白き薔薇の影
夜の王都。ロザリンはとある秘密の部屋に貴族たちを招き、さらなる協力を求めていた。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。」
彼女は微笑みを浮かべながら、手元の書類を見せる。
「これは次回の調停で必要になる新しい証拠です。A家の主張を完全に覆すものですわ。」
部屋に集まった貴族たちは頷きながら口々に賛同する。
「これほどの証拠があれば、調停を有利に進められるでしょう。」
「さすがはエヴァレット嬢だ。」
ロザリンはさらに続ける。
「ただし、この証拠を最大限に活かすためには、皆様の“影響力”が必要ですわ。」
彼女の甘い声に貴族たちは頷き、次々と協力を約束した。
彼女が退室すると、一人の貴族が呟く。
「彼女は美しいだけでなく、本当に賢い。まさに王国を導く存在だ。」
ロザリンはその言葉を背に、静かに笑みを浮かべる。
（操り人形たち。私のために動くなら、多少の賛辞はくれてやるわ。）
一方、アメリアは執務室でエドワードと共に次回の調停に備えていた。机の上にはロザリンの新たな証拠に関する情報が並べられている。
「ロザリンが次に提示する証拠が何であれ、裏を取る必要があるわ。」
アメリアは冷静に言いながら、資料に目を通す。
エドワードが頷きながら答える。
「調査を進めていますが、ロザリンの背後に複数の貴族が関わっている可能性があります。彼女一人の力ではありません。」
「そうでしょうね。」アメリアはペンを手に取り、静かに書類に何かを書き込む。
「ただし、彼女の背後にいる者たちも含めて、この“ゲーム”の全容を暴かなければならない。」
エドワードが眉をひそめる。
「彼女は非常に巧妙です。純粋さを装いながら、貴族たちを完全に味方につけています。」
「そうね。」アメリアは短く答える。
「でも、誰かを騙すとき、必ずどこかに綻びがある。私たちはそこを突くのよ。」
次回の調停会議が開始され、今回の議題は貴族A家が所有する鉱山の権利を巡る問題だった。
ロザリンは優雅な態度で議長に挨拶し、新たな証拠を提示した。
「こちらをご覧ください。この鉱山は、実際にはB家の所有物であることを示しています。」
彼女の証拠には、鉱山の所有権に関する古い記録と、A家が不正に権利を主張しているとされる証言が含まれていた。
貴族たちは再びざわめき始める。
「これは決定的ではないか？」
「A家は苦しい状況に追い込まれるだろう。」
ロザリンは貴族たちに微笑みかけながら語る。
「私は常に公平な立場で調停に臨むつもりです。この証拠も、ただ事実を示すためのものに過ぎません。」
その言葉に、貴族たちは拍手を送り始める。
しかし、アメリアは冷静に証拠を手に取り、その内容を確認した。
彼女は少しの間考え込み、やがて立ち上がる。
「ロザリン様、この証拠についていくつか確認したいことがあります。」
彼女の声が広間に響き渡り、貴族たちの注目が一斉にアメリアに向けられる。
アメリアは証拠の一部を指差し、静かに語り始めた。
「こちらの記録ですが、筆跡が非常に似ているものが最近提出された別の文書にありました。それは、B家の公文書の中に含まれているものでした。」
広間がざわめき始める。
「つまり、この証拠は捏造されたものである可能性が高い。」
ロザリンは驚いた表情を浮かべながらも、すぐに笑顔を取り戻した。
「まぁ、アメリア様。本当にそれが捏造だと言い切るには、さらに調査が必要なのではなくて？」
アメリアは冷たい目でロザリンを見つめ、静かに言い放つ。
「調査の結果が出るまでの間、今回の調停は延期を求めます。そして、この証拠の真偽を徹底的に検証します。」
議長がその提案を受け入れ、調停は一時中断となった。
調停の後、ロザリンは控室で一人考え込んでいた。彼女の周りには味方する貴族が何人かいるものの、先ほどのアメリアの発言により、彼らも若干の不安を抱いている様子だった。
（アメリアめ…また私の計画を邪魔するつもりね。でも、これ以上の失敗は許されない。）
その時、ロザリンの背後に現れたのは、彼女を裏で支援する貴族団体の一人だった。
「ロザリン嬢、このままでは貴女の立場が危うくなる。次回の調停では、より慎重に動くべきだ。」
「分かっていますわ。」ロザリンは静かに答えたが、その目には再び冷酷な光が宿っていた。
調停の帰り道、アメリアとエドワードが歩きながら会話を交わしていた。
「ロザリンの動きが早すぎる。彼女は何かを急いでいるようね。」
「そうですね。もしかすると、彼女を支援している者たちに理由があるのかもしれません。」
「次の調停までに、彼女の背後関係を突き止める必要があるわ。」アメリアは冷たく微笑む。
「この“白き薔薇”、どれだけの棘を隠しているのか、徹底的に見極めるわ。」
