文豪
着物をややラフに着崩した竜之介は、文机の上に原稿用紙を広げた。
昭和の風情をふんだんに残した宿の部屋の窓からは、千曲川の流れが見下ろせる。
愛用の万年筆が、原稿用紙の上を滑り始める。
* * *
舞台は、荒れ果てた倉庫。薄暗い明かりがそこに漂う。ジョン・ブレイドは、冷たい鉄の拳銃を手に、敵対するギャングの一団と対峙している。
ブレイドは冷徹な目をして、敵のボスに向かって言う。
「君たちのゲームはもう終わりだ。ここで俺が勝つしかない。」
ボスは冷笑し、部下たちに合図を送る。突然、銃声が響き、銃弾がブレイドに飛び交う。
しかし、ブレイドは冷静に反応し、身をかわしつつ的確に銃撃を加える。彼の動きは俊敏で、まるで猛獣のように敵を狩り立てる。
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何年も人から忘れ去られていた廃墟のように、荒れ果てた倉庫。
薄暗い明かりが成仏できない幽霊のようにそこに漂う。
ジョン・ブレイドは冷たい鉄の拳銃を手に、敵対するギャングの一団と対峙していた。
「君たちのゲームはもう終わりだ。ここで俺に勝つことはできない。」
ブレイドは冷徹な目をして、炎さえ凍らせるブリザードのような声で敵のボスに向かって言う。
ボスは鼻を鳴らして冷笑した。
ポケットから片手を出し、親指を下に向けて部下たちに合図を送る。
薄暗い倉庫の中に銃声が響き、無数の銃弾がブレイドに向かって飛ぶ。
しかし、加速装置を持つブレイドは冷静だ。
弾道に反応し、身をかわしつつ的確に敵に銃撃を加えてゆく。
躍動する彼の動きは俊敏で、まるでサバンナの美しい猛獣のようであった。
「まあ、こんなところか。」
静かな街の片隅にある小さなカフェ。夕暮れ時で、外の景色はオレンジ色に染まっている。カウンターの隅には、ひとりの女性が座っている。彼女の名前はエミリー。彼女はコーヒーカップを手に持ち、窓の外を見つめている。
そのとき、カフェのドアが開き、若い男性が入ってくる。彼の名前はジェイク。彼はカウンターに向かい、エミリーの隣に座る。
「こんにちは。」
エミリーは彼に微笑み返す。
「こんにちは。」
ジェイクは彼女の顔を見て、瞬間的に彼女の悲しみを感じ取る。彼女の目には、何か過去の傷跡が残っているようだった。
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静かな街の片隅にある小さなカフェ。
夕暮れの街の風景はオレンジ色に染まっている。
カウンターの隅に、ひとりの女。
カジュアルなパーカーワンピースに栗色の髪をはらりと流れさせた彼女の名はエミリー。
コーヒーカップを片手に持ち、肘をついて窓の外を見つめている。
そんな時だった。カフェのドアを開けて若い刑事ジェイクが入ってきたのは。
彼はカウンターに向かい、エミリーの隣に座った。
「やあ。」
エミリーも彼に微笑み返す。
「ハイ。」
ジェイクはその微笑みを見て、直感的に彼女の中の悲しみを感じ取った。
彼女の目には、何か過去の傷跡が残っているように見えたのだ。
「ふう。これならOK出そうかな。」
竜之介は端末を仕事モードからプライベートモードに切り替えた。
味付け屋。
竜之介の仕事である。
AIが小説を書くようになって久しい。
膨大なデータから学ぶAIの書く小説は、プロットといい設定といい、人間の作家が努力で追いつける領域をはるかに超えて、新しい小説を量産し続けていた。
当然のことだが、量産品はある種の均質化を免れない。
AIはさらにそれを学習して生成してゆくから、皆同じようなテイストになってゆきやすい。
そんな中で、人間に残された最後の領域が、独特の言い回しや比喩表現を付加して目新しさを出す「添削作家」の仕事だった。
通称「味付け屋」。
それでさえ、一定期間を過ぎれば消費され尽くしてしまって消えてゆく。
10年ほど前、添削作家として一世を風靡したAjuも5年ほど前からは名前も聞かない。
コテコテの比喩表現で頑張っている幕田なんかは、わりに息が長いが、しかしあいつもやがてはAIに学習されて消えてゆくだろう。
そういう竜之介だっていつまで保つか分からない。
* * *
そんな不安とストレスを癒すために、竜之介は週末になるとここにやってくる。
原稿用紙に数行を書いたところで、竜之介の筆は止まった。
AIを出し抜けるような文才なんてあるわけがない。所詮、人間なのだ。
ものを書いて生きてゆきたいと思ったのは、いつのことだっただろうか・・・?
窓の外の千曲川を眺める。
金属の風鈴のようなきれいな音の曲が流れて、チェックアウトの時間がきたことを竜之介に知らせた。
このヒーリングミュージックだって、今はAIの作曲、演奏だ。
千曲川の見える窓も、昭和風のインテリアも消えて、立体画像を映し出す淡いブルーの壁に戻った。
セッティングされた畳と文机を名残惜しそうに眺めながら、竜之介は立ち上がった。
明日からまた仕事だ。
いつ消費され尽くすか分からない不安定な「仕事」のストレスを癒すために、竜之介はこの施設に毎週末やってくる。
ひと時でも「文豪」の気分を味わうために——。
活動報告の予告みたいにAI部分50%超にはなりませんでした。(^^;)
けっこう自分で書いてしまいました。
ご安心ください。
現時点でAIの書く「小説」は、とても小説と呼べるようなシロモノではないと思います。
・・・・少なくとも・・・現時点、では・・・ですが。 (やっぱりホラーだ)