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CREATE LEGEND  作者: 星月夜楓
第一章 無間の彼方
12/22

第十説 零課

前回のあらすじ

無間郷の長い一日が終わった。

 色々とバタバタしてしまってロクな挨拶もできずに今回の無間郷の生活は終わりを告げた。ユナには悪い事をしてしまった。それでも彼女は付いてきてくれるというのであるから、俺は一層後ろめたくなる。挽回しないとな。


 さて、俺たちは陽一と亥を除いて現実世界に戻る。陽一は妹と無間郷に暮らしている。学校の時間になると外に出てくる。妹はその間無間郷の何処かで遊んでいるらしい。亥は気ままに学校に来たり、賭け事をしている。完全に遊び人だ。そろそろ痛い目に合いそうだし、合ってほしい。彼は自分を見直すべきだ。




 現実世界に戻った瞬間、MPCから大量のメール及び電話が届いているという報告があった。


「差出人は?」


「全て零課からです。一分おきに電話が掛かってきています」


「そこまで重要な案件か。繋いでくれ」


「畏まりました」


 最初の時間は十七時。四時間経過している。外の世界と通信を遮断していたツケが出てきたな。


 電話が繋がった瞬間、「おっせーよ‼︎」という怒号が頭の中で響いた。この声は05だな。


「すまない、訳有って出られなかった」


「いいからさっさと現場に来い!メールに場所添付してあるから!」


「わかった。今すぐ行く」


 通信終了。向こうから切ってきたのだ。現場、となると何か事件でもあったのだな。


「銀行立て篭もり事件ですね。既にニュースに取り上げられています」


「そうか……零課が出るとなると多分能力を使わざるを得なくなる。マスコミに手を回して報道させないようにしろ」


「承知致しました」


「ユナ、何度も悪いな。家には送るから」


「うん、大丈夫だよ。仕事なんでしょ?」


「ああ」


「俺が送ってやってもいいけどな」


「秋彦、お前は一人で帰れ」


「ひでえなおい」


「俺には時空間転移があるからそっちの方が早いからだ。なんだ、お前も送ってってほしいのか?」


「ば、ちげえよ!ったく……はいはい、俺は一人で帰るから。それじゃあな、ユナちゃん」


「ユナにツバつけたら例えお前でも殺すぞ」


「おっかねぇ〜本当ユナちゃんの事になるとお前怖くなるな。んじゃ、帰る」


 秋彦は部室の外に出て行った。


「手を出してくれ」


「ん?はい」


 今まで何度も触れてきたがやはり華奢な手だ。


「ちょっと意識が飛ぶかもしれないが安心してくれ」


「飛ぶんだ。じゃ、目を閉じよっと」


「その方が良いかもな」


 時空間転移術を発動する。詠唱が必要なく、無音でコンマ数秒で指定の位置にジャンプできる。これを悪用すれば暗殺など容易だ。


「さ、着いたぞ」


「うぉ、本当に一瞬で家に着いた!」


 できればあまり多用したくない。現代において時空間転移が観測されれば問題になる。とはいえ、事件の現場にはこれを使わないと間に合わないから今回だけは使う。


「遅めの夕食を食べて寝るか待っていてくれ」


「行ってらっしゃい」


「ああ」


 再び時空間転移術を発動し、現場に直行する。




 場所は千代田区某所。都市銀行を狙うとは中々の強者(つわもの)だ。すぐに通報されると分かっていてやる。そして零課が出ている。これはタイムレスによる一種の挑戦状のようにも感じられる。いや、もはやこいつはタイムレスではない。ただの異端人だ。或いは人ですらないか。


「遅れた」


 05がいたので話しかける。


「……それだけか。ったく、お前が来ないから事件勃発から五時間以上経過してんだ! 突入には俺とお前が行く。06は内部の情報を集めてもらっている。爆弾を用意していて、客と社員に付けているらしい。窓口の営業時間が終わっていて人質は殆どいねえ。ATM利用者は運が悪かったな。後は片付けで残っていた社員だ」


