棘ある白き薔薇
場面は夜、ロザリンの邸宅。豪華な内装の部屋に、一人の貴族が彼女を訪れていた。
その男、セバスチャン・ヴォルター伯爵は、ロザリンの背後で支援を続ける主要な黒幕だった。
「ロザリン嬢、アメリアにここまで阻まれるとは想定外だ。」
セバスチャンは厳しい表情で言う。
「申し訳ありませんわ。」ロザリンは冷静な態度を保ちながら答える。
「ですが、彼女を打ち負かすための策はまだ残っています。」
「策だと?」セバスチャンが眉をひそめる。
「君の行動がこれ以上失敗すれば、私たち全体の計画が危うくなる。次の調停では、確実に勝利を得なければならない。」
ロザリンは微笑みながら返した。
「ご安心ください。今度は確実にアメリアを追い詰めてみせますわ。」
彼女の言葉には自信があったが、内心では焦りを感じていた。
(次は失敗できない…どんな手を使ってでも勝利しなければ。)
一方、アメリアはエドワードと共にロザリンの背後関係を調査していた。
「ロザリンの動きには明らかに外部の影響があるわ。」
アメリアは手元の資料を指しながら言う。
「彼女が短期間でこれほど多くの貴族から支持を得た背景には、必ず強力な支援者がいる。」
エドワードが頷きながら応じる。
「調べたところ、ヴォルター伯爵がロザリンの背後で動いている可能性が高いです。彼は王国でも有数の影響力を持つ人物で、特に鉱山や交易路に強い利権を持っています。」
「なるほど。」アメリアは目を細めた。
「つまり、彼はロザリンを利用して自身の利益を拡大しようとしているのね。」
エドワードがさらに付け加える。
「それだけではありません。ヴォルター伯爵は調停会議自体を支配しようとしているという噂もあります。ロザリンは彼の駒に過ぎないのかもしれません。」
アメリアは机に肘をつき、深く考え込む。
「ならば、次の調停で彼女を打ち負かすだけでなく、その背後にいる伯爵の動きも暴かなければならない。」
数日後、調停宮殿で新たな調停会議が開かれた。今回の議題は貴族E家とF家の間で起きた「交易路の使用権」を巡る争いだった。
ロザリンは白いドレスを纏い、優雅な態度で登場した。彼女の周りには複数の男性貴族が付き従い、その存在感は調停官としての権威を増しているように見えた。
議長が議題を説明し、双方の主張が提示される。E家は交易路の使用権が先祖代々のものであると主張し、F家は新たな契約によってその権利を得たと反論する。
ロザリンが口を開き、柔らかな声で発言した。
「F家の主張には確かに説得力がありますわ。ですが、E家の歴史的背景も無視することはできません。」
彼女の発言に、広間の貴族たちは再び魅了される。
「なんと公平な意見だ!」
「さすがはエヴァレット嬢!」
しかし、アメリアはその様子を冷静に見守りながら、ロザリンの言葉の裏に潜む意図を読み取ろうとしていた。
会議の後半、ロザリンが新たな証拠を提示した。それは、F家がE家に対して不正な契約を結ばせたことを示す書類だった。
「こちらの書類をご覧ください。この内容から、F家が交易路の使用権を奪うために不当な圧力をかけていたことが分かります。」
広間がざわめきに包まれる。貴族たちはその証拠に驚き、F家を非難する声が上がり始めた。
「これではF家の立場は苦しい!」
「E家の主張が正しいのでは?」
しかし、アメリアは冷静にその証拠を手に取り、内容を確認した。
アメリアは立ち上がり、ロザリンの提示した書類を指差す。
「この書類ですが、いくつか奇妙な点があります。」
彼女は証拠の中に含まれる契約日付と、記載された地名を指摘した。
「F家がこの契約を結んだとされる年、該当の地名はまだ存在していなかったのです。」
広間が静まり返る。
「つまり、この書類は捏造された可能性が高い。」
ロザリンは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「まあ、確かにそれは見落としていましたわ。ただし、それが捏造であると決めつけるのは早計です。」
しかし、アメリアはさらに続けた。
「そして、この証拠を提出した背景に、ヴォルター伯爵の影響があると聞いています。」
広間が再びざわめき始める。
調停は一時中断となり、ロザリンは控室で一人考え込んでいた。
(アメリア…また私の手を読んだのね。でも、次こそは必ず。)
その時、セバスチャン・ヴォルター伯爵が現れ、厳しい声で言った。
「ロザリン嬢、これ以上の失敗は許されない。次は君自身が直接動く必要がある。」
ロザリンは微笑みを浮かべながら答えた。
「もちろんですわ。次回は私自身の手で、アメリアを叩き潰してみせます。」
一方、アメリアはエドワードと共に帰り道を歩きながら言った。
「ロザリンの背後にヴォルター伯爵がいることは間違いないわ。」
「ええ。しかし、伯爵を直接調停の場に引きずり出すのは難しいでしょう。」
アメリアは冷徹に微笑む。
「伯爵の利権を崩すための証拠を集めるわ。それができれば、ロザリンも動けなくなる。」