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第80話 小ズルい仕事

 明くる朝。第1戦の跡地でのこと。


 同盟軍籍作業船『モーガン(Dr.)博士(Morgan)』。

 その艦橋、というほど豪華でも調(ととの)ってもいない

 が、機能と役割で言えば、たしかに相当するのだろうフロア。


「船長。次は」

「あの皇国軍戦艦にしよう」


 人も三人と非常に少ない。二人は青年だが、船長は明らかにリタイアからのセカンドキャリア。


「ゴールドマンとコーンを向かわせて、一応使()()()かチェックさせよう」

「了解」


 作業船からニョキニョキとボーディング・ブリッジが伸びる。

 艦の側面に開いた大穴へ差し込まれ、フックで固定される。



 その船側、入り口。

 いつの時代になっても進歩しないのか、それとも最初からほぼ完成系なのか。

 現代人もよく知るものが、アニメみたいに多少スリムになった程度の宇宙服。

 それに身を包んだ男二人が、ちょうどヘルメットを被ったところ。


『さて、ゴル公。行くか』

『けどよ、コーン。見に行く意味あるか? 使えねぇから放棄されてるんだぜ?』

『ちょちょっと直せば使えるかもしれねぇだろ』

『それで直した()()()があるか?』

『逆に考えろ。どうせ直さないんだからテキトーで許される。それで金がもらえる。資本主義国家で共産主義のサボり(働き)方する奴が最強なんだよ』


 ぶつくさ言い合いながら、廊下を渡って船内へ。

 が、実際は。こんな仕事、金が貰えてもやりたくないレベルである。






『おー、ナンマンダブナンマンダブ』

『どこの国のお祈りだよ』

『オーム、シャンティシャンティシャンティ』


 戦闘し、被害を受け、放棄された艦なのだ。

 当然廊下のあちこちに、死体、遺体、血の跡、人だったもの。


 特殊清掃員よりグロテスクなのは、暴力的な損壊を山ほど同時に見ること。黒焦げやハラワタのバラ売りもされている。

 特殊清掃員よりマシなのは、片付けをしなくていいこと。臭いからもヘルメットで守られる。


『手早く済ませようぜ。マップは?』

『「戦いの旗(ジョリーロジャー)」級参照。オレは艦橋(ブリッジ)に行く。おまえは機関室(エンジンルーム)見てこい』

『あーいよ』






 ややあって艦橋。


『あー、こりゃダメだな。修理とかいう話じゃねぇ』


 ミスターコーンは一歩入るなり、いや、

 一歩入る床がなかった。


 下から強い爆風が噴き上げたのだろう。

 壁とくっ付いた操作盤なんかは原型を留めているが、それ以外はバラバラ。

「これはこの辺にあったんだろうな」と窺える程度の、分解したプラモデル状態。

 それらと複数人の死体が浮いている。宇宙だけあって慣性が尽きないのか、永遠にふわふわ、行ったり来たり。


『オレはゴル公みたいに祈ったりしないぜ。救世主(メシア)に送られたくない教えのやつもいるだろうしな』


 と言いつつ。一目で使えないと判断したにも関わらず。

 彼は何故か立ち去らずに、艦橋の無重力を泳ぐ。

 そのまま浮いている戦死者の元へ。

 別に見開いた目を閉じてくれるわけでもない。無線を切り、おもむろに軍服の袖を(まく)ると、


『ちぇっ。こっちも完全にイカれてやがる。レアもんモデルだってのによー』


 腕時計を漁って、ポイ。


『なんか他に持ってねぇか? 軍人さんならイカしたロケットに家族写真入れてるもんだろぉ?』


 先ほどゴールドマンに資本主義共産主義どうたらと講釈垂れたが。

 実際は小ズルい稼ぎが一番効率いいのだ。

 だって小ズルいのだから。

 無線だって切る。聞かれたら分け前と騒がれるに決まっている。

 船に残ってのんびりしてやがるような連中に渡す分はない。

 だって小ズルいのだから。


『なーんもねぇや』


 まぁ女神は善人に微笑まないというだけで、悪人には甘いわけでもない。

 空振りも往々にしてある。

 が、構わない。何せ元手はゼロ、ついでの小遣い稼ぎ。何三振しても痛くないのだから。


『次はあいつにするか』


 次に目を付けたのは、宇宙服に身を包んだお方。

 近寄ってみると、


