第6話 巫女と拳で語り合ったら、変な話を聞かされた
ルーナが俺の胸倉をつかんで、グイグイと揺らす。
「どうすんの? ねえ、どうすんの!?」
「俺のせいじゃねーだろ!」
「はあ? あんたが呼んだから来たのに、そういうこと言っちゃう?」
「いや、お前が勝手に来たんだろうが!」
「……ああ」
ピタリと動きを止めるルーナ。
どうやら、ここに来た経緯を思い出したらしい。
少し考えた後、ルーナはグッと拳を握りしめる。
「ふっ。こうなったら拳で語り合うのみよ」
「面白れぇ。男女平等だぞ、俺は」
こっちも拳を固めてみせる。
「くらえ! み~こ~み~こ~」
ふん。馬鹿が。
みこみこ破が出ないことは知っている。
「破っ!」
「ほげっ!」
ルーナの拳が俺の顎にクリティカルヒットする。
なにぃ! 物理だと!
それに、それだとかめ〇め波というよりジャ〇ャン拳じゃねーか。
脳が揺らされ、意識が遠ざかっていく。
こうして俺はルーナと拳で語り合ったのだった。
……俺は語ってないけども。
***
コップに入った水を一気に飲み干す。
うむ。やっぱり水道水は美味い。……格別だ。
「私、ジュースがいい」
目の前にルーナがいなければ。
目を覚ませば全部夢だったと言うオチに期待したが無駄だった。
しっかりと俺の部屋に居座っている。
……追い出せるはずもなく、結局、なけなしの麦茶まで用意してやった俺ってホント優しいよな。
「で? どうするんだよ、これから」
「うん。あんたが気絶している間、動画見て楽しんでたんだけどさー」
「……帰る方法考えろよ」
「すっごいことに気づいちゃった!」
ルーナはそう言って、動画サイトを開いてある動画を指差す。
「これ」
「……メカキンの動画がどうかしたのか?」
メカキン。
言わずと知れたYouTuberの王者にして神だ。
「動画から物凄い神気を感じて、何かなって思ったらメカキンの動画だったの」
「神気?」
「うん。巫女の力の元かな」
「メカキンは凄い巫女だってことか?」
「そうじゃなくって、チャンネル登録者数と神気の量が同じだったの」
「……つまり、登録者数が増えるほど神気も増えるってことか?」
「そう。ちなみに私の神気は53万です」
「お前は1だよ。銃を持ったおっさん以下だ」
仮に53万だったとしても、メカキンの10分の1以下だ。
「神気ってね、人を幸せにすれば発生する力なんだよ」
珍しく真面目な表情をしているルーナ。
それがちょっと凛々しくて神々しい。
まるで巫女みたいだ。
「動画を見て、面白いって感じる。それって人を幸せにしてるんだと思う」
「うーむ。幸せにしてくれる動画だから、チャンネル登録するってことか」
「そう! そういうこと! ルートを繋ぐときに神気を使い切っちゃったから、貯めればまたルートを繋げられると思う!」
「帰るためには配信して、登録者数を増やさないといけないってことか?」
「そうなるね」
「……そんなこと、できるのか?」
「ふっふっふ。我に施策あり! 任せなさーい!」
そう言って、ルーナがニヤリと笑う。
うーん。
嫌な予感しかしねぇ。