出会い
勘違い令嬢×美貌の王太子様
──「ビビアン、悪いが婚約についてなんだが……」
「婚約破棄ですわね⁉ 了解致しましたわ!」
朝日が降り注ぐ王城の王太子用の執務室、ビビアン・ハンナムは婚約者である王太子、リチャード・ロンバートに向けて即答した。
「は? 婚約破棄?」
リチャードはその翠の瞳を驚きに見開いて、ビビアンの言葉を反芻する。
「えぇ、えぇ、分かっておりますとも! お二人の恋路にわたくしは邪魔でしかない!こちらから持ち掛けるのもどうかと思っておりましたので、リチャード様がやっと決心して下さって喜ばしい限りですわ! では、早速わたくしは実家に帰りこの事をお父様にお話してきます!」
早口でまくし立てたビビアンは、縦ロールにした金髪を揺らし、リチャードの返事を待たずして部屋から飛び出した。
一方、残されたリチャードは口をあんぐり開けて、ビビアンが豪快に閉めて行った扉を眺めている。
そして、見事な黒髪を片手でぐしゃりと掴み、叫んだ。
「ビビアン! 勘違いだ‼」
──八年前、ビビアンは父に連れられ王城で開かれたガーデンパーティに参加した。
ガーデンパーティとは名目で、10歳になる王太子の婚約者を選ぶ為、年頃の近い名家の御令嬢達が招待されており、8歳になったビビアンもそのうちの一人であった。
「ビビアン、くれぐれも殿下に失礼のない様にな」
父は少々お転婆な娘に口を酸っぱくして言い募り、少女はそれに飽き飽きしていた。
「分かっていますわお父様、お淑やかに、食べ物ばっかり食べない、でしょう?」
「う、うむ。分かっているなら良い」
だが、王太子に挨拶をする為の列に並んでいるビビアンの紫の眼は、ガーデンに並んでいるテーブルの上の食べ物しか見ていない。
ぼーっとそれらを観察して、何から食べようかと思考を重ねていると、隣の父が低頭した。
(まずい!御挨拶の順番が来たんだわ!)
ビビアンは慌てて父に倣って低頭した。
「顔を上げてくれ、ハンナム侯爵及び、その御令嬢だな? 本日は来てくれてありがとう」
優し気な声に顔を上げると、そこには乙女の夢を体現したような、煌びやかな王子様が居た。
黒曜を思わせる艶やかな黒髪に、柔和な雰囲気を醸す翠の瞳。
声音は声変わり前の甘いもので、ビビアンはこれ程までに綺麗な少年が居るのかと驚いた。
にこやかに挨拶を返す父に裏で小突かれて、ビビアンはカーテシーをして挨拶する。
「ハンナム家令嬢、ビビアンです。ご招待ありがとうございます」
王太子と眼が合い、少年は一瞬動きを止めた。
その後、何故か顔を赤くする。
ビビアンは不思議に思って彼を観察し始めた。
すると、王太子は斜め後ろに控えていた侍従に向けて、赤い顔のまま何事かを小声で話し出す。
侍従は王太子の肩をぽんっと叩くと、安心させるように微笑む。
それに王太子は更に顔を赤くする。
二人の親密な様子に、ビビアンは全てを悟った。
(お二人は秘密の恋人なのだわ……‼)
邪魔をする訳にはいかない、ビビアンは早々に会話を切り上げた。
「まだご招待された方がお待ちですわ。お父様、わたくし達はこれにて失礼しましょう」
「そうだな。では王太子殿下、失礼致します」
お転婆な娘が婚約者に選ばれるとは微塵も思っていない父と、絶賛勘違い中のビビアンは、揃ってお辞儀をし、その場を辞した。
後ろで王太子と侍従が慌てていた気がするが、きっと関係を悟られたのではないかと思っているのだろう。
(ふふっ、御心配には及びませんわ。わたくし野暮な事は致しませんのよ)
その三日後、何故か王太子の婚約者にビビアンが内定したという手紙が届いたのだった。
──それからビビアンは考えた。
愛し合う恋人がいるのに、何故王太子が自分を選んだのかを。
そうして、一つの結論に辿り着く。
(王太子様は、秘密を悟ったと思われるわたくしを、カモフラージュにお使いになりたいのだわ‼)
男性同士の恋はこの国で禁忌だ。
だが、愛する事を止められない二人は関係を隠す為に、事情を知っているビビアンを隠れ蓑にし、秘密裏に愛を育もうとしているのだ。
ならば話は早い。
ビビアンはやる気を漲らせる。
「わたくしがお二人の恋路を護ってみせますわ……‼」
お読みいただきありがとうございます!
自分なりに頂いたアドバイスを参考にし、中編小説を連載します!
5話ほどで完結予定です!
初めてのラブコメ、お楽しみいただけますと嬉しいです!
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