『お、女か。でも死んでんじゃなぁ』


 ヘルメットの向こうは、案外安らかで整ったお顔。


『女はアクセサリが多いからな。でも宇宙服かぁ。漁りにくいんだよなぁ』


 全身をピッチリ包んでいるため、いちいち脱がさなければならない。

 これは後回し。先に楽そうなのから、とコーンは周囲を見回すが、


『ちぇっ、あとは大体宇宙服かよ』


 これはさっさと引き上げて、次の艦に行った方が効率はいいかもしれない。

 そんなことを思っていると、


『ん?』


 ちょっと疑問が引っ掛かる。

 この稼業を始めて()()()()になる経験。からの()()()()違和感。

 自分自身がこの格好だから気付かなかったが、相手は戦艦クルー。



『こいつら、なんで艦橋で宇宙服着てんだ?』



 ボソッと呟いたその瞬間、



『うら()()()〜、なんちゃって』



『ギエッ!?』


 急に背後の死体が動き出し、彼を羽交い締めに。


『まさかおめぇ、生きて……!?』


「おめぇ」ではない。


『人気メニューは生姜焼きぃ〜』

飯屋(メシや)ぁ〜』


 他の宇宙服も()()()と、続々動きはじめる。

「おめぇ()」である。


『あっ、ひっ!? なんだおめぇら!? こんなとこで何して!? あっ、無線!』


 しかし助けを呼ぼうにも、先ほど自分で切ってしまっている。

 再度ONにしようにも、こう身動きを封じられていては。


『よくも墓荒らししてくれたわねぇ〜?』

『二番人気はチキン南蛮〜』

『飯屋ぁ〜』


 理解不能な呪文を唱えながら、宇宙服どもが怪しい動きで集まってくる。

 中身はゾンビなのかもしれない。

 オカルトの恐怖に侵された彼が、最後に縋ったのは



『め、救世主(メシア)……!』

『飯屋ぁ〜』






モーガン博士(ドクターモーガン)』メインルーム。


『ただいま戻りました〜』


 ボーディング・ブリッジ格納フロアから通信が入る。

 受け答えするのは青年の役目だが。会話自体は狭い室内全体に丸聞こえ。

 居眠りしていた船長の眉がピクッと動く。


「了解。使えそうか?」

『飯屋にはなるんでない?』

『なるわけないでしょ』

「冷蔵庫でも漁ってきたのか?」

『中身が腐ってやがったぜ』

『そりゃ人間の方』

『くすくす』

『うふふ』

「? とにかくブリッジ格納するから、さっさとロッカーに行けよ」


 青年が通話を切ると、船長は()()()をしながら水筒の蓋を開ける。


「なぁ、今の声、ゴールドマンとコーンだったか?」

「えぇ?」


 通話していた青年は間抜けな感じ。

 もう片割れの、牽引作業に移ろうとレバーを動かす青年が答える。


「たしかに違う感じに聞こえたっスけど、あいつらじゃなきゃ誰だってんですか」

「いやまぁ、そりゃそうよなぁ。でもよ」


 自分の寝ぼけかもしれない。船長はコーヒーの香りを吸い込む。


「女、じゃなかったか? しかも三人いたような」

「飢えてんスか?」

「その歳で?」

「わーったわーった! 気のせいだよ!」


 まぁ実際、気のせいだろう。

 あの二人以外あり得るはずがない。


 船長がコーヒーを一口飲むと、

 ガチャリと背後のドアが開いた。

 噂をすれば、だろうか。基本日中はロッカーにしかいないのに、上がってくるとはめずらしい。


「おー、お疲れ」


 振り返るとそこには、



「お疲れー。ロッカールームはここでよかったかな?」



 ヘルメットを脱いだ()()()()()()の、

 半笑い、赤毛ポニーテール、童女の女三人組が拳銃を向けてきていた。



 のちに彼が


『「そんなことあるわけない」と思い込んではならない』

『違和感を()()()()にしてはいけない』


 と孫を(いまし)めたのは、言うまでもない。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

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よろしくお願いいたします。

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