第23話 巫女と神様と、救われた我が家の食べ物事情
「ふっふっふ。大漁大漁」
「先輩、嬉しそうですね」
「そりゃ、まあ……」
バイト終わりの丑三つ時。
俺は如月さんと並んで歩いていた。
本当は、朝までのシフトを組みたかった。
でも大学があるから、それは諦めた。
さすがに貫徹してからの講義は睡眠学習になってしまう。
そんなんで留年になったら本末転倒だ。
如月さんも同様に、専門学校に通っているのでこの時間までにしたらしい。
「って、あれ?」
「どうしました?」
「なんで、俺、如月さんと一緒に帰ってるんだ? 如月さん、いつも店長の車で送ってもらってるよね?」
「店長さん、ショックが大きかったみたいで、壁に向かって『ハッピーハッピーハッピー』とか歌ってました」
「……」
異世界に旅立たれてしまいましたか。
「うふふ」
「ん? どうかした?」
「先輩と帰れるって、嬉しいなって思いまして」
「いつも一緒に仕事してるのに?」
「それとこれとは、違いますよ」
何が違うんだ?
俺にはよくわからん。
「それに、一緒に帰るのは危ないからダメだって言うじゃないですか」
あれ? 言ったっけ?
そんな痛々しい発言。
しかも、受け取りようによっては、俺が襲うみたいな感じに聞こえるな。
うーん。
どっちにしても痛々しい。
「昔からそうですよね。他人のために自分を犠牲にするのは」
「犠牲ってわけじゃないって。俺のせいでなんかあったらさ、自己嫌悪に陥っちゃうからだよ」
俺はそんなに善人じゃない。
自分が可愛いだけだ。
人が傷つく以上に、自分が傷つきたくない。
ただ、それだけ。
「でも、それで助けられた人はいます。それは忘れないでください」
ふと、人魂のお姉さんのことが思い浮かぶ。
あれは助けられたと言えるんだろうか。
そうだとしたら、少し嬉しい。
そんなことを話しているうちに、如月さんの家の前に到着する。
「送っていただいて、ありがとうございました」
「この時間に女の子を一人にするわけにはいかないからね。じゃあ、また次のバイトで」
「先輩。まだ気付かないんだ……?」
「え?」
「昔からそうでしたよね。私のときも――」
「……何の話?」
如月さんがバイトに入ってきたとき、なんか話したっけ?
「いえ、何でもありません。あの、良ければまた、一緒に帰ってくれませんか?」
「……まあ、機会があればね」
お菊ちゃんが祓われたとはいえ、まだ心霊スポットはあるし、あんまり巻き込みたくはない。
店長に送ってもらう方がいいと思うんだが。
早いし。
とにかく、曖昧に返事をして俺は家へと帰った。
***
「お帰りなさいです!」
部屋に入ると、稲荷が出迎えてくれた。
ちなみに、ルーナはベッドでよだれを垂らしながら爆睡していた。
露出した腹をポリポリと掻き、「いいのぉ? マネーのステーキももらっていいのぉ?」と寝言を言っている。
どうやら、俺は夢の中でもルーナに搾取されているらしい。
ふざけんな。
「なんだ、稲荷。起きてたのか。寝ててよかったのに」
「豊穣の効果ありましたか?」
ニコリと微笑みながら、そんなことを言う稲荷。
「え?」
「私、ずっと、祈祷してたんですよ! 恵みがありますようにって!」
「まさか……」
俺は手に持っていた、大量のいなり寿司が入った袋を見下ろす。
「このいなり寿司って、稲荷が?」
「私、豊穣の神様ですから!」
「うおおおおお! 稲荷様ーーー!」
こうして食糧問題は解決した。
そして、我が家では稲荷様を崇めることとなった。
なんでいなり寿司? って思ったが、好物だったからか。
まあ、その辺は全然許容範囲内だ。