これが……、推しっ!
──ビビアンが間違った覚悟を固めた一週間後、王城からリチャードとビビアンの顔合わせに、御茶会をしないかという手紙が届いた。
「ビビアンよくやった! 知らぬ間にリチャード殿下の御心を射止めていただなんて……。父は嬉しいぞ!」
婚約者に内定したという知らせを一早く受け取った父は大層喜び、母も胸の前で手を合わせ夢見心地だ。
(違いますのよお父様、お母様……、これはカモフラージュのための婚約、わたくしは御二人の愛を見守るガードレディなのですわ)
しかし、秘密の恋路を応援すると決めたからには、父母であっても秘密を守らねばならない。
ビビアンはできるだけお淑やかに見える様に微笑んで、御茶会のドレスを喜び勇んで選ぶ母に付き従ったのだった。
──城の荘厳な門を、ハンナム家の家紋が付いた馬車が通り抜ける。
美しく整えられた前庭を走り、城のアプローチに到着すると、御者が扉を開けてくれた。
ビビアンが馬車から降りようとすると、すっと、幼いがすらりとした美しい白い手が差し伸べられた。
「ようこそビビアン、招待に応じてくれて嬉しいよ」
穏やかに微笑んで言うのは、麗しのリチャード様だ。
どうやら馬車から御茶会の会場までエスコートしてくれるつもりらしい。
ビビアンは申し訳なくなったが、ここで断る方が失礼だ。
少女は大人しくリチャードの手を取り、できるだけ淑女に見える様に微笑む。
「ごきげんよう殿下、本日はお招き下さりありがとうございます」
地面に着地したビビアンは、自身の紫の眼と同じ色のドレスを着ていて、金色のストレートの髪が映えて美しくも可愛らしかった。
ビビアンがリチャードの方を向くと、彼は口元に手を置いて顔を赤くしている。
(何故御顔を赤くされて……? ──はっ!)
ビビアンとリチャードの後ろには、先日の侍従がにこやかに微笑んで立っている。
きっとリチャードは、意にそぐわぬ相手のエスコートをしている所を侍従に見られるのが恥ずかしいのだ。
(これはいけませんわ……!)
しかしここで手を払いのける訳にもいかない。
ビビアンがおろおろしていると、侍従がリチャードに声を掛けた。
「リチャード殿下、ここに立ったままで御令嬢が困惑されていますよ。しっかりエスコートなさいませんと」
「あっ、あぁ! ビビアンすまない、こちらへ」
城の中に誘導され、ビビアンは思う。
(侍従の方はなんて御心が広いのでしょう……! 嫉妬どころか、アドバイスをなさるなんて……! これが大人の余裕、というものですのね……!)
城の大きな回廊を進んでいくと、花々の咲き誇る美しいガーデンに到着する。
ガーデンパーティの時とは違う場所で、東屋のある比較的小さめな庭の様だ。
東屋には既にティーセットが用意されていて、ビビアンの大好きなお菓子が盛り沢山に並んでいた。
「ビビアン、こちらの席にどうぞ」
リチャードに優しく促され、ビビアンは椅子を引いてもらって腰掛ける。
彼もまた、ビビアンの正面の席に座り、御茶会は始まった。
──「まぁ、殿下の御趣味は読書なのですね、素晴らしいですわ。わたくしはまだ難しい文字を読む事が出来ませんので、簡単な物語ばかり読んでいて……。お恥ずかしいです」
「僕だって初めはそうだったさ、そうだ。もし良かったら文字を教えてあげるよ。二人で図書館で本を読むのもいいかなと思うんだけど、どうだろう?」
「まぁ! よろしいのですか? 楽しみにしておりますね!」
リチャードとの会話は楽しくて、博識な彼の発言はどれもビビアンの好奇心を刺激した。
(なんて楽しいのでしょう! 殿下は本当に素晴らしい方だわ……。──っは!)
楽しくて禁忌の恋のガードレディだという事を忘れていたビビアンは、侍従がナプキンをそっと取り換えてくれた事で、その事を思い出した。
(いけませんわ! 侍従の方にもお話を振らなくては!)
ビビアンは不自然じゃない様に、話しの切れ目を見つけ、侍従に話し掛ける。
「殿下の侍従の方は、機転の利く素晴らしい方ですわね! それにとっても仲がよろしくて、羨ましいですわ」
「御褒め頂き恐縮です」
こげ茶色の髪をさらりと揺らし、侍従は会釈する。
そして眼をあげた彼は、空色の青い瞳をしていた。
リチャードの美貌ばかりに眼がいってしまっていたが、この侍従も引けを取らない男前だ。
声は、声変わりの途中の少ししゃがれたセクシーなもので、ビビアンに大人の男性というイメージを植え付ける。
「御名前はなんと仰るの? 御家柄は? 御歳は?」
「トム・ワイアットと申します。歳は13歳です。父は子爵の位を頂いております」
ビビアンより5歳年上の彼は、リチャードとは3歳差だ。
ビビアンにも8歳年上の兄が居るが、トムより余程子供っぽい。
いつもビビアンを揶揄ってくるし、悪戯を仕掛けてきたりもする。
それに引き換えトムの包容力といったらない、ビビアンが尊敬のまなざしでトムを見つめていると、やや不機嫌そうな声でリチャードが会話に入って来た。
「ビビアン、今日はトムじゃなくて僕と話しに来たんだろう?」
「ふふっ、御令嬢、どうやら殿下はヤキモチを焼いていらっしゃる様ですよ」
「トム! 余計な事は言わないでいい!」
顔を赤くしてトムを睨んでいるリチャードは可愛らしい。
きっと、トムがビビアンに取られてしまうかと心配なのだろう。
そしてその視線を受けて、にこにこしているトムは余裕な大人の風格だ。
ビビアンの心の中に、一つの感情が沸き上がる。
(尊いですわ……‼ 神様っ、ありがとうございます……‼)
こうして勘違いは加速し、トムとリチャードのカップル(勘違い)は、ビビアンの最推しになったのだった。
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