第18話 巫女と幽霊と、思い出しちゃいけない写真
廃病院の中はひんやりしているのに、汗が吹き出してくる。
まあ、冷汗なんだけどね。
「どうかしたの?」
俺が足を止めたのを見て、幽霊のお姉さんがにこっと微笑んだ。
素敵な笑顔なんだけど、この場合は逆に怖い。
だって幽霊に微笑みかけられるって、死亡フラグじゃね?
「あー、えっと、手分けして探しません? 2人で効率的に、こう……早く終わらせたいなーって」
「確かにね。でも一人で大丈夫? 一緒じゃないと怖くない?」
悪戯っぽい顔で聞いてくる。
はい。すっごく怖いです。お姉さんと一緒だと。
「平気です。結構、慣れてるんで」
「そ。ならいいんだけど」
俺は1階からで、幽霊のお姉さんは3階から探すことにした。
勝負は合流まで。
それまでに見つけて、速攻でここを脱出する。
「稲荷ー! ルーナ! 出てきて―! お願い! マジで危険だから!」
大声で呼び続けながら病室を回っていくが、見つからない。
青い髪で目立つから、見逃さないと思うんだが。
そんなとき、ある病室で一枚の写真が落ちているのを見つける。
写っていたのは、幽霊のお姉さん――いや、生きていた頃の彼女だった。
友達と一緒に、ベッドの上で笑顔でピースしている。
入院していたときに撮られたんだろう。
ゾッと背中に冷たいものが奔る。
ここがお姉さんの入院していた病室だ。
他の病室もそうだが、結構、色々な物が残っている。
きっと急に取り壊しというか廃業が決まったのかもしれない。
確か、お姉さんは「自分が幽霊だって気付いてない」って言っていた。
絶対にこの部屋に入れちゃダメだな。
思い出されてしまう。
が、そんな願いも虚しく――。
「きゃあああああ!」
泣きじゃくりながら、お姉さんが病室に飛び込んできた。
お姉さんがガタガタと震えながら上を指差す。
「で、で、で……でたあああああああっ!」
「な、なにがですか?」
「幽霊」
「……ええ、まあ、出てますね」
目の前にいます。
「なんか、青い髪の子で、獣の耳と尻尾が生えてた」
……あー、それ、探してるうちの子です。
「どこにいました?」
「お、屋上」
……真っ先に上に向かったのか。
ああもう……馬鹿と天才は高いところが好きってやつかよ……。
「ここで待っててください。俺、見てきます」
「う、うん……。って、あれ?」
しまったぁああああああ!
振り向くと、お姉さんが写真を手に取り凝視している。
「あ、あの……」
「……あー、そうだ」
手の中の写真から目を離さず、お姉さんが低く呟いた。
「私、ここに入院してたんだ……ずっと、忘れてた」
さっきまで健康的で活発そうな感じだったのに、一気に肌が土気色になっていく。
「手術、絶対、成功するって……。また大学に行けるって言ってたのに」
『なんか写ってない?』『これ、あれでしょ! 女の幽霊じゃない?』『すげー! これ神回じゃん!』
次々とコメントが書き込まれる。
幽霊と自覚したことで、霊体がはっきり形づいたのかもしれない。
ライブの方は大盛況。
俺の心臓も大盛況。
心臓が暴れてる。
もう、口から飛び出しそうだ。
「みんなね、待っててくれてたんだ」
寂しそうな声。
お姉さんは病室でずっと孤独だったのかも。
孤独が辛いのは痛いほどわかる。
俺も――。
「なんで私だけ!」
「ぎゃあああああああああ!」
お姉さんが襲い掛かってきた。
……結局こうなるのかよ。