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第228話 オープンリーチ

「ふぅ」


 一仕事終えたように息をつく元帥閣下だが。

 イルミは早速噛み付いていく。


「ふぅじゃない! おまえなぁ!」

「おいおいミッチェル少将。おまえは関心しないなぁ」

「今さら()()()()()な! 退却ではなく突撃だと!?」

「おや、勝てないと思うかい?」

「そうじゃない!」


 それもないとは言わないが。

 彼女はすがるように相手の両肩へ手を置いた。

 イルミにとって何が大事なのか。

 なんのために戦っているのか。



「戦闘して、揺れて! 傷が開いたらどうするんだ!!」



 目が潤みでもしたら恥ずかしい。

 隠すように激しく吠え立てると、


「だからこそ、ね。早く帰ってちゃんとした手術受けないとだから」


 バーンズワースはその手を取り、優しく諭すような声で答える。

 迂闊にも彼女がドキッとした隙に、彼はするりと抜け出し階下へ向かう。


「そのためにも、連中さっさと倒しちまおう。指揮は任せるからさ、頼んだよ? お手並み拝見」

「あっ」


 そのまま彼は通信手の一人に席を譲ってもらうと、こちらを向いてニコニコ。


「勝手に突撃と決めておいてあとは丸投げだと!? あんまりじゃないか!?」


 イルミも照れ隠しに吠えつつ、


「だがまぁ、どうせすることは()()()()だからな」


 もう一度愛しい男を守るため、目の前に集中する。


「艦隊、よく聞け!」



 そんな凛々しい副官の姿を見つつ。


「ねぇ君」

「はっ」


 閣下は隣の通信手に話し掛ける。


「相手はイーロイ・ガルシアだけどさ。艦隊はカメーネとモネータ、つまりは味方だろ?」

「はい」

「つまり、通信コードはバンクに入ってるわけだ」

「おっしゃるとおりです」

「ふうん」


 彼はイタズラっぽく首を傾げると、



「じゃあさ、悪いんだけどさ」



 素直に丸投げすらしてくれない、厄介な上司である。






「ようやく火ぃついたか」


 一転『戦士たれ(ビーファイター)』。

 艦長席の横で立っていたガルシアだが、今はデスクの前へ出ている。


「これこそ、オレらがよく知ってるエポナ艦隊よぉ」


 モニターを睨む彼の声は、静かに熱を高めていく。


「うれしそうですな?」

「まさか。最悪よぉ」


 ザハへの返事は、たしかにプラスの感情とは違うニュアンスである。

 が、文面と裏腹、特別困った様子もない。


「だとしても、だ。こっちの優勢にゃ変わりねぇし、負ける要素もねぇ」


 なんなら腕組みが解かれ、握り拳が有り余る気力震えながら顔の前まで。



「むしろ逃げられるより勝負が(はえ)ぇ! 一気に叩き潰すぞ!!」



 ガルシアが賽を投げたその時、



「提督閣下! 敵艦隊より通信!!」



「なにっ?」


 通信手より、珍妙な報告が入る。

 あまりにも唐突で不可解ゆえに、なんならピンチの時より焦った声である。


「このタイミングでだぁ? 手袋投げ付けるにゃ(おせ)ぇぞ」

「投降でしょうか?」


 隣でザハが呟くが、指揮官は一蹴する。


「銃突き付けながら『まいりました』って言うやつがいるかよ」

「当艦への固有シグナルではなく、カメーネ・モネータ両艦隊に向けられています!」

「はぁ!?」


 ますます意図が分からなくなったガルシア。

 思わずお目付け役の方を振り返る。

 単純に困ったのか、もしくは皇国軍特有の何かとでも思ったのか。

 しかし残念ながら、ザハもこんなイレギュラーに答えは持ち合わせていない。

 言葉もなく首を左右へ振るしかない。


 数秒、下唇の付け根に親指を立てて考える指揮官だったが、


「まぁいい。繋いでみろ」

「はっ!」


 まずは応じて、そこから適切に対処すべきと考えたのだろう。

 なんなら艦隊全体に向けて発信されているのだ。

 反射的に応じてしまった艦もあるだろう。

 そこと旗艦とで、持っている情報に妙な差があるのは好ましくない。


 ややあって、スピーカーから流れてきたのは、



『いいか! もはや陣形を組んだりはするまい! 各自突撃し奮戦せよ! 十八番(おはこ)の「当たるを幸い」だ! いいな!』



「おい、こりゃあ」

「なんぞの交渉やあいさつではありませんでしたな」


 キビキビとした、低めの女性の声。


「指揮が筒抜けじゃねぇか」

「しかも全体へ向けて指示を飛ばしています。これは旗艦『勇猛なるトルコ兵(ワイルドターキッシュ)』のものでは?」

「どういうこったい」


 親指を唇へ添えていたガルシアだったが、人差し指に歯を立てはじめる。


「内通者、でしょうか?」

「にしたって、もちっと賢いやり方があらぁなぁ。ただ味方を負けさせるんじゃ、自分も巻き添えだぜ。こっちから『死んでも情報送れ』ってスパイ放り込んだ、なんて話は」

「聞いていませんね」

「てこた、なんらか向こうの目論見である公算が高い」


 仁王立ちだった彼も、一旦デスクへ腰を下ろす。椅子には座らない。


「敵艦隊被害、10パーセントを越えました!」


 誇らしげな報告すら、その悩む眉間を開かせられない。


「このままやってりゃこっちが勝てる。からには、向こうのも何か手を打っての()()なはずだ。何がしたい、エポナ艦隊」

「提督閣下! こちらの被害、5パーセント突破! 尋常ではないペースで増加しています!」

「わざわざ手の内を聞かせて、言われるまでもねぇ突撃を念押しして。やつらはいったい何を得る?」


 普段は少しガサツですらありそうな好青年、といった感じのガルシアが。

 なかなか神経質そうに軍帽の座りを整える。


「この情報で、やつらは何がしたい? いや、オレたちにどうさせたい? どうされたくない?」


 そこへ焦りを煽るように、


「被害6パーセント突破!」

「数では有利ですが、ダメージレースでは追い付かれそうですな」


 目的が見えない通信とは別方面から、不利な情報が重ねられていく。

 しかし、



「そうか! そういうことか!」



「閣下!?」


 逆境でこそ活力を得るがゆえの、若くして提督という立ち場なのかもしれない。



「読めたぞ! 連中の狙いが!」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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