第20話 巫女と人魂と、伝えられなかった「ありがとう」
未練を残して亡くなった人の魂が人魂になることが多いと聞いたことがある。
「小さい頃からずっと病気がちでね。入院ばっかりしてたんだ」
炎を揺らしながら、お姉さんは語る。
「だから、友達もできなかった」
友達ができないって、つらいよなぁ。
まあ、俺はあえて作らないようにしてたんだけど。
あえてね。あ、え、て。
「……でも高校のとき、隣に同い年の女の子が入院してきたの。その子は骨折で、1ヶ月で退院したんだけど、それからは、お友達と一緒にお見舞いに来てくれるようになったんだ」
声がとても嬉しそうだ。
お姉さんにとっては幸せな時間だったんだろう。
「みんな凄くいい人たちで、すぐに友達になれた。でね。言ってくれたの。みんなで一緒の大学に行こうって」
そうか。
大学生活にこだわってたのはそういうことだったんだ。
「そんなとき、ずーっと待ってたドナーが回ってきたの。私は思ったんだ。これで元気な体で大学に行けるって」
――でも、その手術は失敗したのだろう。
「あーあ。みんなと大学に行きたかったなぁ」
沈んだ声ではなかった。
けどそれは空元気だとわかる、無理して明るくした声だ。
「そういえば、お姉さん。なんで人魂じゃなくなってたんですか?」
「……あー、それ聞いちゃう?」
「言いたくないならいいですけど……」
「いやね。あんまりウジウジしてても意味ないなーって思って、成仏しようと思ったの」
「いいことじゃないですか」
「で、最後に夜空でも見ながらって思って、屋上に行ったんだ。そしたら――」
一瞬の沈黙。
そしてお姉さんがため息を吐く。
「雨降ってきちゃって」
「……」
「慌てたよ。この火って、雨で消えるんだって」
俺も、ビックリしてます。
けど、確かに雨の日に人魂見たって話、聞いたことないな。
「で、とにかく火だ! ってなって、ライターをずっと探してたんだよね」
「……そう言えば言ってましたね」
「でも、火が消えたせいか、段々と記憶が薄れてきて、自分が幽霊って忘れちゃったんだろうね」
だろうねって……。
そんな他人事みたいに。
「とにかく、ありがと。これで成仏できるよ。じゃあね」
お姉さんはゆらゆらと炎を揺らす。
「……あの、お姉さん?」
「どうやって成仏するの?」
「俺に聞かれましても」
そのときだった。
「うぉほん!」
ルーナがわざとらしい咳ばらいをする。
「あ、お前がいたか」
「そゆこと! ルーナちゃんが神気で成仏させてあげる! はあああ!」
ルーナがクルクルと大きく腕を回し始めた。
……構えが毎回違うな。
それ、意味ないだろ?
絶対、雰囲気でやってるな?
「今度こそ、成仏するね」
「元気でって言ったら変ですかね?」
「あはは。あの世で元気に暮らすよ」
「そうだ。あっちにメリーちゃんって子がいると思います。友達欲しがってました」
「わかった。会ってみる」
そのとき、俺はあることを思いついた。
「こうやって迷ってる幽霊がいて成仏させる時に、お姉さんのこと話しておきますよ」
「ホント? あの世で友達100人できるかな?」
「きっと」
「本当にありがとう」
そしてルーナがお姉さんに向かって手をかざす。
「逝ってらっしゃい!」
ダセえ。
いい決め台詞考えないとな。
そして、お姉さんは光に包まれ、消えていった。
「さて、帰るか」
「うん」
「はい」
……ん?
今回の邪気って、稲荷だったような?
……よし、気づかなかったことにしよう。
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