第30話 巫女と焼肉と、心霊スポットで飯テロする件
「うおおお! やったぁああ!」
「いえーい!」
「はーい!」
登録者数333。
昨日の配信から一夜明けると、登録者数が3倍になっていた。
100万人まではまだまだ遠いが、これは本当に嬉しい。
アーカイブの再生数も1000を超えている。
花ちゃんを成仏させたってことで、バズとは言えないけど、少しだけ話題になっている。
「行っちゃう? 焼肉!」
「ぬっ!? た、確かにそれくらいしてもいいよな」
ここまで嬉しいのは大学に受かったとき以来だ。
お祝いするのは当然だろう。
「なわけねーだろ」
突然、横から冷めた声が聞こえる。
「あれ、田中? 何、勝手に入って来てるんだよ」
「……入れてもらったんだよ。この子に」
「はい、お招きしました」
ああ。稲荷様か。
最初の「はーい!」はインターフォンが鳴って、出たときの声だったのか。
「まだ収益化もできてないのに、焼肉食いに行くなんて早いんじゃねーの?」
「……そ、それもそうだな」
「えー! 肉はー!? おーにーく! おーにーく!」
「えーい、黙れ! そもそも焼肉食いに行く金なんて最初からなかったから、無理だ」
「うわーん! せっかくいなり寿司以外のものが食べれると思ったのにぃ」
「はっはっは。大丈夫だ、ルーナ。明日からのご飯はパンの耳だ」
「こうなったら、マネーを殺して……」
お? 心中する気か?
ふん、返り討ちにしてやるぜ。
「その保険金で食べてやる!」
「ふざけんな! それだと俺が食えねーじゃねーか!」
「マネーはあの世でお留守番だよ!」
「よし、わかった。お前は元の世界じゃなくて、あの世に送り返してやるぜ!」
ルーナと取っ組み合う。
そんな中、田中が呆れたようにため息をつく。
「……もう、茶番は終わりでいいのか?」
「茶番言うな!」
こっちにしたら重要なことなんだよ。
「じゃあ、本題だ。登録者数300突破おめでとう」
田中がそう言って、持っていた袋を掲げる。
そして、その袋に入っていたのは――。
「ああーーー! お肉だぁー!」
ルーナが目を輝かせる。
「……どうしたんだ、この肉?」
「だから、登録者数300のお祝いだって」
「うおーー! 田中―!」
「おうっ!」
思わず抱き着くと、田中は鼻を手で押さえて横を向いた。
その手の隙間からポタポタと血が滴り落ちる。
「稲荷ちゃん。ティッシュある?」
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
田中が稲荷様からティッシュを受け取り、鼻に詰める。
「すまん。頭、当たっちまったか?」
「いや、違う。けど、気にすんな」
気にするなって言うが、結構出てるぞ、鼻血。
田中はキリっとした表情をしてこう言った。
「今夜はバーベキュー企画やるぞ」
「なんだそれ?」
「心霊スポットでバーベキューをやるんだ」
「……それはさすがに不謹慎だろ」
「あー、ごめん。逆だ。バーベキュー場が心霊スポットになったんだよ」
「そんな場所が心霊スポットになることなんてあるんだな……」
「そのバーベキュー場は、知り合いがやってるんだけどさ。売り上げが落ちたみたいなんだよ」
「そんな場所で肉食いたいって気にはならんからな」
「それで、何とかならないかって相談されたんだ」
困った表情をする田中。
幽霊が見える田中だからこそ、こういう相談を受けるんだろう。
「なるほど。今回の企画で、そこの幽霊を祓うんだな?」
「そういうこと」
こうして、除霊バーベキューという一風変わった企画が決定したのだった。