「成る程。05だけでは無理なのだな」


「あぁそうだよ。うるせえなぁ、手を貸しやがれってんだ」


「問題ない。秩序を齎すのは俺の役目だしな。元よりそのつもりだ」


「戯言は良いからさっさとやるぞ。00、準備は出来てますかね」


 無線越しから声が聞こえてきた。


「いつでも可能だ。発砲及び能力の解放も可能である」


「よっしゃ、それじゃあ派手にぶちかましますかね」


「待て、お前の能力はなんだ」


「は?ああ、言葉通り派手にぶっ飛ばす爆発だよ」


 よりによって爆発か。引火しないといいが……。


「爆発の合図でお前が飛び込む。一階は問題ない。人質が入るのは二階。爆弾解除はもうすぐ終わる。06はそういうのに強い。なぁに、派手といっても威力は抑えるさ」


「俺が最初から転移すれば問題は解決すると思うが」


「それじゃ面白くねえだろうが!良いかァ、よく聞け新人、こういう状況でも楽しめよ!というか俺が楽しくなきゃいけねえんだ!折角の仕事なんだ!クソッタレでシミッタレた地下生活なんざ懲り懲りなんだよ!」


 人の命が懸かっているというのにこの男は……。だが、こいつを楽しませつつ全員救出かつ逮捕するという結果を残せば良い。簡単なことだ。


「やれやれ、仕方ないが話に乗ってやる」


「そうこなくっちゃな。んじゃぁぁぁ、行くゼェェェ‼︎」


 玄関近くの壁が消えた。05の能力は爆発ではないのか?コロコロと小石が転がっているのが見られるが、これが果たして爆発といえるのか。


「なんだかんだでプロだからなぁ俺」


 したり顔で言っているが、派手に爆発しなかったのであまり格好良くない。


「……そういう事にしておこう」


 突入。先程の説明通り、一階は誰もいない。階段を登るのは悪手だ。足場の不安定さ、足音が出やすく気付かれる可能性がある。そこでグラップリングフックを創り、柵に引っ掛ける。そのままスーッと上がっていけるので殆ど音を出さずに上がれる。


 爆弾は正常に解除されたとの報告を受ける。


「こっちだ08。心音が聞こえる。五つだ。人質は三人。つまりホシは二人いるってことだ。気を付けろよ」


 さしもの05も小声で話す。俺も二人いるということは既にMPC越しに分かっていた。が、今は新人という立場なので何も言わなかった。言えばまた絡まれる。


「ああ。二人とも能力持ちか」


「多分な。おっと待て、脈の回数が増えている。ていうか心音がどんどん大きくなっている……気付かれた!」


「避けろ‼︎」


 突如、壁が破壊される。俺は咄嗟に回避した。05も後退したようだ。


 壁の奥からギラつく赤い目が見える。


「こいつまさか」


「身体を岩に変換させる能力、いや岩を身体にくっ付けているのか」


 体長およそ五メートル。天井を突き破る程の大きさだ。巨人と言っても良いだろう。館内を破壊してその瓦礫を吸収して自身の身体に取り込んでいるのか。


「磁力もあるかもしれない。金属製のものは捨てておけ」


「ああ、わかってらァ。貴様、なぁにトチ狂って銀行強盗なんかしてやがる」


 05は持っていた銃を投げ捨てる。


「そうだな。金に困っているなら俺のところに来れば良かったものの……」


「金?ククク、そんなものは必要ない!そんなものすぐにでも手に入る!俺に必要なのは存在だ!こうやって銀行を襲えばすぐにバカの野次馬が取り上げる!そして愚民共は恐怖し俺に平伏す!その快感が堪らねえんだよ!」


「そうか……そんな事をしなくてもお前は活躍出来ただろうに」


「同情など必要はない!」


 ……は?同情?


