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24 四十年前
母を呼ぶ悲痛な叫び声が響き渡る。まだ幼さの残る、少年の声だ。
聞いて、顔を上げた女の姿があった。
距離がある。
少年は高く、主塔の上に。
女は低く、練兵場の中央に。
女の視線がさまよう。
彼女の体は兵士三人がかりで取り押さえられている。自由がきかない。
「母上!」
ようやく、それがどの方角からのものか理解したらしく、彼女は大きく振り仰ぐ。
だが、彼女の瞳が息子を捉えるより早く、その首は胴と別れた。
悲鳴がほとばしる。少年の口から。
「酷いことしやがる」
少年を取り押さえた二人の兵士のうちの一人が、歯で磨り潰すように言葉を漏らす。
母親の躯を投げ出した兵士と、同じ形の鎧だ。
いらない同情だった。
殺してやる、と思った。
もしもこの後、自分に生が許されるなら、この国の人間をすべて殺してやると。
「突き落せ!」
今度は愉快そうな声が響き渡った。
練兵場にいる、ひときわ絢爛な鎧をまとった愚鈍そうな男が、少年の母親の首を持ち上げて
「一刻も早く再会したかろう」
舌なめずりをした。
「なんで子供を殺す必要がある? 俺にはできない」
「グラン、やるしかない。王の命令だ」
左右の兵士が、互いに口の間から声を絞り出して諍う。
少年の体が狭間の端に押し付けられた。
落ちる。
空気の唸りが耳のそばを通り抜ける。
落ちる。




