第七話「いわゆる日本のお手玉の投げ方は、実は難易度がちょっと高い」
俺達は町の散策を始めた。
表通りは、とても賑わっている。
道の両脇には屋台がずらりと並び、威勢のいい声で客を呼び込んでいる。
串焼きやスープなど食べ物を売っているところ、ジュエリーやアクセサリーなどを売っているところ、質屋のように担保を受け取り金を貸すところなど様々だ。
富くじなど簡単なギャンブルは屋台でもやっているが、本格的なものはちゃんとした建物の中で行われているようだ。
他にも、至る所で大道芸をしていたり、芝居小屋や珍獣小屋があったりとエンターテインメントも充実している。
町を歩いているだけで、気分も高揚してきた。
こうやって財布のヒモを緩ませるんだろうな。
旅行に行った時、普段だったら絶対買わない木刀を買っちゃう、みたいに。
俺もお金を持っていたら、雰囲気に流されて散財していた事だろう。
無一文で放り出されてよかった、よかった。
……言ってて悲しくなってきた。
「無一文でもマサヨシ様はマサヨシ様ですよ」
メイ……
そうだよな、お金が全てじゃないよな。
ありがとう。
笑いを堪えるように、メイの肩が小刻みに揺れているのは、目を瞑ることにするよ。
それから、行き交う人々に目を移してみると、女を侍らせて豪遊してるやつ、身ぐるみ剥がされて放り出されているやつ、そいつらをカモにしようとしているやつ、こちらも様々だ。
「町の雰囲気は大体わかったから、どこか建物に入ってみるか」
「それでしたら、あちらの建物がこの町で一番のカジノになります。まずは、そこに行くのはいかがでしょう」
そうだな。
まずは一番すごいカジノに行ってみるのがいいか。
ゲームの種類も多いだろうし、他のところを見るにも基準になるしな。
「よし。じゃあ、そこに行ってみるか」
俺達はこの町一番だというカジノへと足を向ける。
「ここがこの町一番のカジノ……?」
俺の目の前には結構ボロ……趣がある建物が建っている。
「メイ、本当にここがこの町一番のカジノなのか?」
「はい。さっそく入りましょう」
一歩足を踏み入れると、外の良い天気とは裏腹に、薄暗い部屋が待ち構えている。
しかも、気温は低くないはずなのに、何故か寒気を感じる。
「お、おい……ここはやめておいた方がいいんじゃないか……?」
(……いらっしゃいませ……)
「ん? 何か聞こえなかったか?」
俺は何かが聞こえた気がして横を向く。
「ぎぃやぁぁー!! 出たぁぁ!!」
するとそこには、青白い顔をした幽霊がたたずんでいた。
「マサヨシ様、失礼ですよ。この方は、ただ青白い肌で、ガリガリに痩せて骨が浮き出ていて、運を持ってなさそうな不幸顔をした、ただの従業員です」
「メイも大概失礼なこと言ってるぞ!?」
青白い肌と痩せてるのは事実だけど、不幸顔はただの悪口!
「わんわん!」
「カイ様、ダメですよ。この骨はまだ生きているので、食べられません」
「わふ?」
どんだけ食いしん坊なの!?
てか、『まだ』って何?! 『まだ』って!!
なんか怖くなってきちゃったな。
特に怖いのは、失礼なことを言ってしまったこの地獄の空気の中で、このカジノのことを聞くってこと。
俺は意を決して、従業員にこのカジノのことを尋ねる。
「びっくりして取り乱してしまいました、すみません。こちらのカジノはどういったシステムになっているのでしょうか?」
従業員はおどろおどろしい声で答える。
「いつものことなので、気にしてませんよ。当店の料金はお一人様一律1000Gとなっております」
ん? お一人様1000Gってどういうこと?
どのゲームも1回1000G賭けるってことか?
まぁ料金体系はわかりやすくていいが、あんまり儲けられそうにないな。
人気のある店ってのは、こういう万人向けのシステムなのかね。
「面白い料金体系ですね。こちらにはどんな種類のゲームがあるんですか?」
「……? あぁ、ロールプレイでカジノ客を演じてらっしゃるんですね。そういう楽しみ方もありですよね」
「?」
俺は首を傾げ、従業員を見つめる。
「?」
相手も首を傾げ、俺を見つめる。
2人はお互い不思議そうな顔で見つめ合う。
幽霊に恋する5秒前だ。
「えーっと、確認なんですけど、ここってカジノですよね?」
俺は困惑しながら、そう尋ねる。
「えーっと、今更なんですけど、ここってカジノっぽいお化け屋敷なんですよね」
従業員は困惑しながらそう答える。
俺の脳内ではその言葉がリフレインする。
カジノっぽいお化け屋敷なんですよね……カジノっぽいお化け屋敷……お化け屋敷……
……お化け屋敷!?
「……ちょっっと、メイさん、こっちに来てもらえるかな?」
俺はメイを連れて建物の外に出る。
「なぁ、メイ。ここが一番すごいカジノだから行こうって言ってなかった?」
メイは首を傾げる。
「一番すごいとは申しておりません。ここが一番(怖いと噂)のカジノ(がモチーフのお化け屋敷)だ、と」
「恥かいたやろがい!! そのカッコの中を最初っから説明しとかんかい!!」
あまりの恥ずかしさに、エセ関西弁が出てしまった。
「いいリアクションでしたよ。驚いた瞬間の写真が売ってるはずですから、買ってきましょうか?」
「いや確かにお化け屋敷にそういうサービスあるけども!! ジェットコースターで落ちる瞬間のやつとか。でも俺そういうの、1回も買ったことないから!」
「えっ……」
「『買ったことないじゃなくて、そもそも行ったことないの間違いじゃなくて? 友達いないから』みたいな顔すんなし!」
自分で言ってて悲しくなるわ……
ちなみに遊園地に行ったこともあるし、友達もいないこともない。
……本当だぞ。
「はぁ……もうここはやめて、さっさと別のとこ行くぞ」
「わんわん!」
そう吠えるやいなや、カイが一目散に駆けていく。