。急降下!」
邪神目掛けてダイヴ。
「そして、ガントレットオンリー!」
「よろしいのですか?それ以外の武装が」
「良いの!この落下の勢いとガントレットに全てを込める!勿論、打った瞬間にスカイバスターに切り替えて脱出!」
「承知」
装備がガントレットだけになり、落下速度を上げる。
「いっけぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」
当たった瞬間に邪神は粉微塵と化した。
「うわっ⁉︎」
「スカイバスター、オン」
「っふぅ、危なかったぁ」
「無茶をしすぎだユナ……」
「あはは、ごめんね……こんな事言うのは間違っているかもしれないけど、私楽しかったよ」
「やれやれ……こっちの気も知らないで」
「さて、ここからが大変だ」
「テレビに思い切り映ったけどどうするの?」
「記憶を消すに決まっている。勿論、記録媒体もな」
ただし、タイムレスには効かない。
「……まさかな」
「どうしたの」
「この邪神の原因を調べてくれ」
MPC、案の定原因不明と出てくる。
「やられた……これはUNKNOWNの仕業だ」
この一連の流れ、完璧だ。俺は自身の特性のせいで釣り糸に悉く食い付いてしまっているようだ。
「UNKNOWN……」
「邪神は俺達を誘き寄せる為の餌だ。そしてテレビに映る事でユナが特定された。恐らくこれからUNKNOWNが本格的に動き出すだろうな」
まず、傘下のHYOZANグループの情報を流出させる事で間違いなく俺が動くという事を理解し、その隙に邪神を何らかの方法で召喚。HYOZANに気を取られていた事で俺が出ず、またマスコミが映像を勝手に流してくれて、その上でユナが映ってしまった。全て奴らの狙い通り、見事に引っかかったというわけだ。
現状の目的はユナの奪還か。だとするとこれからはユナと行動するのがデフォルトだ。絶対に奴らの手に渡さない。ユナは俺が守る。
今回の一件で日本軍を使わせないように全権を再び俺の元に集約した。結局、秋彦は上手く説得が出来なかったようだ。仕方ない、あいつらは能無しのバカだから。見た目最悪の秋彦が行ったところで聞く耳は持たない。にしても、記憶を消された上にいきなり権限剥奪など理不尽だと思われるだろうか。とはいえ、二度と同じ事を起こすわけにはいかない。
そして、これからUNKNOWNとの本格的な戦いが始まる。
某所。
「コードネームUの位置を特定しました。K」
「うむ、ご苦労。これでようやくN様に報告が出来る。……N様。Kです」
「キル。どうした」
「U様を見つけました」
「おお……やっと見つけたか……待っていたよ。……ううん、待っていてね、僕の、ユナ」
その男、N、その顔、呉燈智覇彌。
次回予告
生きていく上で必要なものは全て揃っている。衣食住、困るものなど何もない。欲しいと思えば手に入り、不自由なものは存在しない世界。それでも人は欲望のままに、野望を抱き悪に手を染める。人とは、何だ。
第十三説 安座間亥
俺の眼は呪われている。