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第154話 また別の頂点へ

「がんばったのは私よ?」


 戴冠式のあと。

 夜のパーティーまでの空き時間に、シルビアはリータの部屋でグチグチ。

 まぁ仕方ない。


 今度こそは思っていた、その手につかむにも指先まで触れていた野望。

『皇帝の座』は結局お預けになってしまったのだから。


 もちろん、ショーンの末路に対する後ろ暗い気持ち。

 それが尾を引いていて、この栄光を素直に喜べないものにした側面はある。

 それでもやはり、クロエの感謝にうまく応えられなかったのには


「なのにノーマンて! ケイどころかそのお尻に抱き付いて震えてたノーマンて!」

「しーっ。不敬罪ですよ」


 納得いかない側面が強いようだ。

 ちなみにそう(のたま)う彼女は、ベッドの上で少女の膝枕にスリスリ。人のこと言えたもんじゃない。


「なーによー。やっぱ男性優位? この時代にジェンダー論進んでないんじゃないの?」

『政治力の差だろうねぇ』

「ひっ!?」


 急にドアの向こうから声がして、シルビアは飛び上がる。

 さっきまでの発言が人に聞かれていたら、とんでもないことである。

 というか、返事の流れ的に聞かれている。

 彼女が退()いたことでフリーになったリータがドアを開けると、


「こればっかりは仕方ないね。入っていい?」

「どうぞ」

「気持ちは分かりますが、滅多なことを言うものではありません」


 いたのはカーチャとイルミ。

 このメンツならまだセーフか。


 とは言え肝が冷えたシルビアは黙り込んだので、代わりにリータが話を進める。


「ノーマン殿下、ん、陛下の政治力、ですか」

「というよりは、近く正式にご成婚される、クロエ閣下でしょう」


 イルミは答えながら、デスクの椅子を「お借りしても?」と引っ張る。


「よろしいですけど、今日くらい敬語やめませんか?」

「しかし階級として」

「まぁいいじゃん。この場はオフレコ。ミッチェル少将が上官に砕けた口調でしゃべるのも。バーナードちゃんのさっきの発言も」

「聞かれてた!」


 シルビアの青ざめる姿に少し和んだのだろう。

 イルミもそれ以上は反対しなかった。

 それはそれとして、カーチャが話を続ける。


「先代ニコラウス・シーガー卿の政治基盤。本人の社交界の華としての人望。誰を皇帝として戴きたいかより、彼女を国母として仕えたいってことだろう」

「つまり中央から追放されて、遠く戦場で()()()()()()シルビアさまにはノーチャンスと」

「もうちょっとマシな表現あるでしょ!」


 動詞の是非は別にしても。

 事実として、先帝ショーンとの戦いは軍事力より人望が勝負を分けた。

 実力でのし上がってみせると思っていたシルビアだが。

 力があれば全て手に入るわけではないと証明したのも、彼女自身なのだ。


「24世紀のダイアナだねぇ」


 カーチャが感嘆のため息を漏らす。

 ゲームが作られた時代のおかげか。過去を例えに出す時、シルビアも知っている範囲が多いのは助かる。


「それにバーナードちゃんやロカンタンちゃんといい。新人類の世代なのかね。私らギリ23世紀世代にゃ、ついて行けんよ」


 なんだか老人みたいなことを言い出した20代。


「閣下、そういう話はちょっと」


 イルミが居心地悪そうに小声を出すと、


「今が24年でしょ? 私は2月で26んなったけど、ミチ姉はどうなの?」


 カーチャは意地悪そうに肘でつつく。


「10月でさっ……!」

「さ?」


 咄嗟に返事し、咄嗟に言葉を区切った彼女へ、


「さとう?」


 15の迫るリータがポソッと。

 そこにすかさず元帥が追撃。


「しお?」

「す?」

「せうゆ?」



「「……三十路(みそじ)?」」



「ですっ!!」



「よう言うた! いいオンナ!」

「いよっ、食べ頃っ!」

「やめて……やめて……」


 シルビアそっちのけ、熟したミチ姉で盛り上がるメンツ。


 何よ、私を励ましに来たんじゃないわけ!?


