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第123話 おそらく歴史的スピーチ

 2324年4月6日。

 時計は午前10時20分だが、宇宙に朝も夜もない。

 飲み込むような暗闇の中を行くのは、皇国軍戦艦『港町の眺め(ボルチモアビュー)』。

 現在は艦長の新たな任地である、フォルトゥーナへと向かっているところ。

 ちなみに太陽系に存在する小惑星とは別物である。

 本来はシルヴァヌス艦隊所属の艦だが、指揮官のご好意で移動の足に借りている。



 その艦長室にシルビアは潜んでいた。

 隣にはリータもいる。

 可能なかぎり人目につかないよう、セキュリティも艦内最高の条件で。


「心配だわ」


 ベッドに腰掛け、リータを背中から包み込むようにしながら。

 彼女の声は状況と裏腹だった。


「何についてでしょうか?」

「今はあなたが守ってくれてるし、誰が敵か分からないなら隠れててもいい。でも、リーベルタースに着いたらそうはいかないわ」


 気持ちを誤魔化すように、少女の小さな手を弄ぶ。

 その人刺し指を捕まえて、リータはぎゅっと握る。


「大丈夫ですよ」


 シルビアには後頭部しか見えないが、微笑んでいるのが雰囲気で分かる。


「私だって、出会ってすぐあなたと仲良くなって、運命をともにしてきました。同盟の方とも、親友になれたんでしょう?」

「それは、そうね」

「なら大丈夫。どこに行っても、あなたを助けてくれる人が必ずいます。あとはそれに気付いて、自分からも相手に応えるだけ」

「そう、ね」


 他ならぬリータに言われて、深く心に沁みる。


 今まで、こうして彼女が支えとなってきたことはいくらでもある。

 言葉でも、行動でも、存在でも。


 だが。



 少し大人に、なったわね。


 なっていっちゃうのね。



 しばらく会わなくて、再会で感じた瞬間から。

 シルビアは気付いてしまった。目を逸せなくなってしまった。


「でもそこは官職捨てても駆け落ちしてくれる流れでしょ〜!?」

「無茶苦茶言う!」


 それでも今は、分かったうえで上塗りする。

 いつか決定的な現実が来るなら、それまでは立ち向かわない権利もあるはずだ。

 まだ小さい体を抱き締め揺すっていると、


 デスクの上の、パソコンのように設置された端末の通知が光る。


「あぁ、もうすぐでしたか」

「なんだっけ。『全国民は国営放送必ず見ろ』って勅命が出てるんだっけ」

「えぇ。なんでも皇帝陛下の演説があるとかで」


 シルビアの拘束から飛び出し、デスクへ向かうリータ。自分の部屋なのに椅子を勧めてくれる。

 さすがに申し訳ないので座らせつつ、肩に手を置いて画面を覗くと。


 画面には前世にニュースで見たような台が用意されている。

 ちょうどアメリカ大統領とかイギリス国王のスピーチみたいな。


『ご覧のように会場は、貴族や政府高官、メディア関係者が詰めかけています』


「こういうの、ちょっとワクワクするわよね」

「強制視聴の時はロクなことないですけどね」


 育った世界の温度差がある会話をしていると、


『皇帝陛下一団、ご入場です!』


「あっ、始まりますね」


 男性アナウンサーの声とともに、まず露払いの政府高官が数人入場する。

 その列に続き、登壇したのは


「むっ!」

「これは!?」



『諸君。本日は忙しいなかお集まりいただき感謝する。第二皇子、ショーン・サイモン・バーナードである』



『どういうことでしょう! 事前の告知では皇帝陛下の演説となっていましたが、現れたのはショーン殿下です! 陛下のお姿はありません!』


 忌々しい涼しげなオールバック。

 会場はざわつき、アナウンサーも少し動揺している。


「こいつ、今度は何よ! 毎度毎度意味不明な!」

「静かにっ!」


 リータがシルビアの口に手のひらを押し付け物理的に黙らせると。

 画面のショーンは背筋を伸ばす。見た目だけなら爽やかなものである。


『本日は全皇国臣民の皆さまに、お伝えしなければならないことがある。非常に重大で、国家の基幹根幹に関わることである。心して聞いてほしい』


 そこまで言われるとリポートが仕事のアナウンサーも、固唾を飲んで見守る。

 ショーンアンチ第四皇女とて、さすがに言葉の続きを待つ。


『また、このことについて。皇室より正式な発表をするまで情報統制に協力してくれたメディア各位。心から感謝申し上げる』


『えっ』というアナウンサーの呟き。

 どうやら関係者でも末端は知らされないくらいの秘匿だったらしい。

 時にはルールや倫理を破ってもスクープを届ける。それこそがプライドのメディアが、である。

 その事実が感じさせる重大さと、もったいぶられる焦り。

 高まる注目を確かめるように頷いたショーンは、深呼吸し、一段声を張る。



『さる4月1日。皇帝陛下は崩御なされた』



「はっ?」

「えっ?」

『なんということでしょう!?』



『我が兄、皇太子であるダニエレ・ジュスト・バーナードもまた。同日この世を去った』



『ええっ!!??』


 今度は間髪入れず。

 思わず叫んだアナウンサーが、叱られたのか画面の外へ頭を下げる。

 が仕方ない。


 何せ中身は血族ではなく、世界の住人としての愛着もないシルビアですら。

 開いた口が塞がらない。

 今発表されたことがどれだけの出来事か。OLと軍人しかしていない彼女にも分かる。


 彼女だけではない。

 全皇国人の、あるいは抜けた、あるいは大きな驚きの声を。


 全身に、どこか心地良さそうにすら受けていたショーンだが。

 たっぷりの間合いののち、深呼吸を一つ。

 先ほどまでの淡々とした報告とは打って変わり、全身に力を漲らせる。



『全ては、卑劣なるクーデター犯の凶弾によるものである!!』



「なんですって!?」


 衝撃が、事態の大きさが(とど)まるところを知らない。

 デスクの電話がなり、リータが画面から目を離さずに応じる。


「はい!」

『艦長!!』

「分かりました、すぐ行きます」


 受話器を置くと、彼女は立ち上がる。


「どこ行くの?」

「艦橋の動揺が酷いようなので」

「待って! 私も行くわ!」

「隠れるんじゃなかったんですか」

「この状況で一人にしないでちょうだい!?」


 どうせみんな中継に夢中だろう。隅で隠れていれば見つかるまい。

 シルビアも慌ててリータを追いかける。






「艦長!」

「しーっ」


 当然、移動の合間にも演説は進んでいる。

 艦橋に飛び込んだ瞬間叩き付けられたのは、



『ゆえに、私は今日この場で正式に、皇帝への即位を宣言し! その最初の勅命として、


 首謀者第六皇子ノーマン・ライアン・バーナード!



 及び逃亡を手助けした第五皇女ケイ・アレッサンドラ・バーナード!



 両名の捕縛令を布告する!!』



「えっ」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

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