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CREATE LEGEND  作者: 星月夜楓
第一章 無間の彼方
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断章 玄真冬帝の独白

突然ですが、今後、断章といった形でサブキャラの掘り下げを行なっていきます。あくまでも番外編です。CREATE LEGENDは基本的に主人公一辺倒ですが、サブキャラのポテンシャルはどれも主人公に匹敵するものがあります。そこで、スポットを当てるために断章という舞台を用意しました。

 あの悲劇、白虎との戦い、北上桜花が死んで十数日が経った。


「ねぇ、冬帝さん。冬帝さんって古参だって聞いたからこの世界の成り立ちを知っていると思うんだけど、聞いていいかな?」


 今暇だからと言って私の家に訪れたユナ。彼女の口からこう言われたのだ。


「そりゃ、最古参だからね。しかしまあなんで突然。……いいさ、私もやる事がない。……。特別に教えてあげる」


「本当⁉︎」


 この子調子狂うんだよね。どっかの誰かさんと似てさ。


「それじゃあ話すわ。ああ、待って。お茶を飲みながら話しましょう」


 冬帝は立ち上がり、ポットの湯を紅茶のティーバッグが入ったカップに入れた。


「えらく簡素になっちゃったね」


「仕方ないさ。私は淹れ方がわからないから」


「そっか……」


「基本的に家事は任せてたからね。さて、話しましょうか」


 コト、とカップの音を立て、置いた。そして、彼女は話し始めた。




「うわぁぁぁあああああッ‼︎‼︎ バ、化け物だぁぁぁああああ‼︎‼︎‼︎」


 私は、虐められていた。自分が普通の人間じゃないと気付いたのは物心がついた時から。親に捨てられ、一人でスラムを彷徨っていた。周りからは化け物と呼ばれ、石を投げつけられ、私の精神はボロボロだった。まあ、でも、化け物と呼ばれても仕方ないよ。こんな尻尾生えて、しかも先端が蛇だなんて。他の人間はそんなのないじゃない。普通が普通でなくなる時、人間はこれ以上ない非情さを露わにする。




「来るな化け物! 肉ならくれてやるからもう来ないでくれ!」


 私は、ただ買い物をしたかっただけなのに。最初はわずかなお金を駆使して生活を送ろうとした。結果的に見ればタダで手に入る事が多かったのであまり食事には困らなかった。だけど、精神は追いやられるばかりだった。


「な、なんだよ。何見てんだよ。お前のような奴にあげるようなもんはねえよ! さっさとどっか行け! さもねえとこの石ぶん投げるぞ!」


 痛い、痛いよ……石、投げないで。


 時にはこうして怪我をする。治る事はない。この傷は一生残る。


「お前とは絶対遊びたくねえ!」


 ああ、そうか、私にはどこにも居場所がないんだ。そう感じた頃はあまりにも遅かった。


 そうして二十年も過ぎた。私は死ねなかった。誰も、私の助けに応えるようなやつはいなかった。そうだよね、私は人間に似ているだけで人間じゃないから。


 スラムを出たら、それこそ私の存在は異形だ。皆の視線は私を向く。それは好奇心なんかじゃない。恐怖でしかない。ーーだったらもっと怖がらせてあげる。




 だから、私を化け物と呼ぶ者を一人残らず殺した。お前らこそ化け物だ。人の皮を被っただけで、何も本質は変わってなどいない。




 私の目はとうに死んでいて、廃人一歩手前だった。何故か自殺しようとは思わなかった。むしろ人のようなそれを殺すことに快感を覚えるくらいになってしまった。もっと殺したい。私を貶すもの、虐めるもの全てを!


 そしてまた一年が過ぎた。西暦2019年春。私はもう二十歳を超えているというのに今だにそこまで人並みに大きくならなかった。これも人ならざる者である故なのか、と自己解決に至った。


 そこで私は、生まれて初めて恐怖ではなく好奇心で責め寄って来る人がいた。


「あ、あの、その尻尾は飾りですか? それとも本物?」


「本物だといったら?」


「凄い! 世紀の発見ですよ! 人に尻尾が生えてくるなんて! 先は蛇と来た!まるで伝説に出てくるゴルゴンのようだ!あれは頭だけど!良ければもっと見せてくれませんか⁉︎」


 すぐにそれは好奇心ではないことに気付いた。もっと(おぞ)ましいものだ。この胡散臭い科学者は私を実験対象として見ている!