 実はミチ姉と同じ10月に22の彼女が、リータの太ももからブスッとした顔を覗かせると。

 そんな姿を少し哀れんでくれたのか。

 カーチャは笑いながらシルビアの肩を叩く。


「その代わりっちゃ()()だけどさ? 明日、ぬたくってた我々にふさわしい論功行賞 (ろんこうこうしょう)があるからさ? また出世じゃん。よかったじゃん」

「はぁ、まぁ」

「私なんかもう、元帥だから出世しないんだぜ? うらやましいねぇ」

「はぁ、まぁ」

「ま、最初こそ自分メインで声明出しましたけど。そのあとの動きは大体甲斐甲斐しい家臣でしたしね。家臣としての出世が妥当でしょう」

「ぐっ!」

「ロカンタンちゃんって、時々味方か分からなくなるよな」






 翌日、昼頃。今度は中継されないので、普通に大広間にて。

 ノーマンは壇上にて、用意された原稿を読む。


「シルビア・マチルダ・バーナード少将」


 その下、レッドカーペットで脱帽、胸に手を当てているのが、


「はっ」


 シルビアである。


「このたびの殊勲は、なんといっても貴官である」

「光栄です」

「その功績の一つたる、貴官が破ったイワン・ヴァシリ・コズロフ元帥だが」


 一瞬、ノーマンの息を飲む気配が伝わる。



「しばらく行方が知れなかったが。どうやら同盟へ亡命したらしい」



 同盟、ね。


 あのプライドが高い閣下が、横槍を入れてきた同盟に身を寄せる。

 正直意外ではあったが、


 よかった。生きていらっしゃったのね。


 恩あるシルビアとしては、素直にうれしい。

 逆にノーマンは、一大の英傑が敵に回ったことへ不安を覚えているようだが。


 しかし、ここ数日の演説ラッシュで、彼も少し肝が座ったのかもしれない。

 気分はさておき、今するべき話を進める。


「よって現在、元帥が一名空位となっている。もちろんその数に満たさなければならない規定などはないが」


 話が読めてくるとともに、彼女の体に我知らず力が入る。

 居並ぶ人々の視線が集まるのを感じる。



「そこで、貴官には今回の功績を踏まえ。新たに元帥の任を拝命してもらいたい」



「はっ!」


 降り注ぐ万雷の拍手。

 しかしそれは皇帝の妨げとならぬよう、きっかり3秒で鳴り止む。


「頼めるな?」

「御意」

「よろしい。ではそれに伴い、異例ではあるが貴官は少将から上級大将へ昇進」


 ま、皇帝になれないんなら、それくらいの便宜はあってもいいわよね?


 シルビアが頭とは裏腹、神妙な面持(おもも)ちをしていると。

 ノーマンの一段下に控えていたバーンズワースが、奥のイルミから盆を受け取る。


 あれって。


 見覚えがある。

 初めて艦隊司令官に任じられた時、コズロフから受け取った……


 彼がこちらへ歩み寄る中、皇帝陛下のお言葉が続く。


「リーベルタース方面派遣艦隊司令に任じられたところ()()ではあるが。元帥となったからには、中核艦隊の指揮を取り、同盟の中でも強敵と当たってもらいたい」


 盆の上には。

 深緑の裏地、新しい軍帽と軍服、マントが。



「よって貴官には、皇国宇宙軍ユースティティア方面派遣艦隊へ移動してもらいたい」



「シルビア・マチルダ・バーナード、拝命いたしました」

「おめでとう」

「ありがとうございます」

「もう同格の身さ。そう(かしこ)まることもない」

「あらやだ閣下」


 頭を下げ、バーンズワースから盆を受け取りながら。


「……ユースティティア」


 彼女は口の中で、小さく噛み締めた。


 その脳裏に、シニヨンの後ろ姿が浮かぶ。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

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