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第三話「パンサーもレパードもヒョウのうち」

本日、4話更新の3話目です。

「それでは改めまして、魔王討伐までの流れを説明させていただきます」

「あの、そのことなんだけど、嫁のためにどうしてもすぐ戻らないといけないんだ! なんとかなりませんか!?」


 たかがメイドに聞いたところでどうにもならないことはわかっているが、やはり聞かずにはいられない。


「嫁と言っても二次元ですよね? いえ、そのことを否定するつもりはありませんが。こちらとあちらでは時間の流れが異なりますので、8万5千字くらいまでに魔王を倒せば放送時間に間に合うと思われます」


 情報過多!!

 真面目な顔して何言ってんの!?

 色々聞きたいことあるけど。

 聞きたいことあるけど。

 一番聞きたいのは……


「8万5千字って何!? 8万5千字って何の単位なの!?」

「まずは仲間を集め、次に金策、そして装備を整え、秘術を身に着け、最後に魔王討伐という流れになります」


 聞いちゃいねぇ……

 おかしいな……屋内なのに目から雨が……


 はぁ……

 まぁ、何故か俺が召喚に応じたことになってるし。

 早く魔王を倒せば、間に合うみたいだし。

 仕方ない。

 俺はやるぞ、ソラたんの為に!

 勇者様に、俺はなる!


「いつもの無駄な正義感が顔を出したところで、さっそく仲間を探しに行きましょうか」


 辛辣ぅ……

 また目から雨が降るところだったよ……


 でも、仲間は重要だよな。

 最も重要だと言っても過言ではない。

 人間関係は面倒くさいが、強い仲間を集めれば俺が戦わなくて済むかもしれないし。


「仲間はどこで探すんだ? ギルドとか傭兵所とかか? 武術の達人と強力な魔法使い、賢者、ヒーラー。タンクも欲しいな。あと斥候とかも!」

「全部は無理ですよ」

「なんで!? あ、もしかして魔法が無いタイプの異世界なのかな?」


 それならしょうがないよね、うんうん。


「いえ、3人パーティ制なので、あと1人しか仲間に加えられません。勇者がそんなに大勢で魔王と戦っているところ、見たことありますか?」

「ゲームかよ!!」


 俺は、3人制よりも4人制の方が好みなんだけどなぁ。

 サイゴノファンタジー10より9の方が好きだった。

 いや、そうじゃなくて!


「3人制なのは百歩譲ってわかったけど、それならあと2人は仲間にできるだろ!?」

「はぁ……」


 メイはため息を吐き、やれやれといった感じで肩を落とす。


「いいですか?」


 小学生に諭すような口調で話し始める。


「マサヨシ様と」


 メイは、俺を指差す。


「私」


 メイは、自分自身を指差す。


「で、2人。3引く2は1ですよ?」

「お前もパーティに入ってるんかい!!」


 はっ! いかんいかん。

 人を見た目で判断しちゃいけないよな。

 王城に仕えるメイドだし、もしかしたらめちゃくちゃ強かったりなんかしちゃったりするかもしれない。


「メイはどんなことができるのかな? 実はめちゃくちゃ強かったりなんて……?」

「そうですね……私は棺桶を引っ張って教会に連れていくのが得意です」

「大事だけど! 復活できるなら大事だけど!!」


 メイは一見無表情のままに見えたが、わずかに左の口角が上がっているようだ。

 こいつ、さては……!!


 いや、そんなこと考えてもしょうがない。

 もう1人の仲間のことを考えよう。


「メイは、もう1人はどんな仲間がいいと思う? 魔法使いとかヒーラーとか。……そうだ、3人集まれば派閥ができるって言うし、性格も考えないとなぁ」


 俺は言いながら、頭を抱える。

 前の職場の出来事のせいで、面倒くさい人間関係は懲り懲りなんだよなぁ……


「人間関係が面倒なら、動物をお供に加えるのはいかがでしょう?」


 なるほど、動物か。

 リュウクエのゲルゲルみたいな感じね。


 どんな動物がいるのだろうか。

 やっぱり、お決まりのパンサーか?

 もしかして、ファンタジーの定番のドラゴンとかもいたりして!?


「おすすめの動物は!?」


 俺の前のめりの質問に、メイは淡々と答える。


「犬」


 犬も定番だね。

 やっぱり人間とは昔からの信頼関係があるし。

 大きさにもよるけど、乗れちゃったりして。


「と、猿」


 猿もいいな。

 頭が良くて、手先も器用。

 デズーニのアラザンも猿を連れてるし。


「と、キジ」

「桃太郎じゃねーか!! お供とか言ってる時点で、怪しいと思ったよ!!」


 俺が思わずツッコミを入れると、メイは先ほどより真剣な雰囲気で息を呑む。


「そんな……マサヨシ様ごときにオチを読まれるなんて……」

「いや、顔! そう思うなら、もっと落ち込んだ表情にして!」


 何事もなかったかのように、メイは続ける。


「ちなみに、マサヨシ様がお好きな動物は何でしょう?」


 また無視……


「そうだなぁ。子供の頃、実家で犬を飼ってたから、やっぱり犬かな。少し丸っこい柴犬で、背中に顔を埋めると、ちょっと臭いけどお日様の香りがしたりして。よく可愛がってたなぁ」


 俺は今は亡き愛犬のことを思い出し、少し感傷に浸った。


「では、犬をお供に加えましょう」

「きび団子で仲間になるわけじゃないよな?」


 モンスターはお肉で仲間にしたりするものだが。


「犬に人間の食べ物を与えてはダメですよ。動物愛護センターで里親を募集してますので、そちらに参りましょう」

「俺の方が常識を説かれてる!? てか、里親ってもうパーティっていうより、家族に迎え入れてるよね!?」

「わ、私とマサヨシ様が家族……!! ぽっ」


 メイは頬を赤く染め……ているわけではなかった。


「ぽっ、て声に出すものじゃないからね!? 頬が赤く染まる音だからね!? もう話が進まないから、さっさと行くぞ!」

「かしこまりました、マサヨシ様」


 こうして俺は王城を出て、初めての異世界へと一歩踏み出した。

 メイとのやり取りのせいか、おかげか、変にドキドキやワクワクを感じる間もなく。

 異世界という非現実的な雰囲気もあってか、久しぶりに素の状態で他人と話したかもしれない。

 こんな掛け合いも悪くないな、と俺は思った。

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