ヴィクトールの攻勢
アメリアの執務室。
豪奢な調度品が並ぶ室内に、朝陽が差し込む。アメリアは大理石の机に肘をつき、冷静な表情でエドワードの報告を聞いていた。
エドワードは手に古びた巻物を持ち、慎重な口調で話し始める。
「アメリア様、先日ヴィクトール様が提示した地図について調査を行いました。」
「結果を聞かせて。」アメリアはわずかに頷き、彼に促す。
エドワードは巻物を広げ、静かに続けた。
「B家の公文書と比較した結果、この地図の筆跡は現在のB家の記録とは一致していません。さらに、使用されているインクが最新の魔術技術で生成されたものであることが判明しました。当時の技術では作れないものです。」
アメリアの唇がかすかに持ち上がる。その笑みは冷たくも美しい。
「やはり…あの地図は捏造ね。でも、それだけでは彼を追い詰めるには不十分よ。」
エドワードはさらに話を続ける。
「もう一つ、幻影魔法についての調査です。映像に映っていたA家の兵士の紋章が、B家の古い記録に記されている紋章と非常によく似ていました。おそらく、過去の資料を改ざんして映像を作り出したのでしょう。」
アメリアは机上のペンを指先で転がしながら、考え込むように口を開いた。
「つまり、彼は過去の資料を利用して巧妙に捏造したと…。だとしても、この程度では貴族たちの疑念を完全に晴らすことはできない。」
エドワードはうなずきながら答えた。
「その通りです。ヴィクトールの幻影魔術を暴くには、彼が提示する証拠を直接検証する必要があります。」
アメリアは短く息を吐き、決意に満ちた声で命じた。
「審判の魔法陣を使い、幻影に干渉する準備を進めなさい。次回の調停で、あの男の欺瞞をすべて暴く。」
「承知しました。」エドワードは頭を下げ、すぐに動き出した。
再び調停宮殿。大広間には貴族たちが集まり、前回以上の緊張感が漂う。ヴィクトールは自信たっぷりに壇上へ上がり、鋭い目つきで周囲を見渡す。
「諸君、これがさらに我がB家の正当性を裏付ける新たな証拠だ。」
赤い魔法陣を浮かび上がらせ、炎の中から新たな幻影映像を投影する。
映像にはA家当主がB家の使者に対し、不当な要求を行っている様子が映し出される。
「我が領地の収穫物をすべて納めろ! さもなくば力ずくで奪い取る!」
粗暴な声とともに、A家当主が冷笑する姿が広間に投影され、貴族たちはざわめき始めた。
「これがA家の真の姿だ。何度も不正を働き、我がB家を脅かしてきた。」
ヴィクトールはさらに畳みかけるように声を張り上げる。
「このような行為が許されるのであれば、我が王国の名誉は失墜するだろう!」
貴族たちの間に動揺が広がり、A家当主の顔は青ざめていた。
しかし、アメリアは動じることなく、ゆっくりと立ち上がった。冷徹な美貌に浮かぶ微笑みは、逆に広間を静まり返らせた。
「興味深い映像ね。」アメリアは壇上へ歩み寄りながら幻影を指差す。
「けれど、その場面にはいくつか奇妙な点があるわ。」
彼女は幻影に映る背景を指摘した。
「この場所、確かにB家の領地内の一部だけれど…当時はまだ建物が建設されていなかったはずよ。」
さらに彼女は幻影の人物たちに注目し、冷静に続けた。
「そして、この使者が身につけている装飾品。現在のB家の紋章に酷似しているけれど、デザインが微妙に異なっているわ。これが“真実”でないとすれば?」
広間が再びざわめきに包まれる中、アメリアは手を掲げた。
「審判の魔法陣を起動し、証拠を検証しましょう。」
審判の魔法陣が輝きを増し、幻影に干渉を始めると、映像が揺らぎ始めた。
「これは…どういうことだ!?」ヴィクトールが叫ぶが、魔法陣は幻影の中に隠された魔術の痕跡を次々と浮かび上がらせた。
幻影が崩壊し、残されたのは改ざんされた魔法陣の残骸だけだった。貴族たちが一斉に息を呑む。
「ヴィクトール様、これは…?」B家当主が不安げに彼を見つめる。
アメリアは冷たく微笑み、貴族たちに向けて静かに語った。
「ご覧いただけましたか? これが“真実”を覆い隠すために使われた幻影の正体です。」
調停はA家の勝利で終わり、広間にはアメリアの冷徹な正義が響き渡った。
ヴィクトールは拳を握りしめながら壇上を降り、アメリアに低く囁く。
「この屈辱は忘れない…必ずお前を叩き伏せる。」
しかし、アメリアは冷静に彼を見下ろしながら答えた。
「その日が来るのを楽しみにしているわ。ただし、永遠に訪れないでしょうけど。」
彼女の冷徹な言葉が響き渡る。