2.カンザス第一有色人歩兵連隊
夕食はとうの昔に終えているのに、未だテントに戻る様子はなく、焚き火を囲んで歌を歌い、手拍子に合わせて踊り、一際賑やかさを見せる有色人歩兵連隊。
元々がそういう人種なのか、何世代にも渡って受け継がれる体内に流れる血がそうさせるのか、何時も明るく賑やかな歩兵連隊だった。独特の言い回しやリズムで、面白おかしく弾ませる会話からは、自然と一体感を生み出し、出会ったばかりにもかかわらず、昔から知っているような、そんな錯覚を見せてくれる。とはいえ、いざ戦闘が始まると、多種多彩な民族の中でも、特に有色人種は優れた体格と身体能力を持っている人種と言われるのも納得できる程に強く、与えられた武器を器用に扱い、圧倒的な戦闘力を他に見せつけていた。
「もうそろそろ寝ようぜ」
一息吐いた頃に誰かが言う。
「明日、出陣だろ?」
「あー、そうだっけ?」
「今更何言ってんだよ~」
「頭のネジ、緩ませすぎじゃねーか?」
一斉にドッと笑いが起こる。
「今寝とかねーと、戦闘中に眠っちまって、そのまま一生オネンネしちまうぞ」
「ある意味それって幸せじゃねー?」
「ばっか、誰が死体片付けんだよ」
「お前のバカデカい図体なら、一週間くらいでハイエナが骨までしゃぶってきれいに片付けてくれんじゃね?」
「ここ、ハイエナいねーし」
「んじゃー……コンドルか?」
「知らねーよ、っつーか何に喰われよーがどーでもいーんじゃね? どうせ死んでんだからよ~」
「まだ死んでねーから!」
また笑いが起きる。
「ま、そーならないよう寝ようぜ。次の宴は明日の戦いが終わってからな」
「そーだな」
「へーい」
言いながらそれぞれのテントへと戻っていく。焚き火の周りに残っているのは、見張り役の数人だけ。
「アイツ、ちゃんと起きてくるかなぁ……」
「来なかったら俺が叩き起こしに行ってやるよ」
「お前の方は?」
「あー、同じテントだから、来なかったら交代ついでに起こしてくる」
そんな会話をしながら、何気なく焚き火の炎を見つめていた。ゆらゆらと揺れるオレンジ色の炎は、不規則な動きで辺りを照らしている。炎から視線を外し、空を見上げると、真っ暗な闇が一面に広がっていた。
どこで見ても変わらない大きな空の下に居る自分が、どれだけ小さいのか知らしめられる。
「なぁ……」
「ん?」
鼻歌混じりに答える。
「どうなんだろーな」
「何が?」
「戦争」
「あぁ?」
バカにしたような声で聞いてくる。
「どうなるかわかってたら戦争なんかしてねーよ」
「そりゃそーだ」
足元に転がる小枝を拾い、焚き火へと投げ込む。
「誰が好き好んで戦争なんかすんだよ」
「んじゃお前は何で戦争してんだ?」
「俺? 俺は……」
「自由になる為だろ?」
「そうそう」
真っ暗な夜空を見上げる。
「俺達は先祖さんの代からずーっと騙されてきて、ずーっと奴隷として扱われてたんだ。そんな俺達を自由にするって戦争だろ?」
「そんな転機に立ち会えるって、すげーことじゃね?」
「命がけで?」
「命がけじゃねーと手に入んねーくらいすげーお宝みたいなもんだろ? 自由って」
「そうだな」
頭が良いのか悪いのかわからない会話が続く。
「ま、とりあえず俺達は大佐殿の指示に従ってればいーんじゃねーの?」
「まーな」
「敵さん達の情報、こっちに漏れ漏れって話だし」
「あー、そーらしーね」
ククっと笑う。
「これで負けたら、よっぽど俺達ってバカってこと」
「そりゃやべーな」
「末代まで笑われちまう」
「恥ずかしくて生きてけねーよ」
「生きてたらいーけどな」
「おいおい、そりゃねーって」
そんなくだらない会話で、見張りという名の座談会は、ひっそりと盛り上がりを見せていた。一人の大柄……いや、皆大柄だが、中でも特に大柄な男が立ち上がる。
「ちょっと小便」
「おう、ついでにデカいのもしてきていーぞ」
「しねーよ」
「ごゆっくり~」
仲間に背を向け、ひらひらと手を振りながら、歩き始めた。どのテントも静か……ではなく、鼾の合唱があちらこちらから聞こえていた。テント群から外れ、灯りも見えなくなると、真っ暗な筈の夜空がうっすらと明るいのに気づく。見上げると、針金みたいに細い月がニヤリと笑うように浮かんでいるのに気づく。
薄気味悪い月の姿に、早々に用を済ませて戻ろうと思った大男は、早足で木々の奥へと飛び込んで行った。
アフリカ系アメリカ人部隊はこんな感じのノリかなぁ…
という妄想のお話です