 今すぐにでもこいつを殺そう。世間に発表されたらきっと私はもっと苦しい生活を強いられる。もう耐えられない。


「待て」


 えーー。


 気配を感じられることができなかった。振り上げた私の腕を何者かに抑え付けられていた。


 瞬きをした瞬間、目の前にいたその変態野郎の体が真っ二つになっていた。


「い、一体何が……」


「俺が殺した」


 淡々とそれは告げられた。嘘でしょ、私の腕はまだ抑えられている。だというのに明らかに距離が離れている男を殺したというの!


「……お前は異端人か?」


「だと言ったら?」


 こいつの感情、よくわからない。それに異端人って何?


「……」


 すっと手は解放された。そして彼を見た。髪型は寝癖だらけでただの人にしか見えない。


「獲物を取って悪かったな。だがこれ以上お前に人を殺させたくはなかった。最近頻繁にこの地域で起きている殺人事件を調査していた。そして特定した。お前がやったということをな」


 まさか、警察なの?


「とはいえ、折角見つけた対象をこの凡人科学者などに取られたくはなかったからな。抹殺したまでさ。ああ、そうだ。俺の名前は呉燈智覇彌。年齢は十六。唯の高校生だ」


 唯の高校生がなぜ私を。


「唯の、ではないか。……周りに人はいないな」


 一体何をするつもりなの?


「俺は……俺もまた、お前と同じ異端人だ」


 背中から黒くて硬そうな翼を生やし、肘からは骨が突き出て肋骨もまた皮膚から飛び出して歯はギザギザになっていた。それだけじゃない、手も異形だ。ツノが二本生えていて、それはまるで悪魔だ。


「俺は出来損ないなんだ。だけど、俺には夢がある。俺達みたいな奴らをかき集めて新しい世界で生きていこうって」


 新しい、世界?


「お前をその世界の第一の住民として迎え入れたい。着いて来てくれるか?」


 よくわからないまま、私は彼に着いて行ってしまった。空間が割かれ、向こうに森が見える。何がどうなっているの。


「ようこそ、無間郷へ」


 む、無間郷?


「また忘れていたことがあった。さっき俺は科学者を殺したが、なぜお前の手を掴んだまま殺せたのか、についてだ。単純さ。俺のこの剣を別空間に飛ばして男の後ろに持っていく。そしてそのまま横切っただけ」


 へ、へぇ。今更どうでもいいことなんだけど。


「それよりも、だ」


 私の心を読まれた感じがした。


「お前を虐げるような奴はこの世界に誰もいない。お前の居場所はここだ。……なんせお前がここの初めての住民なんだからな。無限に続くこの世界、これから俺達みたいな奴らで切り拓いて行くんだ」


「私の……居場所……」


「あ、また忘れてた。お前の名前教えてくれないか?」


「……玄真冬帝」


 いつの間にか私は彼に惹かれていた。何故、わからない。何かに駆り立てられる気分だ。心は以前よりも穏やかになっていた。


「玄真冬帝。ここに四人の柱を立てる。……そうだな、お前の名前と体で思いついた。四神から取って冬帝を北柱、玄武にする。お前のその尻尾、蛇だしな。都合が良い。さて、他の三つの柱を探さないとな……ちなみに俺はその中心の麒麟な。ってどうでも良いか。ともかく、俺と四人でこの世界を統治しつつ、拡げていく。夢みたいな話だろ?だが夢じゃない」


「……」


 そんな大役、私にできるかしら。彼の顔をじっと見つめた。


「なんだ? 俺の顔に何かついているのか? ……ああ、家がないな。忘れていた。早速作ろう」


 そう言って彼は指パッチンをして森一帯を整備し、豪邸を作ってくれた。凄い、この人の能力は一体どれだけあるというの?


「これで良し。食べ物も完備してあるから、しばらくは食いっぱぐれない。俺に頼めばいつでも供給できる。ただ俺は仕事もあるから行けない時もある。その時のために二人目の住民を探す。お前に仕える奴をな。そうそう、この世界の時間は現実の五倍の早さだ。向こうの一日はこっちの五日。半日なら二日と十二時間だから、半日で探してくる。それじゃあな」


 一瞬にして彼は消えた。


「あ……」


 待って、と言えなかった。ありがとうと言う暇も与えてくれなかった。あまりにも一方的だった。


 でも良く良く考えてみると、今は一人。確かに誰からも何もされない。逆に考えたら一人ぼっち。本当に半日……二日で彼は来るのかな。何故か不安になって来た。ここまでしてくれたのにまだ疑心暗鬼になっている私がいる。信じ切ることができない。同じ仲間だって言い寄ってここに閉じ込めて私を永遠に一人ぼっちにさせるのかもしれない。怖くて仕方がなかった。


