クズ
エルの店先に、二人の男が、入り口を塞ぐように立っている。
ウエイターの格好をした方は、店のオーナーであるジズという男。もう一人の黒服姿の男は、ドスターの側近の一人であるディックという名の男だ。
「当分はグレーランドを離れられるという事で、我がエルにもお顔をお見せ頂けないのですね」
「ふっ、本当のところ、心底喜んでいるのだろう? 腹黒い奴め」
「いえいえ、寂しい限りです」
ジズは、常、微笑の表情を絶やさずにおり、ディックが心内を暴く。
「しかし、ドスター様はどちらへ? さぞ遠い場所まで向かわれるのでしょう、大変ですね」
「極東までだ」
「ディック様も、ご一緒されるのですか」
「いや、俺は此処に残る。今後は俺がこの辺を仕切る事になっている」
会話は淡々と進むも、二人の様子は何一つ変わらないまま。感情を行き通わせる事なく、ただ情報を渡しているかのようだ。
「おやおや。では、今後はディック様が此処の大将なのですね」
「俺はあの方のように変にヒイキしたりしないからな」
「それは困ります。ディック様も今宵遠慮なさらずに……。もし宜しければウチのナンバー1をお持ち帰りなさっても構いませんので、今後どうか御ヒイキを……」
ジズは満面の営業スマイルでディックを見る。とは言うものの傍から見ればさほど変わりは見られない。
「相変わらずお前はクズだな」
「お褒め頂き、大変光栄でございます」
ジズがそう言ったとほぼ同時、ディックが鳩尾に前蹴りをかまし、ジズは腹を押さえて膝をつく。しかし、彼の表情は変えずそのまま相手の顔を見続けていた。