第12話 巫女と心霊スポットと、背後に立ってはいけない女
「みなさん、こんばんは。幽ヶ崎くららです」
田中のVtuberとしてのガワは、幽霊がモチーフだ。
白い着物の死装束に、頭には三角の布――天冠を付けている。
(あれ、天冠っていうんだ。知らなかった)
雰囲気は大人っぽい色気がありつつも、清楚。
つまり、田中本人とは真逆のキャラというわけだ。
(それを本人に言ったら腹パンされた)
「いつもはホラーゲームの実況なんですが、今日は初心に戻って、心霊スポット探索回です」
当然、話し方もキャラに合わせて清楚風にしている。
いつもとは正反対なのに、ボロを出さないのはさすがだ。
「どうして今日はこんな配信スタイルかというと……お客さんをお招きしているからです!」
今回の配信は、少し変則的なスタイルになっている。
俺とルーナが現地に赴き、現場の映像を配信。田中は自宅から実況する、という形式だ。
個人運営だと、こうするしかない。
というより、田中をこんな心霊スポットに行かせるわけにはいかないので、この方式がベストだ。
町外れの、家も街灯も全くない、舗装されていない道。
その先に、ぽつんと存在する公衆電話。
――そこには、ある都市伝説があった。
その電話からかけると、『ある女』に繋がり、
彼女は電話越しにこう言う。
「いま、○○にいるの」
そして、どんどん言う場所が近づいてくる――。
最後には「あなたの後ろにいるの」と言われるやつだ。
……本当は、俺も来ちゃダメなんだけどな。
心霊スポットには。
けど、チャンネルを伸ばすには派手な画を撮るしかない。
リスクは承知だ。
「というわけで、新人Vtuberのルーナさんです!」
「イェーイ! 丑三つ時にこんばんはっ! お祓い系巫女Vtuberのルーナだよ★」
眼元でピースを作って、アイドルみたいなポーズを取っている。
「って、うわー! すごいたくさんいる! 1157人!? やったー!」
ルーナが目を見開いて驚く。
うわ! バカ!
俺は慌てて両手で×を作った。
「……え? ルーナちゃんって、カメラ以外の機材って持っていってましたっけ?」
そう。田中には、俺が持っている最低限のカメラだけだと伝えてある。
だから、視聴者数が見えるはずがない。
「あー……いや、勘だよ勘。これが神気のパワーってやつ! がははは!」
誤魔化し方が雑だ。
しかも本当のこと言ってるし。
……神気なんて信じる奴はいないだろうが。
「ルーナさんは巫女ですからね。神のお告げか何かあったんでしょう」
田中、お前もフォロー雑だぞ。
「じゃあさっそく、あそこの公衆電話? で電話したらやってくる、メリーちゃんをお祓いしちゃうよ!」
風が強い。
なのに、公衆電話の受話器だけが――カタカタと震えているように見えた。
俺は錯覚だと自分に言い聞かせる。
「え? 受話器、揺れてる? こ、コメントでも言われてますね……私の目の錯覚じゃなかった……?」
視聴者にも見えているってことは、やっぱり錯覚じゃないのか。
そんな中、ルーナは無邪気に電話ボックスに近づいていく。
「本当に、メリーちゃんと電話が繋がっちゃいそうですね。ルーナさん、気を付け――」
……あっ!
気づけば――ルーナのすぐ背後に、白いワンピースの女が立っていた。
髪は濡れたように張りつき、視線は虚空を見ている。
その手には――光を反射する包丁。
「「後ろーーーっ!!」」
俺と田中が、同時に叫んだのだった。