第1話 異世界巫女が降臨した夜、俺の地獄が始まった
「イェーイ! 丑三つ時にこんばんは! 異世界巫女Vtuberルーナちゃんだよ!」
深夜2時、郊外の廃病院──ガチの心霊スポットで、異世界巫女が動画を配信中だ。
そこで、オレはリングライトで巫女姿のハイテンション少女を照らす。
「今日もルーナちゃんが邪気を祓っちゃうぞ! それじゃ、『巫女ちゃんねる』はーじまるよー!」
視聴者数は驚愕の――2人。
「むむ! 強い邪気を感じる。……そこの君! そう。君君。君だってば」
『神気』とやらを使えば、カメラ越しでも視聴者が見えるらしい。
相手はビビるだろうな。俺もビビったし。
「私は神環の巫女候補だからね! 君の邪気を抜き出して、こっちで祓ってあげる」
下手したら死にかねないからな。
大人しい邪気で頼む。
「成功報酬はチャンネル登録でよ、ろ、し、く、ね★」
『巫女ちゃんねる』は……登録者、わずか99人。
それを、この異世界巫女を元の世界に帰すため――100万人にしないとならない。
はっきり言って無理ゲーだ。
絶望的なほどに。
けど、やるしかない。
じゃないと、このままルーナとの同居生活を続行することになる。
……はあ。
にしても、なんでこんなことに。
そう。
この奇妙な物語は――数日前の、丑三つ時に始まった。
***
「いちまーい、にまーい、さんまーい……。7枚足りない……」
「割り過ぎだ!」
あ、しまった。
思わず『女の幽霊』に突っ込んでしまった。
だが幽霊は微動だにしない。
無視してくれるのかと思った。
「アアアアアアアアアアアアーーーー!!」
んなわけなかった。
突如、髪を振り乱して全力ダッシュしてくる。
ちょ、おまっ! 地縛霊じゃないのかよ!?
行動範囲広すぎだっ!
バイトで、目当ての弁当をゲットできたから嬉しすぎて油断した。
心霊スポットで有名な『お菊ちゃんの水飲み場』を通るなんて。
霊感が強い俺は幽霊から見りゃ、レンチンで温まった豪華な弁当だ。
「待てやコラーーー!」
いいことがあった後には悪いことがある。
弁当をゲットしたから幽霊に襲われた。
……バランス変じゃね?
***
1時間後、無事に帰宅。
背後まで迫られたときは死を覚悟したぜ。
ったく、なんでバイト終わりで幽霊に接客せにゃならんのだ。
昔からこうだもんな。
小学生のとき、仲良くしてた奴が実は幽霊で――知らないうちに生気を吸われてたこともある。
……この体質のせいでずっと友達を作るのを避けてきた。
だって、幽霊は俺にしか見えないくせに、周りに危害を加えてくる。
もし、こんな体質じゃなかったら、俺の人生は変わってたんだろうか。
なんて、今更だな。
明日は1限目から講義だし、飯食ってさっさと寝ないと。
って、弁当がない。
どっかで落としたのか?
しゃーない、カップ麺にするか。
けど、推しVtuberを見ながら食べれば満足度1万倍だ。
悪いことがあったから、いいことがあるはず。
今日は神回間違いなしだ。
推しのページを開くと新着動画が表示される。
「お知らせ」という文字だけのサムネイル。
……嫌な予感。
再生と同時に推しの明るい声が響く。
「結婚するので引退しまーーーす!」
「ふざけんなァァァァーーーーー!!」
いいことねーよ。
災難続きだ!
だがこのときの俺は知らなかった。
このあと起こる災難に比べたら、こんなのは前座だと。
■■こちらは旧Verです。現在、より良いものを目指して改稿しました■■
設定の練り直しや、キャラクターのドラマも練り込んでいます。
新Ver『異世界巫女はVtuberになりました。~除霊で登録者100万人目指します~』の方を読んでいただけると嬉しいです。