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いいよね?

前作と同じ場面

俊雄の視点からのお話です

「今夜は飲むぞ!」


合同飲み会の喧騒が心地よかった。

部署の垣根を越えたこういう場は、日頃のしがらみから解放され、羽を伸ばすにはもってこいだ。

それに、今回はいい獲物が見つかりそうな予感がしていた。

俺は高橋俊雄。

いい歳してるとは言われるが、日々のトレーニングで体は若い頃よりキレてるし、そこそこ若い女の子にもてる。

遊ぶ相手には困らない人生を送ってきた。

結婚?ああ、してるさ。

だが、妻はもう何年も前から、俺にとって生活の一部でしかない。

女として見ることもない。まるで、家の隅に置かれた観葉植物のようなものだ。

水はやるが、それ以上の関心はない。


視線を巡らせると、隅の方で所在なさげにしている女がいた。

岡田麻美。

シングルマザーらしい。

ああ、なるほど、男に飢えているという顔つきだ。

まるで、干上がった大地が雨を求めているような、そんな渇望が彼女の瞳の奥に見えた。

こういう女は、口説き落とすのが簡単で、しかも深くのめり込む。

遊ぶにはちょうどいい女だ。


「岡田さん、お隣どうぞ!」


俺はにこやかに笑いかけ、席を勧めた。

彼女は少し驚いた顔をしてから、はにかむように隣に座った。

その仕草が、また俺の狩猟本能をくすぐる。


「岡田さんも、飲むの好きなんですか?」


ビールを注ぎながら聞くと、彼女は目を伏せて「はい、大好きです!なかなか飲みに行ける機会がなくて……」と寂しそうに答えた。

その言葉に、俺の読みが当たったと確信した。

この女は、俺に飢えている。


「じゃあ、今度二人で飲みに行きますか?」


間髪入れずにそう言うと、麻美の目が一瞬、光を宿した。

まるで、砂漠に水を与えられた花のように、みるみるうちに表情が明るくなる。

こんなにストレートに誘って、こんなにも素直に喜ぶ女は、最近では珍しい。

最近、適当に繋がっている女たちは、みんなどこか醒めている。

まるで、水面を滑る油のように、感情を表面に出さない。

菜摘、優紀、洋子…過去に遊んだ女たちの顔が次々と浮かぶ。

特に洋子なんかは、気が強くて面倒なタイプだった。

だが、麻美は違う

彼女の感情は、まるで透明なグラスに注がれたワインのように、鮮やかに見えた。


合同飲み会から数日後、俺は麻美に連絡を取り、早速食事に誘った。

麻美は時間のやりくりが大変だと言っていたが、子供を実家に預けたり、夜間保育を探したりして、どうにか時間を作ってくれた。

その健気さが、また俺の心を掴んだ。

彼女が会うたびに、まるで春の陽光を浴びた植物のように、みるみるうちに明るくなっていくのが分かった。


「麻美さんといると、本当に楽しい」


「麻美さんのことしか考えられない」


俺は甘い言葉を囁いた。

最初は、ただの口説き文句だった。

だが、不思議なことに、その言葉は、俺自身の心にも響くようになっていた。

まるで、湖に投げ入れた小石が、波紋となって自分に返ってくるように。


彼女と会うたびに、俺の意識から、他の女たちの存在が薄れていくのが分かった。

最初に薄れたのは、清楚系で、いつでも俺に合わせてくれた菜摘だった。

次に、すらりと背の高いモデル風の優紀。

彼女はいつもクールで、掴みどころがなかった。

そして、一番執着していたはずの、濃いめのメイクが印象的な派手な洋子。

彼女は俺のプライドを刺激する女で、手放したくなかったはずなのに。

まるで、古い写真が陽の光に晒されて、ゆっくりと色褪せていくように、彼女たちの影が薄れていくのを感じた。

麻美といると、そんな過去の女たちへの未練が、まるで砂浜に打ち上げられた貝殻のように、どうでもよくなっていった。


ある日の夜、私たちは馴染みの高級バーにいた。

薄暗い照明が、二人の間に漂う親密な雰囲気をより一層深める。

俺は、ふいに麻美の手を取った。

彼女の指が、俺の指に絡みつく。

まるで、二つの異なる星が、引力に引き寄せられて融合するかのようだ。


「どうしたんですか?麻美さん」


俺は真剣な表情で尋ねた。

彼女は、少し目を細めて、俺の顔をじっと見つめていた。

その視線は、まるで深海の底から見上げるような、澄んだ光を宿していた。

俺は、彼女の瞳の奥に、俺以外の何者もいないことを確信した。

彼女は、本当に俺だけを見ている。


「何か、心配事があるなら、僕に話してください。」


俺の声は、まるで深海の底から響くような、重く、そして優しい響きを持っていた。

俺は、麻美に夢中だった。

過去の女たちへの未練は、まるで遠い夏の日の夢のように、もう思い出せなかった。

そして、家の観葉植物のような妻の存在も、この瞬間の俺には、まるで空気に溶け込んだように、意識の彼方に消えていた。


彼女は、俺の目を真っ直ぐに見つめ、にっこりと微笑んだ。

その笑顔は、まるで凍てついた大地に、春の雪解け水が流れ出すような、温かい輝きを放っていた。


「もう、あなたしか見えない」


彼女の言葉に、俺の心は満たされた。

まるで、長い旅の終わりに、ようやく安らぎの地にたどり着いた旅人のように。


お互いに体も満たされるためには、この後どうしようかと俺が思いを巡らせていると、麻美が空になった俺のグラスを手に取った。


「生で、いいよね?」

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