第15話 巫女と邪気と、出てきたのが可愛すぎた件
「きゃっほー! やったぁー!」
大学から帰ってきて、部屋に入るとルーナがクルクルと回っていた。
胸騒ぎがするな。こいつが嬉しそうにしてると、だいたいロクなことが起きない。
「見て見て! 巫女ちゃんねるの登録者数、すっごいことになってるよ!」
モニターをビッと指差す。
その指先を見てみると――登録者数100の表示。
「うおおおお! すげー! 100倍じゃねーか! 昨日まで1人だったのに、1日で三桁って!」
コラボの影響だろう。
さすが田中。お前、スゲーよ。
にしても、あっさりとキュン子超えか。
キュン子を育てるのに1年半かかったんだけどな。
「あと、これを1万倍にするだけなんだからさ! パパッとやっちゃおうよ」
「……やっぱ、無理ゲーじゃね? 100万なんて」
「諦めたら、そこでマネージャー失格ですよ」
「マネージャーじゃねーし」
「あ、カメラマンか」
「……マネージャーでいいです」
どうせなら、こいつをコントロールできるマネージャーの方がいいな。
「これからもよろしくね、マネー」
「そこで切るなよ。お金みてーじゃねーか」
普通はマネとかだろ。
「話は戻るけど動画どうする?」
「2、3日かけて、しっかり練ろ……」
その瞬間……戦慄が走った。
ポンッという軽い音とともに、登録者数が――100から99へと減ったのだ。
「なにぃーー!」
「えええ! なんで!?」
「はっ! わかったぞ! これは復讐だ!」
「復讐!?」
「さては、お前、結婚して引退するって言ったな?」
「え?」
「くそ! 俺の3000円の投げ銭返せ、馬鹿野郎!」
「な、何の話?」
おっと。いかん。
つい、トラウマが蘇ってしまった。
「とにかく黙ってたらまた減りかねん。すぐに配信だ! 今夜やるぞ!」
***
「イェーイ! 丑三つ時にこんばんは! 異世界巫女Vtuberルーナちゃんだよ!」
勢いで始めた配信だったが、視聴者はわずか2人しかいない。
キュン子のときも同じだったな。
「むむ! 強い邪気を感じる。……そこの君! そう。君君。君だってば」
どうやら、2人のうち、1人に邪気――つまりは幽霊が憑いているみたいだ。
初回の配信は超重要だからな。企画倒れにならなくて一安心だ。
「私は神環の巫女候補だからね! 君の邪気を抜き出して、こっちで祓ってあげる」
どうやらルーナはモニターの向こうに神気でルートを作って幽霊を引っ張って来れるらしい。
それならルーナがあっちの世界に帰ればいいんじゃね? と思うが、まだまだ小さい道しか繋げなくて無理らしい。
「成功報酬はチャンネル登録でよ、ろ、し、く、ね★」
ルーナはアイドルのようなポーズを取った後、俺に向かってグッと手を突き出す。
そして、俺の体を貫いた――と思ったが、ルーナの腕の方が消えている。
どうやらルートに手を突っ込んだようだ。
「お!? 掴んだ! 掴んだよ! よーし! じゃあ、いっくよー!」
ルーナが手を引き抜こうとする。
……あれ?
祓うにはまず、幽霊の心を澄んだ状態にしなきゃならねーんだよな?
無策で引き抜いたらマズくないか?
「それーー!」
「待て、ルー……」
制止する言葉も虚しく、ルーナは勢いよく邪気を引っ張ってきた。
せめて大人しい幽霊で頼む!
それは、ある意味願い通りだった。
現れたのは視聴者受けするような可愛らしい子供。
しかも――獣耳ロリっ子だ。
これ、祓ったら炎上じゃね?