「同情などしないな。お前はもう既に人の道を捨てた。俺は人間しか救わない。ああ、そうだ。お前の言うバカの野次馬……マスコミなら既に撤退させた。お前よりも説得しやすいよ。奴らは金で動くからな」


「貴様……!」


「今日は何にもなかった。この事件が終われば人々の記憶を操作してニュースに取り上げられた事すらなかったことにする。そしてお前は死ぬ」


「08、お前は一体」


「何、俺はただの世界で一番の人間さ」


「だが、貴様ら一歩でも動いてみろ。その瞬間人質全員を殺す!」


「もう一人の男を使って、か。残念ながらそいつは無理な話だ。そいつはもう死んでいる」


「なっ、ハッタリかましてんじゃねえぞ。おい!」


 男はもう一人のホシに通信しようとするが、出ない。


「どうなっている」


「俺がいつまでも此処にいると勘違いするなよ。もうお前は俺の術中に嵌っている」


「何をした!08!」


 その言葉に返答はしない。何故ならば今この瞬間俺はそこにはいないからだ。彼らには俺の姿は見えているが、実際に存在する俺は今、もう一人のホシの心臓を手で貫いたところだ。


「よぅ、岩男」


 落ちた無線機を拾い、男に話し掛ける。


「な、なぜ貴様がそこに……!」


「種明かしといこうか。だが、貴様の小さな脳で理解できるかな。図体だけでかいんだろ?それはともかく、話してやろう。お前達が見ていた俺は五秒前にいた俺でしかない。実際に存在する俺は既に此処にいた」


 この瞬間、05と岩男の前にいた俺は消えた。正確に言うと、時空間転移術を発動してここに来ただけだ。


「どういうことだ……」


「かなりくっきり見える残像と言えばわかるか?そいつに実体はない。本来俺がいる場所を認識する事は不可能だ。五秒先の未来が見える奴ならともかくな。……これが俺の『五秒後の世界(Delay Five Second、以下DFS表記)』」


 俺の能力の一つで、邪神など、未来観測、時間に干渉できる能力者には通用しないが一般的な生物には全て通用する。


 詳しく説明すると、時間を一度止め、五秒の間に目的地に移動、やりたい事や台詞をあらかじめセットしておいて解除する、という事だ。ただの時止めと違う点は、常に五秒後の世界から攻撃出来るということ。制限は、ない。


 こいつは正々堂々と戦わない能力なので普段は使わない。が、今は急を要したので発動することにしたのだ。


「気を付けろよ。声は聞こえるかもしれないが実はお前の目の前にいるかもしれないからな」


 声が遅れて聞こえてくるよ、なんてな。俺の動きは光速を遥かに凌駕している。速さとは少し違うか。とはいえ、そういう速さを超えているのだから音速などこれに比べりゃ赤子のヨチヨチ歩きみたいなものさ。


「ウワァァァッ‼︎来るな!来るなァァァッッ‼︎‼︎」


「ふん、恐怖で支配するんじゃなかったのか?お前の方が余程恐怖に染まっているではないか」


「後は任せたぜ、先輩」


 05の肩を叩くとビクッとする。


「いつの間に」


「楽しめよ先輩。楽しまなきゃ気が済まないんだろ。俺は楽しいぜ。久々に俺は、俺のためだけに動いたからな」


「あ、ああ……‼︎わかってらァ‼︎」


 05は岩男に指を向けると、突然爆発が起きた。岩が飛び散り、血が蒸発していく。


「ゴフォッ⁉︎何を、した……」


「内部爆発だァ〜見たことねえだろ!じゃあ俺もこの爆発の種明かしといこうか。いいかァ、空気は一般的に窒素、酸素、二酸化炭素とかで構成されてるって学校で習っただろ?そいつを一番爆発しやすい構成に変換したんだよ。これはお前の体内の空気にも同じことが言えんだよッ」


 突然、MPCから連絡が入る。


 地球上にある可燃性ガスの塊と狙いを定めた空気の塊を入れ替えているらしい。何度か観測されている。それでガス爆発を引き起こすと。では、どうやって引火しているのだ。いや、違う。こいつの能力の本質は爆発じゃない。


「空気を変換したってのはわかっただろ?じゃあどうやって爆発に持っていくかだ。はいこれ」


 そこらにあった石を拾い、見せると、その石はライターに変わった。


「物と物を入れ替える能力か……」


 奴の岩の一部をライターなりなんなり燃えるものに入れ替えたのだ。


「そういうこと。ちょっと回りくどい説明しちまったな。ただし条件がある。空気は空気しか入れ替えられない。物は物同士しか入れ替えられない。ということは、人間は人間同士しか入れ替えられないんだわ。だから人質をすぐに解放することはできなかった。だがよォ、お前を倒すには十分すぎるんだわこの能力。もう、分かっただろ?お前に勝ち目はない。ああ、ちなみに言っとくと俺が爆発ばっかやるのは単純に破壊衝動に塗れてるだけさ」


