第10話 巫女と邪気と、誰もいない配信画面
「ガワも決まった。カメラも用意できた。それでVtuberで、どんな配信をするんだ?」
「んー。ゲーム配信か大食い?」
「人気のジャンルではあるな。……っていうか、お前、なんでそんなに詳しいんだ? 異世界の人間なのに」
「よくぞ、聞いてくれました!」
ビシッと人差し指を立てるルーナ。
「これは、私の『原点』とも言える物語……!」
目を瞑って腕を組み、思い出しながら語るルーナ。
「あれはとても暑い日だった……。本当は修行があったけど、私は休憩の日にすることにした」
「ただのサボりじゃん」
「神気っていろいろ使えるって聞いてたからさ、異世界に逃げちゃおっかなーって」
「怒られるって自覚はあったんだな」
「でもさ、あの時の私はまだ未熟だった。だから視界だけしか飛ばせなかったの」
「今も十分未熟だと思うけどな」
「しかも、異世界っていうか、変な次元に辿り着いちゃった。それがネットの世界だったんだよね」
「……それで、動画を見漁っていたと?」
「そう! その通り! どう? 凄いでしょ? えへへ」
何が凄いのかまるでわからん。
サボって怒られるのを回避した話にしか聞こえねえ……。
回避できてねーけど。
だが、これで色々納得いった。
どおりで皿を知らないのに、迷惑防止条例を知っていたわけだ。
たぶん私人逮捕系でも漁ってたんだろ。
そのうち、自分で逮捕とか言い出さないだろうな……?
「ってことで、私は人気のジャンルはバッチし抑えてあるんだよね。だからゲーム配信か大食いでどう?」
「バツ!」
「なんで!?」
「どっちも金がかかり過ぎる。それに巫女なんだから、それを生かせよ」
「あっ! ……そうだった。私、巫女だった」
「忘れんなよ。一番大事なことだろ、それ」
「けどさ、私、巫女だけど、何ができるの?」
「……なぜ、俺に聞く? 考えろ、自分で」
ルーナは腕を組んで「うーん」と唸っている。
そして、何か思いついたのか目を大きく開く。
「お祓い系! 視聴者の邪気を祓うよ!」
「まあ、巫女だから合ってるっちゃ合ってるか」
実際、お菊ちゃんを祓ってくれたしな。
……あれを祓ったというのかは別として。
「けど、その視聴者がいねえぞ」
「え?」
俺は巫女ちゃんねるが表示されているモニターを指差す。
視聴者数は0だ。
「そもそも祓う邪気が用意できねえぞ」
「そっか。じゃあ、その辺の人のを勝手に祓う?」
「ホラー通り越して通報案件だ」
「じゃあ、どうするの?」
確かにお祓い系Vtuberなんて聞いたことない。
引きになりそうだから、変えたくない。
「ただ、やるにしても最初からある程度の視聴者数が必要だな」
「その視聴者がいないって話じゃん」
「うーん……」
今度は俺が腕を組んで考える。
この手はあんま使いたくないんだが。
「……まあ、一応、当てはあるっちゃある」
「え? なになに?」
「ちょっと待ってろ」
俺はスマホで電話をかける。
そう。
当てというのは――コラボだ。
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