表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

中華王朝史記

ドラゴンの肉を喰らった暴君の逸話

作者: 大浜 英彰

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。

 中華の宮廷料理には八珍という珍味が存在するが、我が中華王朝の王室厨房は文化事業の一環として歴代王朝の八珍の厳選復刻に着手したのじゃ。

挿絵(By みてみん)

「話は聞いたぞ、やはり貴殿の肝煎りか。」

 予の問い掛けに、本件の責任者は物怖じせず頷いた。

挿絵(By みてみん)

「仰せの通りです、女王陛下。宮廷料理もまた、歴史文化の一つで御座いますれば。」

 我が妹の愛新覚羅白蘭(あいしんかくらびゃくらん)第二王女は芸術的才能と知識に秀で、今は翰林図画院(かんりんとがいん)の官僚として文化事業の推進に尽力しておる。

 故にその主張にも説得力があった。

「復刻予定の八珍の内訳は、此方の通りで御座います。あまりに高価な食材や希少動物は選外と致した故、現実的な構成に仕上がっておりますかと…」

「うむ、(ちん)に見せよ。」

 妹の言葉通り、復刻八珍の内訳は妥当な物だった。

 殷周革命を成した周からは牛肉を酒に浸した漬珍せきちん、大元帝国からは乳製品の酥酪そらくに葡萄酒の玄玉漿げんぎょくしょう

 そうした具合に、現代でも無理なく再現出来る料理が並んでおる。

「うむ、この献立なら差し支えない。良きに計らえ、白蘭(びゃくらん)。」

「はっ!有り難き幸せに存じます、愛新覚羅翠蘭(あいしんかくらすいらん)女王陛下。」

 肝煎りの事業に太鼓判を押され、妹の喜びも一入(ひとしお)だ。

 その喜びを分かち合いたいのは、姉として山々だった。

 しかし(ちん)白蘭(びゃくらん)の姉であると同時に、中華王朝の二代女王として玉璽(ぎょくじ)を預かる紅烏王(こううおう)でもある。

 心苦しい限りだが、時には臣下の慢心を防ぐために釘を差す必要があるのじゃ。

「さて、白蘭(びゃくらん)。一覧には宋代の龍肝りゅうかんもあったが、これは白馬の肝を使うのじゃな?」

「勿論です、陛下。本物は入手出来ませぬ故。」

 実に自信満々な顔をしておる。

 これは釘の差し甲斐がありそうじゃな。

「だがな、白蘭(びゃくらん)。司馬遷の『史記』は龍の肉を喰らった王族の逸話を伝えておる。貴殿は存じておるか?」

「はあ、確か孔甲こうこうであったかと…」

 覚えておるとは話が早い。

 それでこそ天子の妹じゃ。


 最古の王朝である夏の十四代帝の孔甲こうこうは、淫乱な暴君として伝わっておる。

 その最たる例が、吉兆である天から降りてきた龍を養えずに死なせてしまった逸話だ。

 これは夏王朝の徳の衰えの暗喩だが、孔甲こうこうの逸話はまだ終わらない。

 この龍の死骸の肉を重臣の劉累(りゅうるい)に献上された孔甲こうこうは、その味を甚く気に入った。

 そして貪欲な孔甲(こうこう)は龍の肉を更に欲し、劉累(りゅうるい)を追い詰めた末に出奔を招いたのだ。


 美食は確かに人生を豊かにする娯楽だが、求め過ぎれば人徳を失う事に繋がる。

 我々王族は、その事を肝に銘じなくてはならぬのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 八珍。 どんなものだったのかとネットで調べてみたところ、「猩のくちびる」とか、伝説にも登場する生き物など、たくさんの興味深い食材が出てきました。また食材が王朝ごとに変わっているのですね。 …
[一言] 拝読させていただきました。 今の皇帝が龍を食べた暴君というわけではないのですね。 ほっとしました。
[良い点]  何をそれとするかは時代により異なるのですね。  その時代時代に何が選ばれ何が外されたか、その背景には歴史的な理由があるのでしょうね。  珍しいものを好み、価値あるものとするのは人の性。示…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