ゲイル
Mr.ブラウンが営むバーに名前は無い。バーを呼ぶ場合、皆はブラウンのバーを呼んでいる。皆と言えどバーを訪れる者はごくわずか。その人種も偏った、裏の世界で生きるような人々ばかりで常人にはとても来れる場所ではない。
そして、そんなような常連も、一人、いる。
「来たな、ゲイル」
「いつものコーヒーを頼む、マスター」
ブラウンがゲイルと呼んだこの人物こそ注目すべき者。裏世界では有名なキラー、そして、あの大統領暗殺の実行犯。しかしこの時はまだ彼自身、自分の手で大統領を殺めるとは思いもしていない。ただの腕のいい殺し屋なだけだ。
ゲイル、見ためはと言うとあまり大柄ではなく、顔は少年のように見える。羽織る大きめなロングコートは元々は茶であったろうが汚れにより黒く変色している。頭には黒のベースボールキャップ、つばの部分が傷だらけで中の部分が肌蹴ている。容姿が幼く見えるのはキャップのせいでもあるのだろう。しかし幼く見えようにも、眉間に刻まれている深い傷跡がいかに危ない道を通ってきたのかを思わせる。相応であろうその歳、幼いながら、強さを兼ね備えている。