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第21話 巫女と決意と、食い尽くされた今月分の命綱

 午前中の講義は、疲れすぎて内容がまるで頭に入ってこなかった。

 

 マジしんどい。

 このあとバイトとか、嘘だと思いたい。


「お疲れだねぇ」


 田中が横に座ってくる。

 次の経済学は田中も履修しているのだ。


「昨日の配信、アーカイブで観たよ」

「おー。ありがと」

「感心しないな。あれは危険すぎ」

「次は気を付ける……」


 下手したら死んでたかもしれないからな。

 マジで。


「配信の方向性を変えたら? まだ間に合うだろ」


 昨日の配信――いや、お姉さんのことを思い出す。


「俺さ、幸せなんだと思う。――田中がいてくれるから」

「っ!? お前、それ、付き合うってこと……」

「一人とはいえさ、友達がいるんだから」

「……あー、そっち。はいはい。友達ね」

「ありがとな、田中」

「ばーか。こっちのセリフだっての」


 口を尖らせ、プイッと顔を逸らしてしまう田中。

 

 ……なぜ怒る?


「俺さ、思ってたんだよ。幽霊なんて、害でしかないって」

「うん……」

「けどさ、好きで幽霊になったわけじゃないやつもいるって、わかった」

「……」

「だったら、そういう霊を成仏させてけば、俺たちみたいに巻き込まれるやつも減るんじゃないか?」

「まあ……そうだけど」

「正直、『巫女ちゃんねる』は嫌々始めたけど――それで誰かを救えるならやる価値はあると思う」


 視聴者の邪気を払ったり、心霊スポットの幽霊を成仏させたり、色々できるはずだ。


「お前が幽霊に向き合うって決めたのはすげーと思う。思うけど……」


 ジッと俺を見てくる田中。


「お前に危険なことはしてほしくねーんだよ」

「……田中」

「ほ、ほら。唯一の友達がいなくなったら寂しいだろ?」

「そう……だな」


 気を付けよう。

 俺にとって田中は唯一の友達だが、田中にとっても俺が唯一の友達なのだ。

 また田中を一人にしたくはない。

 だって、俺も一人は辛かったから。


 けど、そういうやつを減らしたいから、『巫女ちゃんねる』を続けようと思うんだ。



 ***



「おかえりー」

「なさいです」


 大学が終わって家に帰ると、ルーナがカップうどんを食べ、稲荷が上に乗っていた油揚げを食べていた。


「えーと……」


 いいよ。別に。

 俺もさ、お前らの飯のこと考えないで大学に行ったのが悪いと思うよ。

 

 けどさ!

 限度ってもんがあるだろ!?


 テーブルには空のカップ麺が詰み上がっていた。


「食い過ぎだーー!」


 段ボール箱の中を見ると、ストックしてあったカップ麺が全滅している。


「……おまっ。何してくれてんの? これ、今月分の食糧だぞ?」

「だって、そこにカップ麺があったから」


 お前は登山家か。


「どーしてくれるんだよ!」

「マネーが肉を出してくれないのが悪い! マネーを肉塊にして食べないだけ感謝してほしいくらいだよ」


 怖っ!

 お前、肉だったらなんでもいいのかよ。

 ドン引きだわ。


 ただ、ここで引き下がるわけにはいかない。

 余計、図に乗る。


「今日からお前の飯、青汁だけな」

「拷問っ!? いや、その……違うの。私が食べたのは2個でそれ以外は稲荷ちゃんが……」


 目を逸らすルーナ。

 

 こいつ、サラッと稲荷に罪を押しつけやがった……!


「美味しかったです」


 稲荷の無邪気な笑顔が心に刺さる。

 ルーナに罪を被せられてるんだぞ。


「終わった。登録者数を100万にするより絶望的だ」


 そんなときだった。


「私がなんとかします!」


 胸を張った稲荷がそう言ったのだった。

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