第25話 巫女と紫ばあちゃんと、全部のドアが閉まってた件
「丑三つ時にこんばんは! 異世界巫女Vtuberのルーナちゃんだよ!」
2回目のライブ配信。
一応、SNSで宣伝したからか、視聴者はなんと10人アップの12人。
とはいえ、喜んでばかりもいられない。
中途半端な企画は、返って『巫女ちゃんねる』の評判を落とす。
だからこそ、俺は1日かけて、企画を練りに練ったのだ。
「今日は廃校になった、小学校に来てるよー」
初回のライブは考えなしに視聴者の邪気を払うという企画だった。
たまたま2人のうち、1人が邪気に憑りつかれていたから助かった。
けど、もしいなかったら、完全に企画倒れになっていた。
しかも、邪気は稲荷様で、結局祓ってない。
ということで、ある程度、視聴者数が増えるまでは心霊スポット巡りをすることにした。
で、学校を選んだ。
ほら、怪談ていえば学校でしょ。
みんなが知ってる場所だし、ネタとしては強いと思ったのだ。
しかも、今回の心霊スポットで出ると噂されているのは、かなり有名なやつだ。
「ここで、紫ばあちゃんを祓っていくよ!」
ルーナが決めポーズをする。
「上手く祓えたら、チャンネル登録、よ、ろ、し、く、ね★」
まずは巫女であるルーナを『お祓い系Vtuber』として定着させる。
他にこの手の配信者はいないから、この界隈は総取りできるのだ。
……まあ、この界隈にどのくらい需要があるのかはわからんけども。
***
前回の廃病院もそうだったけど、夜っていうのは不気味さが3000倍になる。
昼間に来れば、なんてこともない、ちょっと古めの学校なだけだ。
なのに、夜ってだけで、本当にヤバい。
今にもガラガラとドアが開いて、幽霊が飛び出してくるんじゃないかって思ってしまう。
「けどさー、なんで紫ばあちゃんって学校に出るんだろ? おばあちゃんなら老人ホームとかじゃない?」
ルーナはまったくビビる気配もなく、視聴者に向かって話をしている。
一応、コメントを見て答えてるってテイだが、実際は神気で視聴者の声を聴いているのだ。
「えー。用務員っておじさんじゃないの? 用務員のおばさんっているのかな?」
ルーナの斜め上の感性は、割と視聴者受けがよさそうだ。
コメント欄も賑わっている。
「学校ですか。私も通ってみたいです」
俺の横には稲荷様がいる。
寝てていいと言ったのだが、面白そうだからとついてきたのだ。
俺としては心強いから助かる。
なんせ、稲荷様は神だ。
……あれ? 邪気じゃなかったっけ?
そのへん、どうなってるのか聞くの忘れてた。
これが終わったら聞いておこう。
「あ、トイレあった! じゃあ、突撃だー!」
ルーナが2階の女子トイレに入っていく。
もちろん、カメラである俺も後に続く。
……なんつーか、廃校になってるとはいえ、女子トイレに入るのって背徳感があるな。
興奮……じゃねー、なんか悪いことしてる気分だ。
「むっ!」
ルーナと稲荷様のお気楽な様子を見て、俺はいつの間にか緊張感が解けていたみたいだ。
だが、それが一瞬で吹き飛ぶ。
ヤバい。マジでヤバいぞ。
なんと、女子トイレのドアが全て『閉まって』いた。
なに? 紫ばあちゃんて6つ子だったりするのか?
「じゃあ、ノックしていくね。コンコン!」
ノックしていくが、反応はなし。
それが5回続く。
そして6個目の個室にノックする。
すると――。
コン、コン。
それは間違いなく返事だった。