第八話「東西南北、最強は東」
「何か見つけたのか!?」
俺とメイは慌ててカイを追いかける。
野生の勘というやつで、何か見つけたのかもしれない。
俺の予想だと、若い女性が悪漢に襲われているところに出くわすはず。
それを俺が華麗に助け出すと、お礼と称してあんなことやこんなことが起こる、という寸法だ。
「マサヨシ様の予想は、毎回外れてますけどね」
「思考を読むんじゃありません!」
するとカイは、ちょっと行ったところですぐに止まった。
ここは……
「犬用ジャーキー専門店じゃねーか!!」
犬用ジャーキー専門店ってなんだよ!
人生で初めて言ったわ、こんな言葉!
この世界、文明が進んでるのか進んでないのかイマイチわからんな……
「わふ、ぐるるわふわふわん!」
「『ぼく、あれが食べたいわん!』と申しております」
これは俺もそう言ってると思いました。
ほぼ喋ってたといっても過言じゃなかった。
「そんなに食べたいなら買ってやるか……メイが」
だって俺、無一文だし。
その後、俺達3人匹は夜遅くなるまで町を探索した。
―◇◇◇―
「それでは作戦会議を始めましょう。パチパチ」
「わふわふ!」
現在、俺達は宿の部屋で、車座になっている。
カイは犬用ジャーキーをかじりながらも、参加している。
「今日の議題は、どのギャンブルでどう稼ぐか、だな」
「ですね」
「わふ」
今日、全ての場所を回れた訳では無いが、思ったよりたくさんの種類のゲームがあった。
カジノ定番のルーレット、スロット、大小、トランプを使ったもの。
それから、麻雀や競馬、チンチロ、富くじなど、日本でもメジャーなもの。
他にもこの世界特有のよくわからないものまで、数えたらきりがない程だ。
「メイはどれが良いと思った?」
「もちろん麻雀です」
こいつまた阿佐田哲子に取り憑かれてるのか。
「それで、どう勝つ?」
「見ててください。ここに麻雀牌を用意しました」
俺を説得するために、わざわざ麻雀牌まで用意したらしい。
ジャラジャラジャラ……
メイ改め阿佐田哲子は、麻雀牌を混ぜている。
「ここで自分の山を作る際に、必要な牌を積み込みます」
言うやいなや、自然な手つきで山を作る。
俺が見る限りでは、全く積み込んでいるようには見えない。
「そして、牌が配られた際に隙をついて、燕返しを決めます」
目にも留まらぬ速さで、自分に配られた牌と目の前の山の牌をそっくり入れ替える。
俺でなきゃ見逃しちゃうスピードだ。
これなら、俺とカイでちょっと注意を引くだけで、対戦相手には気付かれないかもしれない。
「ツモ!」
阿佐田哲子は自信満々に手牌を倒すと、その役があらわになる。
東東東東東東東東東東東東東 東
「東一色!?」
麻雀では同じ牌は4枚しかないので、こんなことはありえない。
イカサマをしていると言っているようなものじゃねーか!
「東のこと好き過ぎだろ!」
「私の応援している野球チームにそういう投手がいらっしゃいまして」
「横浜ファン!?」
ちなみに俺は千葉ファンだ。
別のリーグで助かったな。
「てか、今は全自動卓だから積み込みとかできないだろ!」
「はっ! それは盲牌!」
「いや、盲点みたいに言うんじゃないよ!」
はぁ……
振り出しに戻ったな。
余計な時間と体力を使ってしまった。
「他に何か案はあるか?」
「わん!」
「……はい……はい」
メイはカイに耳を近付け、話を聞いている。
犬の手も借りたい状況だからな。
少しでも良い案が欲しいところだ。
「『このジャーキー、おいしいわん!』と、カイ様は仰っております」
「期待した俺がバカだった! ……てか、耳舐められないと、意思の疎通できないんじゃなかったっけ?」
「……『このジャーキー、おいしいわん!』と、カイ様は仰っております」
……そういうことにしておいてあげますか。
というかカイ、お前、俺達が麻雀のくだりやってる間、どんな気持ちでまだジャーキーかじってんだ。
「カイは食いしん坊だな。……そうだ、こういうのはどうだ? 大食い対決に参加して、食べるフリをして下に落とし、カイに食べてもらうとか」
「動物に人間の食べ物を与えるのは、いかがなものかと」
そうだった、きび団子の時もそんなこと言われたな。
「あ"ーーー、じゃあどうすっかなぁ……」