33 中途半端な記憶
青銅色の髪、青銅色の瞳――。
そして、申し訳なさそうな微笑み。
(守るものがあると、選択肢は狭まるものだな……)
カイザークの剣がレアラードの脇腹を貫く。
振り向きざまの一閃を、自分の剣の腕前と相手自身に全幅の信頼を置いていたレアラードは止められるはずもなかった。
(血迷ったか、カイザーク!)
(何の真似だ!)
仲間たちが、驚く。
(まさか今になって『よりしろ』の力が惜しくなったか)
(異世界にこれ以上の干渉を許せば、この世界が危険なのは知っているだろう)
(我々のような存在を今後作り出してはいけないのだ!)
(この儀式の発案者たるおまえが、何を考えている‼)
居合わせた者たちが、口々にカイザークを攻めた。
しかしレアラードは、ただ自分を斬った兄の顔を見つめることしかできなかった。彼は唯一の家族であり、長いこと生き別れていたのをついに探し出し、救い出してくれた恩人であった。
これが走馬灯というものなのか、レアラードの頭の中にはこれまでの数年間、共に旅をしてきた思い出がいくつも浮かび上がってくる。
初めて見る海の雄大さ、冷たさ、塩辛さを笑いながら教える兄。
広大な森や不思議な地下の遺跡群を巡る冒険者の兄。
読み書きを教えてくれる教師としての兄。
各地で繰り広げられている戦争をくぐり抜けながら、志を共にする者たちを束ねていく兄。
神殿に監禁され、生きる希望を見いだせなくなっていたレアラードの前に現れた兄は、様々な姿で彼女に世界をすべて見せてくれた。
信じられない思いが一粒の涙となってレアラード銀色の瞳からこぼれる。
その切ない視線をまともに受け止めても、カイザークはただ申し訳なさそうに微笑んだ。
(兄さん……なんで、裏切っ……)
(レアラード、今すぐ回復魔法を使うんだ)
剣を収めながらカイザークは落ち着いた声で諭す。
言われるまでもなく、血の気がどんどん引いていくのがレアラード自身でわかる。だが、今魔法を使うわけにはいかなかった。この場にいる者たちの魔力のすべては今、儀式に集中させていた。
(儀式がそんなに大事か)
紙のような顔色になっていくレアラードを見下ろして、カイザークは彼女へ向けてか、儀式を止めようとしない仲間たちに向けてかぽつりと呟いた。
(兄さ……)
レアラードの意識はそこで途絶えた。
最後に見たのは兄の冷たく冴えわたった表情だった。それは、それまですべてにおいて彼女を助けてくれていた人物と同一のものとは思えない冷酷さに満ちていた。
そして――その後何が起こったのか説明してくれる人は存在しない。