 ……こいつを敵に回すと厄介だな。00及び警視庁は良くこいつを味方につけたもんだ。


「そんな……バカな……」


「とまあ、そんな感じで。岩ちゃん泣くなって。最初から見えてた結末だ。08が想像以上にやべー奴だったのはビックリだけど。ほら大人しくしろ」


 褒められたのかどうか分からないが、これで事件は収束したーー。




 それから05の能力に驚いて言い忘れていたが、心臓を貫いたもう一人の奴に関して。実は心臓は別空間に保管しておいた。なので、元に戻せば奴は生き返る。


 死者を出すことなく事が済んだのは良いことだ。俺だって人を殺すのはいつになっても好きにはなれない。


 事件が終わり、二十三時に会議が行われた。


「08、お前の能力一体何なんだ」


「説明しただろ」


 調子に乗ってしまったせいか、05に絡まれる。


「いやァ、絶対に他にも能力あるだろ。ズリィよぉ〜俺にももっとくれ!」


「お前の能力の物を入れ替える能力も大概だと思うが……条件があるとはいえ物に関しては広義的ではないか」


「ヘッ、気付いたか。例えば髪の毛一本で札束と入れ替えられるんだぜ」


 バカバカしいが、こいつならやりそうだ。


「なんだかんだ言って仲良くなって良かったです」


 06は俺たちを見て微笑む。なんとも微妙な気分だ。


「どうかな」


「んだとォ⁉︎」


 ムキーッとなっている05に対し、00は諭す。早く場を切り上げて俺は帰りたいよ。


「落ち着んだ05。……さて、任務は果たされた。人質から記憶は抹消し、今日の事件は全て無かったことになった。皆、無事に生存した事は誇りに思う。今回は小事件であったが、今後はどうなるかわからない。08、その時はよろしく頼む」


「ああ、任された」


 元よりそのつもりだ。全てのタイムレスは俺が見つけ出し、無間郷に保護する。敵対すればその時は俺が始末する。今までもしてきたし、これからもそうする。


「では、今日は解散とする。もう深夜だな。我々はあまり時間の観念がないが、08は帰る場所があるのだろう」


「そうだな。ではこれで」


 ユナの元に早く帰らなくては。




 帰宅。時空間転移術を使ったので移動時間は0秒だ。かなり遅めの夕食を取る事になってしまったな。その前にユナの確認を……としようとしたのだが、俺の前にユナが現れた。


「おかえり」


「あ、ああ。突然すぎてびっくりした」


「そろそろ戻ってくるかな〜って思ってたから出待ちしてたんだ。今日は私が作ったから、食べてね」


「すまない、助かる」


 俺もユナも作ってしまうから使用人の役目があまりないな。


「良いって良いって。ちなみに料理の腕前は自信あるよ。あそこにいた時は基本一人だったからやるしかなかったからね……てことでちゃんと食べてね!」


「もちろん、いただくよ」


 楽しみだな、と感じた時、俺はあの日から日常から逸脱してしまったものの、ユナと出会ってから苦痛に感じたことは桜花が死んだ時くらいで、それ以外は楽しんでいると自覚した。俺が楽しんでいるだと? 許されるわけがない。俺はーーを終わらせるまではこんな感情は捨てるべきなのだ。だが、良いのか?そんな問いに答えるものは誰もいない。


 ーーせめて今だけは。


 楽しんでも良いのかもしれないなーー。

次回予告

錬金術、それは遥か昔に打ち切られた研究。だが、打ち切られたわけではなく、実際には成功したものだった。成功したばかりに、彼らは学会を追い出された。錬金術は夢のようなものではない。残酷な末路へと(いざな)科学(まじゅつ)


第十一説 赤石陽一

科学と魔術を交差させた異端。

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