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第93話 A.軍人 B.ヤクザ C.大学生 さぁ、どれ?

 えぇっ? という視線がシルビアに注がれる。

 要求が分不相応だったというよりは、


「え? バーナード、だっけ? おめぇ命狙われてんだよな? 帰るって正気か?」

「少なくとも僕らは君を殴ったりしないぞ?」

「まぁ、あなたもキャベツ畑で拾われたでもなし。誰にでも帰るべき家はあるでしょうが」


 なんか心配されている?

 そのなかで、さすが(?)一人だけ驚きもしないゴーギャン。

 調子を崩さず答える。


「それはダメだねぇ」

「でも私にはリータや……」

「人情で引き留めてるんじゃない。僕らもアコギな商売でね。君は捕虜ではないけど、場合によっては交渉のカードになる」

「あ、あぁ」

「悪いけど、慈善事業じゃないのはご理解いただけるね?」


 ダメ押しの()()()()

 さっきまでは親しげに感じたそれも、今は絶対的な壁に感じる。

 ここまでずっと対応が丁重なのも、親切だけではなく。

 のちのちの交渉を見越して、印象をよくしておく戦略的含みがあるのかもしれない。

 彼女の感覚と被るように、ジャンカルラもボソッと呟く。


「顔がヤクザだしな」


 ゴーギャンの視線がそちらへ。


「じゃあ君はホストかな?」


 表情筋は少しも動いていないのに、シチュエーションが変わると印象も変わる。

 笑顔とは不思議なものである。

 返事をしたのは、表情自体が薄いアンヌ=マリー。


「童顔すぎるでしょう」

「なんだぁ? 19(じゅうく)のシスターがホストを語るかぁ?」


 ジャンカルラがホストよりはチンピラのように肩へ腕を回すのを払い()ける。


「それ以前にあなたは女性ですよね?」

「ナポリタンです」

「僕はナポリタンじゃないぞ」

「えっ」

「おう、こっちの話だ。気にしねぇでくれ」

「おー来た来た。アンヌ=マリーちゃん、そのタバスコ貸して」


 タイミング悪く提督を懐かしの味にしてしまったウエイター、哀れ。

 シルビアからすれば、わちゃわちゃとショックを受ける暇がないのは助かるが。

 それでもさすがに話が逸れすぎている。

 大袈裟に座り直し、軌道修正を試みる。


「では、私は今後どのように?」

「うーん、そうだねぇ」


 ナポリタンへビタビタにタバスコをかけるゴーギャン。もうケチャップの味などしなさそう。


「捕虜じゃないし、なんならスパイの可能性だってまだ捨て切れないし」


 呟いたのはジャンカルラ。

 アンヌ=マリーがグラタンを運ぶスプーンへ、突撃あーんを仕掛ける。

 シルビアの知っている以上にジョーク好きというか。

 同性の友人へメンドくさいカレシのように絡むのが好きなのかもしれない。『梓』時代もこういう女子が、クラスに一人はいた気がする。

 当然額にチョップを食らって言葉を続けないので、


「じゃあステラステラにゃ()()()()()として。とりあえずカンデリフェラ本星に移送っスかね」


 ピラフ大盛りを平らげたガルシアが、『ごちそうさま』しながら引き継ぐ。

 逆に今から『いただきます』のゴーギャンも頷く。


「それが一番だね。ちょうどしばらくは皇国からのガッツリした攻勢もない。戦線もここに集中して、任地へ戻る必要もない。みんな向こうに降りて休むでしょ? それなら見張るのも都合がいい」

「ちょっと待ってください。それじゃあわざわざ、僕ら提督クラスで彼女を見張るんですか?」

「だって彼女、カーディナル提督のお客でしょ?」

「えぇ……」


 あれだけのナポリタバスコンを口にしても涼しい顔。何を言っても通じなさそうである。


「と言っても、何人もお()りはいらないしね。カーディナル提督とアンヌ=マリーちゃんでお願いしようかな」

「私もですか?」

「女性陣で頼むよぉ? 僕は顔が婦女暴行らしいから、泣く泣く辞退するね」

「ちぇっ」


 ジャンカルラは腕組み唇を尖らせる。

 役目が嫌というより、『婦女暴行』発言が逆手に取られておもしろくないようだ。


「というかそもそも。あなたはステラステラの守将なのですから、最初から要塞にお留守番では?」


 熱いからか食べるペースが遅いのか。ようやくグラタンを(から)にしたアンヌ=マリーが、紙ナプキンを手に取る。


「それがねぇ。僕、ここの任期年明けまでだったんだよ。ゴタゴタでオーバーしてるんだよね。そしたらニーマイヤー提督が代わってくれるって」

「なるほど」

「せっかくのカンデリフェラなのに。もったいない男だな」

「まぁあの人は新聞さえあったらなんでもいいですから」

「執務室でもカフェテラスでも観光名所でも、世界の新聞サブスクしか見てないよ」


 散々な言われようである。もしかしたら同盟は、一部の提督にAIを導入しているのかもしれない。

 シルビアの脳裏に、アメリカ国旗のジャケットを着た『F◯CL』のカ◯チが浮かぶ。


「ま、そういうわけだからさ」

「はっ、はいっ!」


 思考がアニメの脳内再生に飛んでいた彼女へ、急にゴーギャンが話を戻す。


「お国へ帰るって要望は、少なくとも今々叶えてあげられないけどね。その代わり長期バカンスと思ってさ。いいところだよぉ? カンデリフェラ」


 きっと心底気に入っているのだろう。思い浮かべるだけでもニヤニヤが止まらない様子だが。

 彼がそんな顔をすると、シルビアとしては、


「それは、その、カジノと風俗とマリファナ的な……?」


 失礼だけど仕方ない。素直にそう思う。誰だってそう思う。ゴーギャンの顔的にそう思う。

 違っても笑い話、

 のはずだが。


「……」

「……」

「……」

「……」


 愉快そうに揺れる肩が止まるゴーギャン。

 急にメニュー表を手に取るガルシア。

 視線を天井に逸らし、口笛吹き始めるジャンカルラ。

 グラタン皿に残ったホワイトソースをスプーンで集めだすアンヌ=マリー。


「えっ、えっ、えっ?」


 まさか本当にヨハネスブルグじゃないでしょうね!?


 シルビアが目に見えてキョドりだすと、


「うはは!」


 ゴーギャンの笑いに合わせて全員が吹き出した。

 ジャンカルラが彼女の肩をバンバン叩く。


「ジョークだよジョーク! 大丈夫! 気にするなよ」

「まぁ、そういうものも、栄えているなりにはあるので否定できませんが」

「ゴーギャン提督じゃなくても普通に楽しめる大都市だぜ」

「にしても。会って数時間なのに、僕に対する認識が酷いねぇ!」


 どうやら担がれたらしい。

 こいつらノリが大学生かよ、と思うシルビアであった。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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