第六話「日用品がゲーミング仕様だっていいじゃない」
俺は初めての魔物との遭遇に、浮足立っていた。
それでもなんとか勇気を振り絞り、愛剣ただの棒を構え攻撃を仕掛けようとする。
「マサヨシ様、お待ち下さい!」
「なんだ? 早く攻撃しないと! ……はっ! もしかして、この世界のスライムは最弱タイプではなく、強者タイプか!?」
物語に登場するスライムには、2パターン存在すると聞く。
1つはゲームの序盤に登場するような、低レベルの状態でも少し攻撃しただけで倒せるタイプ。
もう1つは物理攻撃が一切効かず、あらゆるものを飲み込み溶かしてしまうタイプ。
確かに後者だとすれば、魔法が使えない我々のパーティでは歯が立たない。
「いえ、戦闘はターン制なので、マサヨシ様はスライムの行動を待ってから、攻撃してください」
「俺、スライムよりすばやさ低いの!?」
衝撃の事実だ。
スライムに負けるとは……
「わおーん!」
あっ、カイがスライムに突撃していった。
警戒してるのか、前足でつんつんしてる。
あっ、爪が引っかかってスライムが破れた。
そして、スライムが敗れた。
カイがしょぼーん、としている。
遊ぼうと思ってじゃれついたら、風船が割れてしまった、みたいなそんな感じの雰囲気だ。
「初討伐おめでとうございます」
「虚しくなるからやめてくれ……」
俺も次こそは、この伝説の愛剣ただの棒で、華麗に討伐してみせる、と密かに誓った。
「物語だと、スライムを倒したら核がドロップしたりするけど、この世界だとどうなの?」
「この世界のスライムは、核を持たないタイプですね。ごくごく稀に体内に取り込んだアイテムを落とすこともありますが、今回はそれも無いようです」
これじゃあ、いくらスライムを倒しても旨味はなさそうだな。
こうして魔物との初遭遇イベントは無事に終わり、俺達はカジノがあるという隣町へと移動を再開した。
―◇◇◇―
「ここが、カジノの町……」
スライムとの初戦闘後、特にイベントも起こらず、俺達は隣町に到着していた。
カジノの町は都会といえば都会だが、思っていたよりも、なんというか、質素だ。
石畳の道に石造りの建物の街並みが続いている。
いわゆる中世ヨーロッパと言われるような、アニメやゲームでよく出てくるようなところだ。
「カジノの町って俺のイメージだと、もっと電飾がビカビカしてて、きらびやかなところだと思ってたよ。ゲーミングパソコンみたいに、レインボーに光ったりさ」
「この世界の設定がなんちゃって中世ヨーロッパ風なので、こんなものでしょう。ちなみに、私の使ってるゲーミング掃除道具は七色に光ります」
「わふ」
ゲーミング掃除道具って何!?
めっちゃ気になる……のか?
いや、よく考えたらどうでもいいか。
掃除道具が光ってもしょうがないし。
一方、カイは何もわかってないはずなのに、『その通りだわん』とでも言いたげに、胸を張ってうんうん頷いている。
この短期間でメイに毒され過ぎでは……?
「それで、結局カジノで金策することになったんだっけ?」
「当然です!」
目をお金にして、拳を握りしめるメイ。
「あ、そう……」
俺は、若干引いている。
……いや、結構引いている。
「や、やっぱりカジノといえば、ルーレットとかスロットとかか?」
俺の乏しいカジノの知識だと、大体こんなイメージだ。
あとはポーカーとかトランプ使ったやつ。
カードを配ったりするディーラーが、男女問わず格好良く見えるんだよね。
「ルーレットはディーラーが狙った数字に玉を落とすことができるので勝てませんし、スロットも設定によってカジノ側が儲かるようになっています。この2つはイカサマも難しいので、除外してもいいでしょう」
「じゃあ、どうする?」
「まずは『見』に徹することが大切です。場をよく観察するのです」
「急に雀聖みたいなこと言い出した!?」
「私が、阿佐田哲子です。キラン☆」
美人だけど、自分で効果音言っちゃうタイプなんだよなぁ。
しかも真顔で。
「まぁどんな種類のゲームがあるのか、今日は見て回るとするか」
「そうしましょう」
「わん!」