第五話「消費税が導入されたのって平成元年からなんだね」
「他に稼げる方法はないのか?」
「……?」
「そんな『他に何があるの?』みたいな目で見つめないで! マサヨシのライフはゼロよ!」
「カジノは隣町にございます。ちょうど魔王城へ行く途中ですので、とりあえずそちらへ向かいましょう」
うーむ……
メイに流されているような気もするが、他に方法も思い付かないし――
「じゃあ、そうするか。ちなみに何日くらいかかるんだ?」
俺の問いに、メイは不思議そうに首を傾げる。
「あちらに見えているので、今日中にはたどり着けるかと」
「近ぁ! 見えるなんて、東京駅と有楽町駅くらい近いじゃねぇか!」
「さすがにそんなに近くはありませんよ。東京ー有楽町駅間は歩いて10分ほど。隣町までは1時間半以上かかるので、東京ー品川駅間くらいですかね?」
「詳しすぎませんか!?」
あまりの衝撃に敬語になってしまった。
しかし、そこそこ距離があるんだな。
東京だとビルが多くてそんなに遠くまで見渡せないが、遮るものがないと結構遠くまで見えるもんだな。
まぁ、確かに富士山とかめちゃくちゃ遠くても、結構大きく見えるけども。
「街の外は安全なのか? 魔物が出たりとか、賊が出たりとか」
「王都の周辺は比較的安全ですよ。賊は取締りが厳しいですし、魔物もそれほど強いものはそうそう出合いません」
「わん!」
「……はい……はい」
メイはカイに耳を近付け、話を聞いている風を装っている。
あっ、耳舐められてる。
「……ごほん。『僕がいるから任せるわん!』とカイ様は仰っております」
「はい、ウソー!! 耳舐められて、動揺してましたー!!」
「私はイッヌリンガル族の末裔なので、あ・え・て耳を舐めさせることによって、意思の疎通ができるのです」
言語明瞭、意味不明。
意外とメイはサプライズに弱いのかもしれない。
「そこまでの危険がないなら、さっさと行きますかね」
俺達2人と1匹(以下3人匹)は、街の外れにある門から外に出た。
そこにはある程度整備されている街道が続いており、問題なく隣町まで歩いていけそうだ。
「お待ち下さい、マサヨシ様。武器をお渡しするのを失念しておりました。マサヨシ様はこちらの武器をお持ちください」
メイが1本の武器を差し出してくる。
俺はそれを受け取ると、戦慄が走った。
「こ、これは……! 皆が一度は憧れたことのある、かの伝説の武器……"ひのきのぼう"か!!」
「いえ、そこで拾ったただの棒です」
「ただの棒かい!!」
俺はただの棒をぶん投げる。
「わんわん!」
カイが猛ダッシュでただの棒を追いかけていくと、ナイスキャッチして戻って来る。
どう? すごいでしょ? 褒めて褒めて? とでも言いたげに、しっぽをブンブン振り、キラキラした瞳で見上げてくる。
尊い……
俺はカイからただの棒を受け取ると、頭を撫でてやる。
カイは嬉しそうに、頭を擦り付けてくる。
尊い……
このただの棒は、今この時より俺の愛剣になったよ。
愛犬だけに……
「マサヨシ様。私もその程度のこと、造作もありません。さぁ、早く投げてください」
「いや、俺にそんな趣味ないから!」
なんでこんなことで、犬と張り合ってるんだか……
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、時間が過ぎるのは早いもので、もう道程の半分は過ぎただろうか。
天気もいいし、自然もあって、のどかでいいなー、なんて思っていると、急にカイが『わん!』と一鳴きして臨戦態勢に入る。
「な、なんだ!?」
「たららららららららー スライムがあらわれた たーらーらーたーたららー」
「いや、戦闘BGMを口でやらなくていいから! 早く倒さないと!」