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第76話 まだコースは始まったばかり

「『日々の糧を作る(ベーカリー)』轟沈!!」

「なんだとっ!?」

「脱出艇確認されず! その、アマデーオ提督は……」


戦禍の娘(カイゼルメイデン)』。

 今この時も命を懸けて戦うクルーの熱と、戦闘で艦内に発生した熱。

 その両方で息も苦しい艦橋内に、膝も震えるような冷や水が走る。



戦死(K)なさ(I)れた(A)……、と、思われます」



「くっそぉぉぉぉぉ!!」



 ジャンカルラは哀叫一つ。デスクに拳を叩きつけざま、俯いて動けない。

 そこにすかさずラングレーが言葉を掛ける。

 亡くなった者を思うのはいいが、それは心だけ。

 戦闘中なのだ。()()()()していると、体までついていくことになる。


「提督! もうこれ以上踏みとどまって戦うのは無益です!」

「分かっている!」


 彼女は俯き肩や背中を振るわせたまま答える。

 打ちひしがれてはいるが、思考自体まで停止したわけではないらしい。


「他艦隊も撤退を開始している。僕らだけが遅れると、『庭』がうまく使えないからな」

「では!」


 ようやく顔を上げたジャンカルラは正面を見据える。

 が、その目に映っているのは、前方の皇国軍ではないだろう。


「ここからが、ここからが勝負だぞ、皇国軍!!」


 必勝の策を胸に抱き、その時に向けて気力を奮い立たせるしかない。



「艦隊、撤退する! 眼前の敵から激しい追撃を受けるだろうが、ここに至って手立てはない! 皆、執念に懸けて生き残ってくれ!」



 アマデーオを逃すために突撃したジャンカルラ。

 ジャンカルラを逃すために振り返ったアマデーオ。


 結果は皮肉にも、アマデーオの死によってジャンカルラが撤退。

 何一つ噛み合わない結果となった。


 後世の歴史家たちには。

 せめて連絡の一つもしていれば。意思の疎通があれば。

 そういった悪魔的失策であると評する者もいる。


 余裕ある平時や圧勝状態ならいざ知らず、大混戦のなか。

 麾下艦隊と通信を繋ぎ。

 総司令官とのチャンネルも構え。

 そのゴーギャンから『至上命令』がくだった状況下で。

 さらに提督同士で通信をするのは、失念しても仕方ないし、パンクする。そもそも通じたかも怪しい、と。

 同情的に評する者もいる。


 ただ、歴史自身は何も語らないし、当事者に聞いたとて。


「ベストは尽くした。そのうえでもう少し、自分がうまくやれていたら」


 それ以上の答えは、存在しないだろう。






「艦長! 敵艦隊残党、撤退していきます!」

「そう。てっきり『提督の仇!』って袋叩きにあうんじゃないかと」


 もしそうなっていたら。

 実際問題、『陽気な(BANANA)集まり(CLUB)』は危なかった。

 実質は敵艦を一隻沈めただけ。包囲と制圧射撃は健在と言わざるを得ない。

 中破状態の艦では、二度三度いなせるものでもなかっただろう。


「そこを引きあげるとは、(やっこ)さんら冷静ですな」

「もしくはあらかじめ、『オレがやられたら引きあげろ!』とか言われてたか、ね」


 かといって、その事実を大っぴらに認めて士気を下げたくもない。

 艦長と副官が敵を評するモードに入っているのは、決してミスの隠蔽ではない。たぶん、おそらく、Maybe。


「レーダーに感あり! 4時の方向、敵艦隊です!」

「おかわりなんか注文してないわよっ!」


 エレの報告に思わず本音の端っこが見えたシルビアだが、


「あれは、カーディナル艦隊ね」

「元帥閣下が抑えてくださったやつですね」


 離れた位置で、こちらへ向かってくることもなく撤退する艦隊。


「おそらく、同盟軍全体で撤退が決まったのでは?」

「そうみたいね」

「じゃあせっかくのケツ、ぶっ叩いてやりますか?」


 ロッホは陽気に体を揺らす。

 が、一転。


「と言いたいとこだが」

「息切れでしょう?」

「だな。バナナ食わせてくれ」

「ま、そもそも。向こうが全体命令で退いてるんだから。こちらも追撃は追加注文を待つべきだわ。出された分はしっかり食べたことだし」


 デザートを注文するかどうかは、その人によるものだ。






「元帥閣下! 敵、左翼及び右翼艦隊も撤退しているとの報告が!」

「なるほど」


 皇国宇宙連合艦隊旗艦『稼ぎ頭(キルオーナー)』艦橋内。

 艦長席のデスクにて、コズロフを中心に計4名の将校が腕を組んでいたところ。


「連中が互角の状態で勝負を投げた理由、見えてきましたな」

「ふむ」

「左右での戦況が悪く、全体で見て退かざるを得なかったのでしょう」

「3対1にされる可能性が出ますからな」

「もしくは……」


 元帥閣下は腕を組んだまま、モニターへ目を向ける。


 そこには、敵艦隊を追撃し、次々と前へ出る味方艦隊。

 その向こうには、甚大な被害を出しながらも撤退する敵艦隊がいるのだろう。

 背後を突かれるリスクと天秤に掛けても、撤退を選ぶ理由があるのだろう。



「『サルガッソー』……。引き込みたいのかもしれんな」



 メインディッシュは、そこのはずなのだから。


 静かに、落ち着いた低い声だったが。

 それでも将校たちに緊張が走る。

 勝勢に沸くクルーたちも肩が強張る。


「で、では、どうしますか? 追撃は切り上げるのも手かもしれません」


 将校の一人がおずおずと切り出す。

 単純に恐怖もあろうし、敢闘精神を疑われるのも嫌だったのだろう。

 逆に言えば、臆病者の(そし)りを恐れず言い出した彼は勇気がある。


 対するコズロフは大樹のように。彼はどこまでも泰然自若なのである。


「だが、我々はステラステラ攻略のためにここにいる。あれはいつか通らねばならんだろう。残骸を一つ一つ取り除くわけにもいくまい」

「ぎっ、御意!」


 コズロフは拳を握る。

 彼にも少し怖れる気持ちがあるのか。

 それとも、


「対策はすでに伝えているとおりだ。目視に頼るな。敵が残骸に紛れて逃げ回ろうとしたり、ゲリラ戦法を採ろうとも。熱源で探知すれば見分けはつく」


 やはり、彼の心にあるものはこれなのかもしれない。

 握り拳が開かれ、力強く前方へ。カーチャに限らず、とかく指揮官とはこのポーズを好むのだろうか。



「やつらご自慢の『サルガッソー』を踏破(とうは)し! 艦隊も徹底的に叩く! このまま勝負を着けるぞ! チナワットの弔い合戦だ!!」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

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