 だけど、それは杞憂にしか過ぎなかった。何と彼は五時間、現実の一時間で二人目を連れてきたのだ。


「待たせたな。思ったより時間がかかった」


 言葉が出なかった。何が時間がかかったよ、約束よりずっとずっと早くて涙より変な顔が先に出てしまったじゃない。


「お、おい。泣くなよ。悪かったよ」


 泣いてなんか……あれ、嘘。知らないうちに涙が。


「違う……これ……嬉し泣き……」


 上手く話せない。早くしっかりと話がしたい。もっと貴方と。


「そうか……。とりあえず二人目を紹介するよ」


 そういえば、そうだった。二人目は男か。仕える奴って言ってたから執事と言ったところかしら。……何で執事なのよ。私、別にどこぞのお嬢様じゃないわ。


「お前の執事になる北上桜花。桜花だが男だ。今は唯の人間だが、いずれ能力を開花させる可能性を秘めているに違いない。」


 男なのに桜花……まあ、智覇彌も智覇彌か。いや、この名前の漢字は明らかに巫山戯ているとしか思えないのだけども。


「よろしくお願いします。ええっと貴女様は……」


「玄真冬帝。ふゆみでいい」


「冬帝様、でよろしいでしょうか」


 何故に様付けなのよ!


「え、えぇ……」


「これから貴女様をお仕いになる上、失礼ながら様をお付けなさりますが、お気に召しませんでしたか?」


「そ、そんなこと、ないけど……」


 何か、無理して敬語している感じがするから。


「……だけど、もし無理して敬語するなら、普通に話した方が良いと思って」


「そうですか。じゃあ話しやすい方向で行きます」


 あまり変わってないように感じるのは気のせいなのかな。


「ということで、家事などは全部桜花に任せろ。冬帝は開拓。俺は住民を探す。上手くいけそうだな」


「まあ、確かにね」


 色々と妄想してしまった。これからとことん楽しい生活が来るのだろうって。今までの分が直ぐにでも帳消しになるくらいに。




 なのに、どうして桜花は死ななきゃいけなかったのだろう。違う、始めから理由はわかっている。死を認めたくないだけ。私の所為なのに……。


「無限郷の成り立ちはこんな感じよ。はあ、何だか悲しくなってくるわ。今でも桜花のこと、引きずってしまっている」


「あ……ごめんなさい……。まさか桜花が成り立ちに携わっているとは思いにも寄らなかったから……」


「仕方ないわね。……桜花」


 いつの間にか私の気持ちは揺れ動いていた。何故なら彼に私の気持ちは伝わらないから。それに、今この目の前にいる彼女こそ彼に相応しいのだから。彼、ずっと彼女を見ている。私の事なんて見ていない。唯の異端人か、四柱の一つか、そのどちらとしか見ていない。一人の女としては見てくれはしない。だから諦めた。諦めたら、桜花が側にいた。だけどその桜花も、今はいない。私は何だかよく分からない気分になった。


 突然の吐き気と目眩が催して突っ伏した。


「! 冬帝さん⁉︎」




 目を覚ますと、家のベッドに横たわっていた。誰かいる。……桜花?


 いるはずもない名前を呼びそうになった。


「起きたか……良かった」


 居たのは彼だった。それと彼女。ずるい、ずるいよ。せっかく諦めたのに、何で彼は私を心配してくれるの⁉︎


「どうしたんだ?」


 無意識に彼の胸ぐらを掴んでいた。


「……、何でもない。ごめん」


「それにしてもびっくりしたよ。ともかく何もなくて良かったぁ」


「冬帝が倒れたと聞いたから仕事放って急いで来たんだ。大切な仲間をこれ以上失いたくない。だから、何もなくて本当に良かった」


 仲間。ああ……そうか、仲間なんだ。私は勘違いをしていた。私は彼にとって唯の異端人じゃない、仲間。


「私は別に後追いするつもりはないから。ユナ、今度は桜花の話でも聞かせてあげるわ。あんまり貴女とは交友はなかったけど、なんでただの人間だった桜花がこっちに来たのかを」


「うん」


「その時は俺からも話そう」


 これ以上の関係を求める必要なんてあるの? 私にはないわ。この関係がずっと続きたい。永遠に。そうすれば私は彼の死を乗り越えられる。彼の言葉通りに。




 永遠にこの世界を謳歌していきたい。

これを書いたのは相当前だったので、本編とちょっと矛盾があるかもしれませんがその辺はご愛嬌で。確かDARKNESS LEGENDの時だったかな?

私の作品も投稿し始めてから早3年。作品を作り始めたのは10年になります。時の流れは早く、書くスピードは遅くなっています。しかし、最後までやり切るつもりなのでどうぞよろしくお願いします。


いつも読んでくれる方、ありがとうございます。少しでも読んでくれる方にも感謝を。

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